第68話 クレイジー祭りに参加しました
「お集まりいただきました紳士淑女の皆様!! もう間もなく、男たちの熱い熱い戦いの、火蓋が切られようとしております!!
お前たち~! 準備はいいか~!! 」
「うおぉぉぉぉぉっ!! 」
「男として最高の栄誉を、誉れを、その拳で掴み取れ!! 」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」
円形のステージ、それを取り囲む会場全体が熱気に包まれ、雄たけびが空気を震わせる。
「すごい盛り上がりだね……アルたち大丈夫かな? 」
「死に物狂いで勝ってもらうしかないね。」
ミコトとユキちゃんは、観客席で試合に出るアル・ジーク・ニッキーの応援だ。女の子の格好で。
“なんで観戦の時も女装しないといけないんだよ! ジークの趣味なの? なんなの!?”
“だーかーらー、本番で違和感持たれないように慣れるためだって何度も言ってるじゃないか! ”
慣れる必要なんてないわっ! こちとら23年間女としてやってきたんだぞ。女装指導をニッキーから受けた際に、ニッキーの演じたいい女っぷりに恐れおののいたことと、“ミコトはもう少し色気だそうな。ユキちゃんは余計な口開くなよ、黙ってれば美少女だからな”というアドバイスは棚に上げとく。余計なお世話だ!!
サマンサちゃんたちと選んだ服に、今日の朝、「僕の格好に似合わないからミコト着けて――」と、ユキちゃんから渡された透き通った黄色のガラス玉がついたペンダント。ガラス玉は滴型に加工されて、中を透かすと花のような紋様が浮かんでとても綺麗だったのでありがたく使わせてもらった。
そんなこんなで今のユキちゃんとミコトは、かわいい女の子二人が試合の観戦をしている絵面だ。女子2人でいるのは珍しいのか、ちらほら視線が飛んでくる。美少女ユキちゃんが目立つから仕方ない。気にしたら負けだ!
(アルはともかく……ジークとニッキーは大丈夫かなぁ)
観客席の中段に二人は座席を確保したため、肌色の集団を見下ろす。上裸に腰蓑1枚、色とりどりの仮面をつけたどこかの国の部族のような恰好をした男たちが整列する、むさくるしい開会式の様子を眺めた。
(昔からのお祭りって……ツッコみたくなるような要素あること多いよね……)
どこの国にも余所から見たらクレイジーな祭りがある。今回の闘技大会はまさしくそうだった。海底都市時代の名残だろうか、タイムスリップしたような古代的な格好に、顔の上半分を覆う仮面をつけた男たち。伝統だ! と言われれば納得しちゃう謎の圧迫感がある。そしてこの大会の武器は己の拳と支給された棍棒1本。あの格好では他の武器を持ち込んでもすぐにバレちゃうから、その目的もあるかもしれない。ドレスコードはずばり、筋肉だ! と言わんばかりの筋骨隆々な男たちがひしめき合っている、間違ってもあの中心には行きたくない。雄々しく、汗臭そうな開会式だ。
(防具も何もなし、魔法も禁止、ジークは大丈夫なのかな? )
ダンジョンでニッキーは剣を使っていたから何となく実力はわかるけど、ジークに関しては何も知らない。まぁジークに買収(?)された騎士団員チームとうまく当たれば切り抜けられるはずだ――
(とりあえずここは聖女らしく、祈ってみるか……でも大きな声では恥ずかしいな……)
「ふぁいと~……(小声)」
「ミコト、何その気の抜ける応援。ふざけてるの? 小鳥のさえずりかと思った。」
いつもならあぁん? ってなるとこだが、美少女からの毒舌ツッコミ――
「ありがとうございますっ!! 」
「なんでお礼を言われるのさっ!! 」
♢♢♢
アルたちの第1試合が始まる。
出場チームをランダムに2つに分けて、それぞれのトーナメントを勝ち抜いた勝者が最終日の決勝戦でぶつかる。ルールは簡単、支給された棍棒を使っても使わなくてもどちらでもいいので、とにかく相手チーム3人の仮面を剥ぎ取れば勝ちだ。開会式前に触らせてもらったが、薄い木で出来た仮面は軽くて丈夫で、多少の違和感はあるが慣れればどうってことないだろう。
問題は仮面を剥ぎ取られてしまった場合だ。今回は魔法なし――少しでも魔力が感知されるとすぐに失格になるのでジークは
絶対に負けられない戦いが――今、始まる。
相手チームは3人ともゴリマッチョだ。うちのアルもしっかりと筋肉がついているほうだが、彼らと比べると些か細く見えてしまう。ジーク・ニッキーに至ってはヒョロヒョロにしか見えない。そのせいか、会場全体の雰囲気も相手チームへの期待の声が多く、相手もニヤニヤしながらあざ笑っている嫌な雰囲気だ。
「がんばれ~!! 」
せめて小鳥からニワトリに進化したいため、声を張り上げる。
試合は始まったが、お互いに隙を伺っているのか中々動かない。棍棒を構えたまま、睨みあっている。前方にアル・ニッキーが出て、後方中央にジークがいる、三角形の布陣だ。
「あの細ぇ兄ちゃんが大将か? 」
「いや、あれは一番弱いヤツを守るためだろう。」
毎年試合観戦してますよ~って雰囲気のあるおじさま方が後ろで考察している。好き勝手言いやがって、ジークはそんなに弱くないもん、たぶん。
その時、相手チームが一斉に動き出した。
3対3のにらめっこから、1対1の乱闘へと変わっていく。そして一番身体が大きくて強いヤツをジークに当てさせる。さっさとジークを倒して他の助っ人に行こうって魂胆か? 汚いやり口だな!!
「うおぉぉぉぉ! 」
大きく両手に棍棒を振りかぶって、相手の男はジークに迫る。対してジークは優雅に構えたままピクリともしない。
「おいおいおい、何やってんだ兄ちゃん! 」
「怖くてビビって手も足も出ないか!! 」
そこの野次馬うるさいぞ。
「ジークっ……!! 」
棍棒が振り下ろされる直前、ジークが動いた。重心を右にずらし、1歩踏み込む。
パァーンッ――!!
相手の面が宙に高く舞い上がった。
「なんだ――? 何が起こった。」
「あの兄ちゃんだ! 相手の顔が来るところを予想し、踏み込んだ一瞬で相手の勢いを利用しながら、棍棒で仮面を掬い取ったんだ。あまりにも早すぎた――あんな痺れる棍棒使いは、久しぶりに見たぜ……」
構えた棍棒を片手で降ろし、ジークが拳を天に突き上げた。勝利のファインティングポーズだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!! 」
会場全体が一気に盛り上がる。顔隠していても王子のカリスマ性ハンパねぇなっ!! もし名前がバレていたら、孤児院の時みたいにまたジークコールでもかかりそうだ。
アルとニッキー……? ジークに目を奪われている間にいつの間にか終わっていたよ。もちろん勝ってた。
まずは1勝!!
3人を労いに選手控室を訪れる。
「お疲れ様~、ジーク凄かったね!! 」
「フフフッ、ありがとう。カッコよかったでしょ俺。」
「うん、とっても! 弓と魔法で戦っているところしか見たことなかったからびっくりした。」
「実は俺、剣の方が得意なんだよね~。あの時はパーティのバランス見て弓の方がいいかなと思ったからね。」
オールマイティ王子め……どこまでもイケメンだな。
「第3王子が真面目にずっと剣の鍛錬をしているという話は聞いたことあるぞ。何か目標でもあるのか? 」
アルがタオルで汗をぬぐいながら問いかける。
「あぁ~……まぁそうだね。勝って認めてほしい相手はいるかな。」
「――えっ!? 俺それ知らないんだけど!? ただ剣が好きだから頑張ってるって言ってたじゃん!! 」
こんなに長い付き合いなのに!? 子どもの頃からずっと一緒だっただろ!? 誰だよ、いつからだよ!! ニッキーに追い詰められてタジタジになる、レアジークは初めて見た。これはすべてが終わったら質問攻めですな――!!
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