第11話 混沌聖夜の馬鹿騒ぎ 1

※この物語はアリス(聖夜)のヒーローエピソード「アリス五姉妹の聖夜祭」の想区が元になっています。

※全編ノリで疾走してます。オチ?文脈?キャラ?って感じです。





「久しぶりだな。私はカオス・オーベロン、誇り高き妖精王である。



 ……待て、逃げようとするな。

 聖夜、そしてカオス・オーベロンと聞いて諸君らはこう思ったはずだ。『はいはいどうせクリスマスでいちゃいちゃしているカップルを妬んでカップル全員破局させようとしているんでしょ』と。

 否。私は気づいたのだ。ティタニアに嫌われるための悪行に他人、それも幸せなカップルを巻き込むことの愚かさにな。

 彼らのそれも、私のと同じ愛だ。そして愛に貴賤はない。先達として、彼らの交わす愛を手助けこそすれど、それを邪魔する理由があろうか……」








「……と、言うわけで。クリスマスを、ぶっ壊す!」


「いや何がと言うわけでだよ。前半と後半で真逆の事言ってんじゃねぇか」


 ここは混沌の街。カオスの可能性から生まれた者たちと、ついでにシャドウの可能性から生まれた者たちが暮らす街である。


「だってさー! ティタニアのやつ、私より仔どもたちのクリスマスパーティーを優先して! その後! プレゼント配りのボランティア……っく、あるから……! 帰ってくるのは、グス、26日の朝だって……! ……うぅ。大将、熱燗あつかんもう一杯……」


「大将じゃなくてママって呼びやがれ! ……たく」


(いや、バーならともかく屋台でママって……)


 牛魔王が差し出した熱燗を一気飲みするオーベロン。そしてまた愚痴りだす。2時間前からずっとこの繰り返しである。


「お前らも、こんなめでたい日にこいつの愚痴に付き合うだなんて好き者だなおい」


 通算16回目の愚痴に入ったオーベロンを無視して、牛魔王は同行者の方を見た。


「好きで付き合ってんじゃねぇよ。まぁ、予定って言っても酒呑童子あのバカの喧嘩に付き合わされるくらいしかないし、それに、俺にまで断られたらこのおっさんがいよいよ哀れだろ。あ、俺にも一杯くれ」


 頭を掻きながらカオス・金太郎が言う。


「俺も俺も!」


「おこちゃまは甘酒でも飲んでな!」


 すかさず酒をねだるが、一蹴されたのは眼帯の少年――カオス・ジムだ。


「おいおい、俺だって立派な海賊だぜ⁉ 酒なんてもういくらでも飲んでるっての!」


「よく言うぜ。この前の宴会では最初の一杯でぶっ倒れたって話なのによ」


「なっ……なんでそれを知ってやがる‼」


「シルバーから聞いたんだよ。あいつもうちの店の常連だからな」


「あの野郎……!」


「とにかく、その口調が似あう大人になってから出直してきな!」


 牛魔王は、問答無用と言わんばかりに甘酒の入ったカップをテーブルに叩きつけた。


「うぅ……」


 そこで食い下がれないのが、カオス・ジムがカオス・ジムたる所以である。


「大将、やっているか?」


 そこに、新しい客がやってきた。鎧姿の金髪の彼はこの屋台の常連のようで、慣れた様子で席に着く。


「ママって呼べっつってるだろっ……てアーサーじゃねぇか。ご無沙汰だな」


「ようやく仕事の引継ぎが終わった所でな。しばらくはまた通い詰めるつもりだ」


「ア、アーサー⁉ まさかあなたは……!」


 驚くジムに気づいたのか、男は柔らかな笑みを浮かべて見せる。


「王だったのは昨日までの話。今日からの私はただのカオス・アーサーだ。そうかしこまるな」


 そう、彼はカオス・アーサー王。この混沌の街のトップの1だ。


「そういや金太郎、なんでこの街って長が交代制になってるんだ?」


「そりゃお前……~~王とか~~女王の顔を思い出してみろよ」


 そう言われて、ジムは頭の中に王族の顔を浮かべる。

 シャドウ・毒林檎の王妃とカオス・白雪姫、カオス・マリー、カオス・ブドゥール姫とカオス・アラジン、カオス・ハートの女王、カオス・ミダス王、冷酷な雪の女王、カオス・アーサー、そしてカオス・オーベロンとカオス・ティタニア。


「……問題のある奴しかいねぇ!」


「だろ? まぁ仮にも王族だしそれなりに威光はある。長がいないとそれはそれでややこしくなるから、ボロが出ない超短期間でトップを回すしかねぇんだよ」


 この街は果たして大丈夫なのだろうかとジムが憂いている横で、オーベロンは新しく現れた愚痴相手に絡んでいた。


「今日はずいぶん荒れているな、妖精王」


「だから! 私はずぅーっと言っているのだ! 付き合って、結婚して、その先に待っているのはこの世の地獄だ! 未来ある若者が地獄に落ちるのを見ているだけなら、いっそ1回破局させて愛を愛のままで止めておくのが先達の務めだろう! 愛に貴賤はないのだから、また他の愛を探せばいいではないか!」


「えーっと、これは一体……?」


「さっきからずーとこんな感じだよ。まぁ理由がネガティブからポジティブに変わっただけで、やろうとしている事はいつもと一緒だから適当に流しといてくれ」


「はぁ……」


 妖精の体質故か、酒を浴びるように飲んでも、酔っ払うより先にはいかないらしい。酔いつぶれる事が無い分、下手な酔っ払いより質が悪い。金は確実に払ってくれるからと、暴飲を止めない牛魔王にも責任はある気がするが。


「だが、お前の気持ちも分からんでもない。私の妻も、今日は姉上と常夏のビーチにバカンスに行ってしまってな」


「グィネヴィア王妃が? あの方がそんな事をするとは思えないが……」


「いや、その……以前妻にクリスマスの予定を聞かれた時に、人魚姫のクリスマスライブの抽選結果が出るまで返答は待ってくれないかと答えた事がまずかったようで……。今は外より家庭の方がよっぽど寒いな」


 冗談めかしているが、その目は軽く潤んでいる。しかもここにいる事から察するにライブの抽選は外れたらしい。


「この人これがなければいい人なんだけどな……」


 ジムが呟く。熱狂的なアイドルファンのアーサーの奇行は枚挙にいとまがなく、普段のカリスマの高さもあって、その残念っぷりは王の中でも随一である。

 

「妖精王よ! 今日はとことん飲むぞ!」


「もちろんだ! 嫌な事は飲んで忘れよう!」


 そして20分後。


「だぁから、結婚はこの世の墓場なのだ! 愛は素晴らしい! なればこそ私は恋人たちを破局させたいとだなぁ‼」


「分かる! 分かるぞ妖精王よ! うぅグィネヴィアー! なぜ私を置いていったー!」


 そこには酔っ払った2人のおっさんが出来上がっていた。

 それに加えて、


「なぁにがクリスマスだ! どいつもこいつも幸せそうな顔しやがってさぁ! 幸せは平等に配りやがれ神様のばかやろー‼」


 いつの間にかおっさん2人の間に少女が1人座っている。灰色の髪の幸薄そうな顔をした彼女は、酒を一滴も飲んでいないのにも関わらずべろんべろんに酔っ払っていた。


「少しでも暖が取りたいってんで、最近うちに来るようになってな。不憫なもんだから甘酒を一杯ごちそうしてやってんだが……まぁ俗に言う雰囲気酔いってやつだな」


「あぁ⁉ 何飛ばしてくれてんだ芋坊主ー?」


 おっさん2人に負けず劣らずの悪酔い少女が、ジムに目を付けた。


「いもっ……⁉ 俺と大して年変わらねぇだろお前!」


「あんたと、このマッチ売りの少女が同じ? あきゃきゃ! 自分の顔、鏡で見てみなさいよ! 乳臭いガキが映っているからさ! どうせクリスマスを一緒に過ごすガールフレンドもいないからこんなところにいるんだろ?」


「ぐふぅ⁉」


 どうやら図星だったようだ。


「もうこうなったらやるしかないな!」


「うむ、それしかない!」


「みんな、みんなぶっ壊す! あきゃきゃきゃ!」


(あ、これまずいやつだ)


 金太郎が何かを察するが、すでに時遅し。


「さぁ行くぞ! クリスマス壊滅作戦、開始だ!」


「おーい! 支払いはどうすんだ!」


 意気揚々と街に繰り出す3人(+拉致された2人)の背中に向かって牛魔王が叫ぶ。


「ティタニア(グィネヴィア)にツケといてくれ!」


「ツケって……毎年、結局怒られてお前らが払いに来ているだろ……」


 深いため息をついた牛魔王は手早く片づけを始める。しかしそれは店じまいの合図ではない。


 混沌の街の夜は、これからだ。


 


 

 

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