第十話 バカとバストサイズって関係なくないですか!?
「困りごとですか……」
実際あまり困っていない人に困りごとを聞くと、それに回答するのが困りごとになりがちである。
しかし、ここで引き下がってはいけない。
何とかして、セルカの困りごとを聞き出して相談にまでつなげなければ、三十二時間ぶっ通しで働いた意味がなくなってしまう。何かしらの成果を摘み取らなければなるまい。
「何でもいいのよ!! もっとパーティを強くしたいとか、もっとお金が欲しいとか、彼氏が欲しいとか!!」
「おい、後半はお前の欲求だろ」
「うるさい!! 彼氏は全独身女性の根源的な悩みなの!! お兄ちゃんしかいない、この白黒の人生に花を持たせてくれるには他の王子様が必要になるに決まってるでしょ!!」
問題はその王子様が前世で現れたことがなかったということだ。
もうこの異世界に賭けるしかないのである。
セルカはしばらく考えると、困りごとをひねり出したように私たちに返答する。
「い、今はパーティメンバーとの関係も良好で、直近で大きな問題はありませんが……あ、あえて言うのなら、もっとパーティランクをあげたいな……というぐらいでしょうか」
「パーティランク?」
「はい、パーティランクです。もちろんそんなに簡単に上がらないのは承知の上ですが……」
パーティを組んだ全てに与えられる称号らしく、その称号に応じて受理できるクエストも変わってくると聞いたことがある。
酒場でバイトしているときに小耳にはさんだだけなので詳細まではあまり把握していないが、ランクが下のパーティはランクが上のパーティを「さん」付けで話しているところから、ランク間の上下関係は多少あるようだ。
「今のパーティランクはDだったか?」
「はい、今はDです。あ、お二方は異世界から来たばかりですよね。パーティランクというのは……」
「いや、大丈夫だ、おおよそ理解している」
「え? ウソ? 外に出てないお兄ちゃんが分かるわけないじゃん。……巨乳が目の前にいるからって強がらなくてもいいんだよ?」
外へ出て酒場で色々な冒険者の話を聞いている私ですら、まだこの世界で分からないことは多いのだ。
ベッドで毎日アザラシのように横たわっているだけのお兄ちゃんが、私以上にこの世界のシステムを理解しているわけがない。
Fカップを目の前にして、威厳を保ちたいから強がっているだけに決まっている。
「はあ……バカをさらけ出しているのはお前の方だ、コトミ」
「ば、バカって何よ!!」
兄は呆れた顔をして、私を見下すように見つめる。
「パーティランクはクエストの許可証みたいなものだ。EからSまでの六段階になっていて、各ランクごとに受理できるクエストがあって、上のランクに行けば行くほど受理できるクエストが増えていく。Sランクになると勇者と呼ばれるようになり、そうすれば実質全てのクエストを受けられるようになる」
すらすらとパーティランクについて説明を続けていく兄に私は唖然とする。
この知識量、まるでこの世界の学校にでも通っていたかのようだ。
「難易度が高いクエストは、高ランクパーティのみが受理できるが、報酬が高く設定されていることが多い。ただし、この世界でAランク以上のパーティは1割にも満たないといわれていて、Aランク以上に上がるのは至難の業だ。ランクを上げるには、同ランク内でクエスト成功数と成功率が相対評価されていて、他のパーティよりも多くのクエストを高い成功率でこなすことが大事になってくる」
兄の授業は止まらない。
もはやセルカですら、「へー」と言い始めている。現地人ですら理解が及んでいないトリビアまでこの兄は熟知しているようだ。
「ランクは随時評価されており、クエスト管理協会の評価部隊がそれを担っている。評価部隊は元Aランク冒険者以上から構成されていて、公平に評価することがモットーだ。ただ、元々彼らがAランク冒険者以上だったということもあり、BランクからAランクに上がるときの審査だけ異様に厳しいという噂を聞く。因みに評価部隊の主要メンバーだが……」
「一旦ここでストップしようか、お兄ちゃん。ここで設定を全部ぶちまけても、読んでる人が飽きちゃうから」
「……そうか、そうだな」
ここでブレーキをかけておかないと、それだけでこの回が終わってしまう。
別にここで全部語らなくとも、徐々にこの世界についてわかればいい。兄には申し訳ないが、ここで口を閉じてもらうことにした。
「でも、なんでお兄ちゃんこんなに知っているの? ベッドの上でニートしてただけなのに」
「……俺が無駄に本を読んでいるとでも思ってたのか、コトミ?」
「うん。思ってた」
とりあえず人生暇だから本でも読んでいたのだと、私は思いこんでいた。
この世界にはスマホもなければ、漫画もないので、仕方なく本を読んで時間を潰していたと思っていたのである。
「はあ……だからお前はAAAカップなんだよ……」
「え? おっぱい関係なくない?」
「いいか、コトミ、よく聞け」
兄は呆れた顔で私を見つめる。
「何かをアウトプットしたければ、十分にインプットしないとダメだ。この世界に来て、俺たちはこの世界のことを何も知らない。これでは俺たちは何もできない。何かしようとしても、誰かに騙されるのがオチだ」
「そ、そうだけど……」
「この世界で適切な行動をしたいのであれば、この世界のことを知らないとダメだ。お前はバイトで多少は学んでいるようだが、本で理論武装してから実務に落とし込んだほうが効率的だ。実際パーティランクの制度についても、お前よりも俺のほうが知識がある自信がある。効果的なアウトプットをするためにはまずインプットからだ。それはどこの世界に言っても同じだ」
「そ、そうね……確かにその通りかもしれないわ……でもやっぱり、AAAカップの発言は関係なかったと思うけど……」
流石経営者だった男というべきか、自らの行動を最適化する考え方には一般人のそれよりも優れている。
「で、セルカちゃんはどのランクまで上がりたいんだ?」
兄は話を本題に戻した。
やはりビジネス万なのだろう、この類の話をしている兄は「おっぱい、おっぱい!」と神輿を担いでいるときとは顔つきがまるで違う。キリっとしていて、いかにもスーツが似合いそうな雰囲気を醸し出していた。
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