第四話 魔法特価型のパーティって偏りすぎじゃないですか!?
一体この兄は何目線なのだろうか。
女性が恥を惜しんでカップ数を教えてくれたのだから、男性は頭を垂れて靴の一つや二つなめてきれいにするのが筋であるはずなのに、この兄は何を根拠にこんなに上から目線でいられるのだろうか。
金もあって、権力もあって、顔もあるのに女性だけに恵まれなかったのは、この兄の変態さぶりが理由だ。
「え、あ、そ、そうでした。相談しに来たんでした……」
相談者は自分が相談者であることを忘れかけてしまっていたようだ。
兄がバストサイズを聞いてしまったせいで、相談者の脳がパンクしてしまったのだろう。責任は全面的にこっち側にある。
「実は私はパーティを組んでいるんです……。私を含めて黒魔導士が三人、白魔導士が二人という魔導士特化のパーティで、私はリーダーをやっています。でも、最近クエストを受理しても失敗ばかりで……」
セルカは俯きながら悩みを語り始めた。
「ご存知だと思いますが、クエストに失敗すると違約金を支払わされます。失敗するたびに違約金を支払わされて、それでも何とかお金を借りて別のクエストを受けたりするのですが、それでも上手くいかないんです……! もうお金を借りれるところもないし、パーティーメンバーも徐々に不満を言うようになってきました……」
話せば話すほど辛いことを思い出していくのだろう、セルカの目から涙が流れていた。
お金の問題だけではなく、パーティ内の人間関係の問題も絡んでくるのであればなおさらだ。お金の問題だけで、周りからの応援や支援があれば意外と頑張れるものだが、一人になった瞬間に重力が自分の肩に集中してしまう。
彼女は今そのような状態なのである。
「もう色んなところに相談しに行ったのですが、もう誰も助けてくれなくて……もうどうしたら……!」
「せ、セルカさん……」
「ふむ……なるほど」
兄はセルカの話を聞いて何かを納得したようだ。
頭の中でFカップの胸で埋め尽くされているのではないかと思っていたが、どうやら話はまともに聞いているようだ。ひとまず安心である。
「君はどういうクエストを受けてるんだ? 何かクエストを選ぶにあたってルールはあるのか?」
「ルールですか……」
セルカは兄が語った「ルール」の意味にあまりピンとこなかったようだった。
それでも何とか回答をしようと試みる。
「とりあえず、自分たちのチームに合いそうな討伐クエストを選んでる感じでしょうか。パーティランクもまだDなので、それ相応のクエストを受理してます……」
兄は「はあ……」とため息をつく。
呆れた表情を見せる。
「いいか、Fカップのセルカちゃん……それじゃ、ビジネスにならない」
カップ数をあえて言う必要がないとは思うが、真剣な話に入りそうだったので、私は一旦無視することにした。
「クエストが成功するかどうかは、ポケ〇ンみたいなものだ」
「ポ〇モン……ですか?」
「ああ、〇ケモンだ」
流石に異世界の人には通じないであろうポケモ〇を例に出すあたり、兄の言語能力がどうなっているのか不安になる。
そもそもここの世界自体、時代が現代ではなく、近代ヨーロッパよりなのだ。
建物や道路などはしっかりと整備され、銃などそれなりに技術力が必要な代物も存在している。
しかし、ポ〇モンまでの道のりはまだ長い。
「何が言いたいかというと、相性があるということだ。自分たちのパーティの強みは何か、そして弱みは何か。得意な敵は誰で、不得意な敵は誰なのかをしっかり分析しないとダメだ。自分の得意な領域を攻める、これが鉄則だ」
兄がポケモ〇といっていたのは、つまり相性のことなのだろう。
草タイプであれば炎タイプの技で挑めということだ。フシギ〇ネをぶちのめすのであればヒ〇カゲを持ってこいということである。
「で、でもそれはやってるつもりです! パーティのみんなが使える魔法も把握してますし、なるべく近距離ではなく遠距離戦に持ち込めるような魔物を相手にした討伐クエストを選んでます!」
セルカの言うように、兄が伝えたことはかなり普通のことである。別に特別なことではない。
自分に合ったクエストを受ける、究極的に言えばただそれだけのことなのだ。
しかもクエストで何度も失敗しているとなればなおさらだ
適材適所、慎重にクエスト選びをしているに違いなかった。
「……具体的にどういう遠距離戦に持ち込みたいんだ?」
「具体的に……ですか?」
兄はセルカの反論の一歩も引く様子を見せない。
その表情はまるで出来の悪い部下に呆れながらも、教えなければという義務感に駆られているようだった。上司の目だ。
「パーティはどういう戦況が得意なんだ? 勝ちパターンはあるのか? 遠距離といってもどれぐらいの距離が得意なんだ? 相手に見えるぐらいの距離なのか? それとも超遠距離からの不意打ちが得意なのか?」
「い、いえ……そこまでは……」
立て続けに放たれる質問にセルカは委縮してしまっていた。
恐らく冒険者の中でも兄の質問にまともに答えられるパーティはいないだろう。
この宿屋に設置されている酒場はクエスト窓口も兼ねている。
私はここで仕事している間に様々なパーティがクエストを受理している姿を見てきた。
そのほとんどが「これいけんじゃね?」、「楽勝楽勝!」、「ウェーイ!!」で決めていたので、大して脳みそを使わずにクエストを受理しているのがほとんどだと思う。どこぞのイケイケの大学生に近いノリである。
「……Fカップのセルカちゃん、クエストを勝ちたいのであれば、どういう風に勝ちたいのかまで具体的にイメージできないとダメだ。何となく魔法で火の球をぶっ放していれば勝てるなんて思ってたら、絶対に勝てない。どう初めて、どう終わるのか、一連のストーリーが必要なんだ」
「ストーリー……ですか」
「ああ、ストーリーだ。かっこよく言えば『戦略』だな」
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