第69話 甘酸っぱいのは落ち着きません
アルたちはその後も順調に勝ち進んでいく。勝利を重ねるごとに、ジークの華麗な棍棒裁きは観客を虜にし、今ではジークたちが試合のためステージに登場するだけで大歓声だ。
(正体を隠していてもこの状態……、王族すげぇ……)
歓声を浴びれば浴びるほど、ジークはどんどん輝いていく。あいつはヒーローか何かか!? 仮面があってよかったね――素顔での大会なら、きっとえらい騒ぎだ。
「こいつらは見ていて痛快だなぁ。あの兄ちゃんはともかく、もう一人のひょろっちいのも中々やるじゃないか。」
「あぁ。あの素早さで死角に回り込まれたら反応するのも難しいってとこだ。デカい兄ちゃんも、どんな相手でも落ち着いていて安定感がある。あれは相当場数を踏んでいないと出来ない……猛者だな。」
野次馬おじさんたちも今は立派なファンだ。こっちまで嬉しくなってくる。
「……あぁっ!! 」
トーナメントを勝ち進むにつれて、相手が強くなっていくのは仕方がないことで、ここで初めて相手の攻撃がアルに当たった。間合いが近くなったことでそのままアルは踏み込み、相手をなぎ倒してそのまま仮面を剥ぎ取って試合終了となったが――
「ユキちゃん、ちょっと行ってくるね!! 」
(あれは痛そうだもんな~)
少しだけでも、私の光魔法がアルの力になればいい。その想いがミコトの足を速めさせる。闘技場内は人が多くて、方向音痴のミコトには少し辛いものがあったが何とか控室に辿り着けた。
(そういえばこの世界に来て一人で歩くのって初めてだな……)
随分、過保護に扱われたものだ。思えば隣にはずっとアルがいて――それが当たり前になっていた。
(いつまでもおんぶに抱っこじゃ駄目だな。少しずつ一人で出来ることを増やさなきゃ。)
そうじゃないと、旅が終わって、みんながいなくなったときに悲惨だ。少しずつ一人になることの耐性をつけていきたいところだ。元々は一人暮らしだから、寂しくなんてないはず。この国の日常生活に慣れて、自活できる力を身につけて――
「おう、ミコト。勝ったぞ――」
目元が仮面で隠されているから、口元に嫌でも視線が行く。ニヤリと笑った唇がセクシーだ。壁際のベンチに座っていたアルが一人佇んでいたミコトを見つけ、声をかける。
「見てたよ~。お疲れ様。腕見せて……」
痛んだ胸を気にしないようにしながらミコトは笑ってアルに手を差し出す。未来への不安より今はやるべきことがあるから……余計なことは考えるな。私は大丈夫だ。
「痛そう。赤くなっている。」
アルの二の腕にそっと手を添わせる。相手の棍棒を受け止めた箇所は赤黒い痣になっていて、見るだけでも痛そうだ。
「救護所が手一杯だからな。来てくれて助かった。」
大会参加者用の救護所は、負傷者で大賑わいだ。敗者の方が、治療を要する状態であることが多いため、アルたち勝者、軽症者まで治癒師が回ってくるのはどうしても遅くなる。
「いえいえ、まだ下手だから時間はかかるけど……このくらいはお安い御用ですよ。今日はあと1試合だっけ? 」
「あぁ。そのはずだ。」
ベンチに二人腰掛け、治療をしながら話す。
なんだろう、普通に治療しているだけなのに落ち着かない。
女の子の格好をしているからか?
それともアルが上裸だからか?
戦い後の高揚感で、アドレナリンでも出てるんだろうか。今日のアルはいつもより――めちゃくちゃカッコいい。汗をかいて火照った身体を冷ますために座っているだけなのに、漏れ出てくるこの色気を止める術を誰か教えてほしい。
患部に集中しているフリをして、ミコトは光魔法を使い続ける。アルも全くしゃべらずにずっと前を向いている。二人の間に流れる沈黙の空気を壊したいような、このままでいてほしいような……
「ミコト来てんじゃーん。俺も治療してよ。もうへとへと! 」
ナイスだニッキー! ナイスか? いや、ナイスだ!!
「わかった~もう少しでアルが終わるからその後に! 」
よく見ると、ニッキーもジークも小さな擦り傷や打撲後でいっぱいだ。そりゃそうだ、防具もなしに棍棒持って戦っているんだから……本当にこの祭りはクレイジーだ!!
「ミコト、よかったら向こうにいる騎士団員たちもお願いしていい? 」
「うん、もちろん!! 」
今回は2組の騎士団チームが参戦してくれている。至宝のために協力してくれるのは嬉しいけど……任務は? 6人もこっちに回して人手足りてるの?
疑問に思ってフェイに聞いてみたけど、ガハガハ笑って背中を叩かれ、そのまま抱き着こうとしてきたから――結局わからずじまいだ。
大方ジークと何か結託しているんだろうな~、怪しげな黒い雰囲気が流れているので詳しくは知りたくない。そのまま騎士団員たちに頼まれるままに治療を行い、流れで周りの知らない人たちまで治しちゃったのはご愛敬だ。光魔法の練習にもなったし、感謝もされたしとてもいい気分だ。
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