第119話 その男、厄介につき



「うわぁ、この部屋もすごいね」


「さすが、建国当初からある由緒正しきお家柄、って感じだね」


「ユキちゃん家は違うの?」


「僕の家はその時々のご先祖様が興味あった分野で評価されて爵位を上げて、って感じだもの。伝統も何もない新興貴族の分類だよ。ま、いくら地位や名声を得たところでやることは変わらない。自分が好きなものを好きなように突き詰める。それがエルモンテ家」


「あぁ~、なんか納得」


「うちにある、いわゆるお宝って呼ばれるものはそれぞれの興味あるものを買い漁って収集したものだから何がいいのかさっぱり。たまに訪れたマニアっぽい人は歓声をあげているけど。小さいものならまだしも、父さんなんて最悪だよ。無駄に場所を取る巨大な彫刻がたくさん……ほんと趣味悪いんだから」


「ゴホン、ゴホン。君たち真面目にしたまえ。シエルが何を狙っていつ来るかわからないんだからな――あと、声がでかいっての」


「あっ――ごめんなさい、ジーク……サミュエル博士!」


 朝、お屋敷に来てから、かれこれ数時間。“シエルが欲しがりそうな宝石大捜索”ってことで、召使の方に案内してもらって、屋敷中の財宝を見て回っているけど大貴族の財力に驚かされてしまう。


 ネックレス、ティアラ、イヤリング。キラキラ輝くアクセサリー類はもちろんのこと、廊下に飾られた絵画、彫刻、壺などなど、全てが一級品で、召使の方の説明を聞いて、お値段を聞くたびに、ひぃいい、と声をあげそうになる。


 今いるコレクションルームだってそうだ。


 表に飾っていない芸術品を保管するための部屋とは……?


 ある物は全て飾ればいいじゃない〜、の庶民感覚は通用しないらしい。


「うわ、見てよこれ。ハインツ・エイブリースの初期作品、“歌って踊るパンプキンパイ”シリーズだ!」


「何それ!?」


「魔導具の革命者として名高いエイブリースだけど、元はしがない人形職人だったんだよ。カボチャ嫌いの娘に作った人形たちが彼の才能の始まりで――」


「ユースチス君、魔道具は後回しだ……」


「やっぱり領主レベルの建国当初からある家は違うんだなぁ。アンティーク物の魔導具がこんなにも……うわ!これ、ヴィエルコウッドの妖精の杖!? しかも一桁ナンバー!? あれ? というかこの振り子時計ってもしかして――」


「ユキ……んんっ、ゴホンッ、ユースチス君!!」


 イノシシ全開、笑顔満開のユースチス君をサミュエル博士が注意している。


 アクセサリーとか綺麗な絵とかにはまるで興味なしなのに、少しでも魔法が関わっているとこんな感じ。案内してくれる召使いの方を質問攻めにしては、なんちゃって名探偵おじさんに首根っこ掴まれて戻される。


 あの子は演じるという気はあるのだろうか。


 そんなこんなでにぎやかにグラスノーラ家のお宝を物色していると、廊下の方が何やら騒がしい。ミコトたちが顔を上げたのと、コレクションルームの扉が開かれたのは同時だった。


「あら、貴方たちは……確かパパの言っていた教授ね。えぇ~っと……泥棒予防学?」


「犯罪心理学です、美しいお嬢さん」


 サミュエル博士がにっこり笑って訂正する。


(うわぁ〜綺麗な人〜)


 パッチリとしたアーモンドアイ。ツンと澄ました顔立ち。波打つオレンジ色の髪をなびかせながら部屋に入ってきた美人さん。


「そう、まあ、お好きにどうぞなさって。ベアトリクス・グラスノーラよ。お力添え、感謝致しますわ」


(グラスノーラ、ってことは……)


 緑の領主の一人娘だ。


「失礼お嬢様――こちらの方たちは?」


 お嬢様に続いてやってきたでっぷりしたおじさんと、気難しそうなおじさん。見張りの人がいるとはいえ、コレクションルームを漁っている胡散臭い三眼鏡に、でっぷりおじさんが怪訝そうな声をあげるのは、致し方ないだろう。


「怪盗シエル対策の専門家よ」


「ほほう、彼が……」


 紹介されたジーク、もといサミュエル博士が軽く会釈をする。


「それで、その専門家が何をなさっているのですか。グラスノーラ家の所有物を次から次へと――これではどちらが泥棒か疑われてしまいますぞ」


「お気を悪くされたようでしたら、失礼。ですが貴方たちも見たところ、グラスノーラ家の縁者ではないようですが」


 ジークとでっぷりおじさんの間で静かな火花が散らされる。


「おやめなさい、モリンズ。パパが許可を出しているのだからよくってよ。サミュエル教授、こちらは宝石商のアビー・モリンズ」


「モリンズ……というとあの有名なジュエリー・モリの?」


「いかにも」


 でっぷりしたおじさんがフン、と自慢げに鼻息を鳴らす。


「そしてベネヴォリ美術館館長のデニス・クイン」


「どうも」


 もう一人の痩せてギスギスしたおじさんも、お嬢様の紹介に頷きながらジークと握手を交わした。


「我が家の財宝の管理は主にこの二人が担ってくれていますの」


「ふむ、そうなんですね……それでは、お嬢様方がこちらにいらしたのはこの数あるコレクションのメンテナンスのためですか?」


「そうねぇ、それもあるけれど……あら、貴女たち、何をボーっとしているの、早く致しなさい!」


「はい、ただいま」


 パンパンっとお嬢様が鳴らした合図で、後ろに控えていたメイドたちが動き出す。


「貴女はこの花瓶を、貴女たちはあそこにある絵を――」


「わぁぁぁ、ちょっと! いきなり何をするんですか」


 コレクションルームからあれよあれよと物が運び出される。せっかく検分していたのに、これではたまったものではない。


「なんだ小僧。お嬢様になんて口の利き方だ」


「だって、ここは俺たちが――」


「おやめなさい、モリンズ。そう睨んでいてはかわいそうでしょう。貴方たちも大変なのかもしれないけど、こっちだっていい迷惑していますのよ」


「迷惑……?」


「一分一秒でも惜しい、ってくらいなのに……騎士団や捜査関係者、新聞社なんかが集まって、静かなお屋敷が懐かしいですわ」


「邪魔……?」


「そうよ、何、貴方? 何も聞いてなくって?」


 首をかしげるミコトに、ベアトリクスが信じられないと目を吊り上げる。


「弟子が失礼いたしました、存じてあげております。お嬢様の誕生日パーティーがもう間もないと……こちらに来たのはそのためですか?」


「お判りいただけてるのなら構いませんわ」


 ミコトを庇うようにジークが一歩前へ出る。ベアトリクスはその答えに大変満足したようだ。


「よくって、もし万が一、パーティーの邪魔になるようなことがありましたら……承知致しませんわ」


「――かしこまりました」


 頭を下げるジークにもう興味はないとでもいうように、ベアトリクスは背を向けた。


「そうね、今回のドレスには……このネックレスが合うと思うわ。モリンズ、調整をお願い」


「お任せください」


「貴賓室にはこちらの絵を飾りましょう。先月替えたカーテンとの調和がとれると思うの」


「かしこまりました。君、その画家は画材に星水晶を使っているんだ。貴重な素材だ。運ぶときは手袋をして、素手で触らないように注意したまえ」


「はい、クイン様」


(なにさ、そんなに自分の誕生日パーティーが大事だっていうわけ~)


 邪魔もののように扱われてしまって、なんだかあまり面白くない。


 ムスッと膨れたまま、コレクションルームから次から次に運び出されていくお宝を眺める。


「ねぇ、博士。貴族のパーティーって毎回こんな大がかりな準備をしているの?」


「あぁ――ベアトリクス嬢にとっては今回の前夜祭はどの舞踏会よりも重要だろうからね」


「――?」


「ねぇ、貴方たち。この部屋から少しの間、ご退出願いませんこと?」


 ジークとコソコソ話しているとお嬢様に声をかけられた。


「我々は部屋の隅で大人しくしていますので、どうかお気になさらず」


「私が、出て行ってと言いましたの」


(うっひぃ、怖い目!)


 お嬢様のつり目が更に鋭くなる。強気な美人の迫力はおっかない。


「ですが我々も、怪盗シエルのお目当ての宝石を探すという目的がありまして……そもそもこんなに調度品を移動されては、もうどこまで調べたかわからなくなってしまいましたね」


「そんなのこちらが知ったことではありませんことよ」


(何よ、この女……)


 イケナイ、悪役令嬢の取り巻きAみたいな感想が出てしまった。それにしてもこの高飛車で自分本位なところがどうも鼻につく。


「僕たちを、追い出してまで何するってのさ」


「コラ、小僧。誰に向かって話している」


「誰って、見りゃわかるでしょ。お嬢様にだけど。オジサン理解力ないの? 状況把握出来てる?」


「小僧、貴様ぁっ!!」


「わぁ、ユースチス君! ストップ、ストップ!!」


 確かに、嫌な態度を取られているけど、ここで喧嘩を売りに行くのは非常によくない。ジークと二人で慌ててユキちゃんの口を塞ぐ。


「別に何しようが構わないけどさ、その振り子時計の仕掛けを動かすなら見せてほしいなと思って。こんな大がかりなものは初めて見たんだ」


「えっ? 振り子時計?」


 ユキちゃんが指さした方を見ると、ミコトの背丈を超える大きさの立派な振り子時計がある。ローズウッドの艶のある木肌、丁寧に彫られた花や草木の美しい装飾、輝くゴールドの文字盤は透かし彫りで、覗かせた歯車の精巧さもその芸術性を見事に高めている。下段の硝子戸の中に光る立派な振り子は今は止まっているけれど、きっと時間が来れば美しい音を鳴らして教えてくれるのだろう。


「な、何で貴方それを!」


「なんで、って。普通におかしいでしょう。この歯車部分に組み込まれた魔法紋、最近の術式じゃん。周りに合わせたデザインにしてるけどバレバレだって」


(確かに綺麗だけど、これが何か…?)


「この屋敷の魔導具のラインナップは本当に素晴らしいと思うよ。でも保管のセンスがないね。僕なら年代別に順番に並べるし、魔導具は魔導具だけで飾る部屋を作るよ。こんなゴテゴテした絵とかアクセサリーとかと一緒にしない」


「――御忠告どうもありがとう。今後の参考に致しますわ」


「一体どういうことなんだ、私たちにもわかるように説明してくれたまえ。ユースチス君」


 不思議そうな顔をしたなんちゃって名探偵おじさんが説明を求める。険しい顔のお嬢様方三人を余所に、その言葉を受けたユースチス君は喋りだした。


「どういうことって……100年とか200年とかのアンティーク物の魔導具や絵画や彫刻とかが並んだ部屋に、違和感ないように工夫された最新の防衛魔法付き時計を置くのはどうかと思うって話だけど?」


「どういう魔法なんだ、それは?」


「特定の手順でしか解除できない扉のような仕組みだね。金庫とかに使われるのが一般的だけど、この大きさだと部屋ぐらいの規模はありそうだ。しかも時計の仕掛けの一部として組み合わせていることによってうまい具合にカモフラージュされていて、一級の魔導士、僕レベルじゃないと気づかないよ、これは。あ、お嬢様! 見せてもらうついでにこの制作者の名前を教えてほしいんだけど!!」


 しれっと爆弾発言をしたユキちゃんは自分の言葉の重さに自覚なんてないのだろう。


「中々やりますわね、名探偵のお弟子さん」


 見なさいよ、お嬢様の苦虫をつぶしたような顔を。


「この者たちをいかがなさいますか……お嬢様」


「わぁぁぁ、俺たち誰にも言いませんから!!」


 侯爵家の秘密を暴いてしまったんだ、今すぐ捕縛!連行!打ち首!!となっても致し方ない。


 ユキちゃんの口を押さえながら、アハハと笑って平謝りする。


「弟子の不用意な発言には謝りますが……そんな大層な仕掛けをしてまで隠しているお宝があるのならお見せいただきたい。怪盗シエルが狙っているものがこの中にあるのかもしれないのですから」


 ジークとお嬢様の視線がぶつかり合う。


(そうだよ、もしかしたらこの中に――)


 人知れず入れ替わった“至宝”と“女神の心”。


 “女神の心”を管理している領主の館に存在する秘密の部屋。


 怪しいことこの上ない。


「犯罪心理の専門家として申し上げますが、シエルのような愉快犯はよりスリルを楽しむ傾向がある。厳重に隠されれば隠されるほど、心の炎は燃え上がる」


「……何が言いたいのかしら?」


「お嬢様の疑問にお答えしたいのは山々ですが、その前にいくつか質問をさせてください。まず、この部屋のことを知っているのは――?」


「パパと私、そしてこの部屋の中の物の管理も担っているモリンズとクインよ」


「ふむ……その中にある物とやらの素性を知っているものは他におりますか?」


「うちにある財宝の中でも飛び切りの一級品ですもの。何度もお披露目はしているわ。価値あるものを独り占めするなんて、グラスノーラ家はそんな品のないことは致しませんの」


「では、それがグラスノーラ家が所有していることは皆が知っていて、尚且つこのような仕掛けを施してまで、守っているもの――それはずばり、“女神の心”ですな!」


 ビシッと指を立てて、ジークがカッコよく決める。「ちょっと考えれば誰でもわかるよね」と呟いたユキちゃんは小突いて黙らせる。


 なんちゃってだろうとなかろうと、名探偵のいいシーンなのだから、弟子は全力で太鼓持ちするべきだ。


「博士のおっしゃる通り、この中に“女神の心”はあるわ。ま、今は大聖堂にあるけれど」


「お嬢様――っ」


「そんなに取り乱さないの。見苦しくってよ、モリンズ。時計についてこの者たちは見抜いていたんですもの。遅かれ早かれ、辿り着いていたわ」


「お褒め頂き光栄です」


 優雅にお辞儀をしたジークを一瞥して、お嬢様は時計と向き合った。


「それで、この私に言いたいことはこれで全てかしら?」


「――我々も部屋に入れて頂きたい」


「分をわきまえろ、貴様。この部屋に所有されているものはそう易々と一般人の目に触れていいものではない!!」


「お黙りなさい、モリンズ。それは貴方ではなくて私が決めることよ」


 ジークの申し出を突っぱねたモリンズさんをお嬢様が窘める。お嬢様に何も言い返さないところを見ると、このモリンズさんって人は権力者には弱く、下の者にはデカい態度をとるタイプのおじさんなんだろう。


(貴方が馬鹿にしているその名探偵は実は王子様ですよ~)


 ジークの正体を知ったモリンズさんのリアクションを想像して溜飲を下げておこう。


「心配になるお気持ちはわかります、ベアトリクス嬢。“女神の心”の管理を王家から任されている、立場ある者として、その迷いはむしろ賞賛に値するものです」


 ゆっくり歩み寄って、ジークはお嬢様の前で騎士のように跪く。


「ベアトリクス嬢の大切なパーティー前にこのような騒ぎ、憤るのも致し方ないことでしょう。いきなり現れた私のような者に警戒心を抱くのも無理はございません。むしろ令嬢として、親御様から立派に躾けられたのだと、感服致します」


 お嬢様の固く握られた手を取り、恭しく口づけて、ジークは穏やかに話し続ける。


「我々は専門家だ。この世の理を外れた行為を行う者の隠されたヴェールを読み解くその道のプロ。我々が学び、深めてきたこの学問にはこのような言葉がある。『見えるものだけが全てではない。その心、見紛うことなかれ』。窃盗、放火、殺人……お嬢様も含めた他の方も、その事実のみを見て“悪い奴がいるもんだ”と非難するのでしょう。自分とは関係ないことへの態度なんて、普通そのようなものです。しかし、その行為を行った者も、同じ人なのです。誰もが喜んで手を染めたわけじゃない。生まれ持った資質でもない。原因があり、動機があり、その結果に至るまでの経緯がある。なぜそうなってしまったのか、新聞に載る『目でわかる事実』だけでなく、『見えない心』を分析する。被害者の悲しみ、そして犯罪者の苦しみ、この絡まり合った負の連鎖を紐解くのが我々の役割、犯罪心理学なのです」


「ねぇ、ミコト、犯罪心理学ってミコトが適当に言った架空の学問じゃないの?」


「お、お、俺の世界で探偵とか警察とか、その手の設定でよく使われていたからとりあえず言ってみただけなんだけど……俺も知らないよ、あんなこと!」


「だよね。なんか本当にありそうな気がしてきたんだけど……」


 ユキちゃんとヒソヒソやってると黙らっしゃい!と言わんばかりにジークの鋭い視線が突き刺さる。


「犯罪行為に手を染める者たちの心理を分析することで、その原因を取り除き、未然に予防できるかもしれない。そんな平和に導くための有用な学問が犯罪心理学です。怪盗シエルがなぜ宝を盗もうとしているのか、なぜ人々の注目を集めようとしているのか、そしてこのグラスノーラ家をなぜ指定してきたのか、この謎を我々は解き明かさないことには、きっとヤツは捕まえられない。ベアトリクス嬢、どうかご英断を。この騒ぎを早急に解決するためにも、貴女方の協力が不可欠なのです」


「――わかりましたわ」


「お、お嬢様っ!!」


(誑かしたぁぁぁっ!!)


 見ろ、これがジークフリート第3王子の手腕なり。


(探偵っていうかむしろ詐欺師だよ!!)


 そのままいい笑顔を浮かべて、時計前にベアトリクス嬢をエスコートしている素敵な絵面なんて作りやがって。シエルの目的が……とカッコよく言っていたけど、そんなの全部自分で自作自演していたじゃん!わかりきってるじゃん!!跪いて努力や人柄を認めてキスを送ったところからもう始まっていたんだ。男女の距離感がどうのこうの前に説教されたけど、そうやって全て計算づくで女を落としていくんだ、ジークって男はきっと。


「この部屋に入れることを光栄に思いなさい」


「ベアトリクス嬢の期待に必ずやお応え致しましょう」


 ジークとの距離感について今一度考え直していると、お嬢様が鈍く光る鍵を取り出し硝子戸を開け、中の振り子を揺らし始めた。


 均一のリズムを刻む振り子。その振り子に合わせるように、文字盤に指を伸ばして、針を回し出す。


 右に、左に。長針と短針を何度も入れ替えながら回転させていく。


(すごーい! なんかカッコイイ!!)


 ミステリードラマとかでよくあることだけど、なんで開錠の瞬間ってこうワクワクするんだろうか。


 ――ボーン、ボーン、ボーン


 ――ガチャリ


 時計が音を奏でた瞬間に、錠が外れた音が響き渡った。


(うわぁっ!!)


 時計をずらしたその後ろに広がった空間。


「よくご覧なさい。これが我がグラスノーラ家の所有する最高のコレクション。女神の娘オ―フィリアシリーズよ」


「失敬、少々腹が痛くなってきましたので一旦失礼致します」


 寄る年波には勝てませんな~と言いながら、ジークが脱兎のごとく逃げ去っていく。


 その部屋には、絵画、彫刻、タペストリーなどなど。


 可憐な花々に囲まれて美しく微笑む、美女をモチーフにした芸術作品が多数並べられていた。


「女神の娘、オ―フィリア様! どうか、どうか今年こそ、良縁をお恵み下さいませ!!」


「え、ちょっ!」


 深々と頭を下げるベアトリクス嬢。急にいなくなったジークを、けしからんお嬢様の心遣いを云々かんぬんと憤慨するモリンズさんと、それを宥めるクインさん。そして時計の仕掛けに興味津々で部屋の中になんて入って来やしないユキちゃん。


(う~ん、カオスっ!!)


 ちょっと、この場を一人で裁き切るにはミコトはまだ未熟なもんで――アルとニッキーが恋しくなった。

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