第65話 女子会で宣言しました

 

「それで……何でここにフェイラート副団長がいるわけ? それに第3騎士団の皆さんも。」


「ミコト、そんな怖い顔しないで。せっかくかわいい恰好してるんだから……痛い! 足踏まないで!! アルもそこでイラつかないで! オーラが怖すぎるよ~。」


(機嫌直せだとぉ~? こちとら乙女のタマ握られとんじゃいぃぃっ! そう簡単に許せるわけねぇだろ、おたんこナスぅっ!! )


 怒りと羞恥心で、顔はまだ赤いままだ。許すまじエロおやじ!! でもなんでアルがイラついているかはわからない。謎だ。


 ジークが盛大な溜息をつく。大方てめぇが何か企んでるからこうなってることはわかってんだぞオラァっ!!


「今回は闘技大会での優勝が条件だろ? さすがの、俺アルニッキーも中々に厳しいかもしれないからさ、騎士団の皆さんに協力していただいて、予防線を張っとこうと思ってね。俺らが負けて、全く知らないヤツらと海底都市行くわけにはいかないだろう? 」


(うっ……それは……)


 知らない人3人と、ユキちゃんと私で海底都市に行く想像をしてみた。うん、失敗する未来しか想像できない。至宝探しどころか男ってバレたら一貫の終わりだ。女ってバレるのももっとマズいけど。


「たまたまラグーノニアに別件で捜査に来ていた第3騎士団の皆さんにも闘技大会に出てもらって、ご協力願おうってわけでね。味方は多いほうがいいし、別に反則はしてないからいいだろ? もちろん俺らが優勝する気満々だけどね! 」


「たまたま……? 」


「そう、たまたま!! 」


 ジークがニッコリ微笑んで頷く。実に怪しい。最近のジークは信用できないが、これ以上ごねていたところで何も情報は引き出せないだろう。人間あきらめが肝心なのだ。


「ミコト様~。私たちがフェイ副団長はボコボコにしときましたよ! 」


「機嫌直してよかったら一緒にお買い物行きましょ~!! 」


「え! 楽しそう~!! 行く行く!! 」


 第3騎士団ってことで、サマンサちゃんとナターシャちゃんがいた。荒んだ心のオアシスだ。サマンサちゃんとナターシャちゃんの手によって、エロおやじは吊るされているし……もういっか。怒ることより楽しむ方が性に合う。サマンサちゃんとナターシャちゃんと南国デートなんて心が躍る。


「ミコト、女装になれるためにもそのままの格好で遊びに行っておいで。」


「えぇ~でも……わかったよ! そのままね!! 」


 ジークの微笑みの圧に負けてしまった。まぁいいさ。女の子として行くということは、これでハグしても何しても怒られない。さっきのエロおやじの感触を払拭するためにも私には天使たちとのイチャイチャが必要なのです!! 


 ♢♢♢


「くぅ~! 美味しい~!! 」


「ミコト様~、こっちも美味しいですよー! はい、あーん。」


「あーん!! 」


 女子会最高っ!! カフェに入って念願のサーニャアイスを食べる。サーニャの実は緑色のツルンとした果実だ。大きさはグレープフルーツくらいで、ヘタの部分だけカットされて南国の色鮮やかな花を添えられて運ばれてきた。実を丸ごとほじくって食べる感じが楽しいのなんの! サマンサちゃんのフルーツタルトも、ナターシャちゃんのシフォンケーキも絶品だ。何より麗しい女の子から手ずから味わわせてくれるオプションが最高だ。


 男どものせいで荒れていた心が浄化されていく。私じゃなくてこの子たちが聖女だよ~!!


「ほんと信じられない!! みんなしてブラとか詰め物とか触っててさ!! 」


「わかります~! 騎士団でも誰かが話し出すとすぐに便乗して盛り上がって……居心地悪いんですよね~!! 」


 男ってやーねぇーって話で盛り上がる。あぁ、女の子同士最高。癒されるよ……


「あ、灯風船マナ・バロン……」


 ふと空を見上げると灯風船マナ・バロンが飛んでいた。昼間もきっと綺麗なんだろうなぁ。このラグーノニアの青い海を上から見る絶景も楽しそうだ。


「ミコト様、もう灯風船マナ・バロンには乗ったんですか? 」


「うん~、昨日の夜アルと。」


「カルバン副団長と……? 」


 サマンサちゃんとナターシャちゃんの目がキラリと光ったことに、ミコトは気づかないまま女子会の醍醐味、恋バナに話題は移っていく。


「2人で乗ったんですか……? 」


「そうなんだよね~、ユキちゃんが空気読まずに途中で帰っちゃってさ~。」


「二人で、どんなお話を……? 」


海絆祭ラウトアンカーについて話したよ。」


「それ以外には……? 」


「それ以外……」


 “大人を舐めるな”低音ボイスが脳内で木霊する。ダメダメダメっ!! あんな危険なものは封印して抹消しなくては!!


「な、何もないですよ……」


「ありましたね!! 何かあったんですね!! 」


「何もない!! 何もなかったらないっ!! 」


 なぜだかすぐに見抜かれた。しかし答えるわけにはいかないので全力で回避させていただく。


「ほら、俺の話はもういいから! 普段の騎士団の話とか聞かせてよ。花の都以外での仕事も結構あるの? 今回みたいに遠征的な? 」


「そうですね~。第3騎士団はいわゆる特殊部隊のような立ち位置にありますから、地方の警備隊で解決できそうにない問題とかがあれば任務が来ますね。第1騎士団が王家の護衛や、地方の警備団の統括、つまり人から人を守り、第2騎士団は魔物から人を守り……で、第3騎士団は? ってなると説明が難しいんですよね。」


 ナターシャちゃんが少し困ったように笑う。


「本腰入れてじっくり調査したい案件がこっちに回ってくる、って感じです。簡単に言えば。いろんなことをするから、個性的なメンバーがそろってますよ。その中でもカルバン副団長は圧倒的な身体能力とその面倒見の良さで、部下からモテモテです。」


 サマンサちゃんがかわいくウインクしながら教えてくれる。イケメン女子からの不意打ちウインクは駄目だって。惚れちゃう。


「そうそう、基本的に無口だけど悩んでいる時には気づいて声をかけてくれますし、どんな相手でもひるまず立ち向かう強さも団員たちの憧れの的です。」


「剛のカルバン副団長、柔のフェイラート副団長で第3騎士団は成り立っているようなものです。だけど獣人の種族柄か、カルバン副団長は他人に固執することは今までなかったんですよ。来るもの拒まず去るもの追わず……優しいは優しいんですけどね。でもこの前のお見送りの時に副団長がミコト様に……」


「アルの、番いはきっと幸せ者だよね。絶対大切にしてくれるもの!! 」


 少し不自然になってしまったかもしれないが、これ以上アルの話をするのは耐えられなくて無理やり遮ってしまった。こういう自分は本当に嫌いだ。もう少し大人の対応が出来ていたはずなのに、アルのことになると途端にできなくなる。


 特に、私よりもアルを知っている2人から聞く話は、アルが誰か知らない人に思えてきちゃって心に黒い靄がかかる。どんなに望んだって、この手を掴まれることはないのに。


 大丈夫。今ならまだ、うまく笑えているはずだ。


「イケメンで、強くって、優しくって、仕事が出来る! 女の子にとって最高の旦那様だよね。ほんと、この旅の間で番いに会えるといいよな~。ジークやニッキーもそう言ってたし。」


 やっぱり不自然だったかな。サマンサちゃんとナターシャちゃんがきょとんとした顔の後に少し気まずそうに身じろぐ。ごめんね……そんな顔をさせちゃって。もう少し器用に話題を逸らしたかったけど、私の技量はここまでです。


「……ミコト様も、この旅の間に副団長が運命の番いに出会ってほしいと思っていますか? 」


「……思っているよ。大事な友人の幸せを願うのは当たり前じゃん! 」


 うん、大丈夫。今日一のいい笑顔が出来ているはず。

 でも何故か、サマンサちゃんが少し残念そうな顔をする。え? なんで?


「ミ、ミコト様は、薔薇好きですけど……ご自身の恋愛対象はどちらなんですか? 」


「え? 俺?? 」


 なんでいきなりそういう話に――?

 あぁ~、確かに今までの女子会の私を見ていると、そう誤解されてもおかしくないか。思いっきり男性愛について語ってたしなぁ――

 真剣な目でこっちを見ているナターシャちゃんと向き合う。


 この場合、答えるのは1択しかない。


「女の子だよ。だって俺、男だし。」


 俺だってオオカミなんだぞ~と、ガルガル唸ってみたら、クスクス笑われた。場の空気が和んだことにホッとする。


 何も不自然なことはない。

 私は男だから――、友人のアルがかわいい女の子と幸せな未来を歩む道を祝福しなくちゃいけない。この小さな嘘が、心に少しずつヒビを刻んでいくだけだ。




サマンサ 「ミコト様と副団長の、運命の番いを乗り越えた究極のラブストーリーはやっぱり咲かないのかな? 」

ナターシャ 「……二人並ぶといい感じだけどなぁ。ミコト様が断言してたし、厳しいかなぁ。」

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