第60話 魅惑のオパールソースに悶絶です

 アルが買いに行ってる間におばちゃんが豪快な皿を持ってきた。


「お待たせ~! ラグーノニア一の名物! 焼きエビのオパールソース炒め。たっぷりソースを絡めたエビをパンにはさんで、好きな野菜を入れて豪快にかぶりつくのがうち流さ!! 」


 プリプリのエビが黄金色のソースに絡まって輝いている。空腹を刺激するスパイスの匂いがもう堪らない。


「おばちゃん、オパールソースって? 」


「魚や貝、香味野菜を何日も煮込んで寝かせて熟成させた、オパール食堂秘伝のタレさ!! 濃厚な魚介エキスがプリプリのエビに絡んで弾けてもう最高!! ここだけの話、このソースはうちの旦那がプロポーズの時に指輪代わりに持ってきてね、なんてロマンのない人だ、即お断りだ!って思ったんだけど……一口食べたらもう天にも昇るようで~」


「おい、オパール!! 注文が立て込んでる!! 余計なこと喋ってないで早く戻ってこい!! 」


「あいよ! じゃあねお兄ちゃんたち、ラグーノニアの夜を楽しんで!! 」


(オパール食堂のオパールソース、女将オパールか~。親父さん女将さんのこと大好きじゃん!! )


 おばちゃんがしゃべっている間にアルも戻ってきた。ほっこりエピソードに癒されながら、おばちゃんのオススメ通りにたっぷりオパールソースを絡めたエビにかぶりつく。途端に口の中に広まる貝の風味、ニンニクの香り、そしてそれに負けないエビの濃厚な甘さ――!! 濃いソースとエビは喧嘩をせずにうまく調和して、お互いがお互いを高めあっている。そしてその濃さを少し硬めに焼かれたパンとシャキシャキの野菜が緩和して――


「美味しい~~っ!! 無限に食べられるっ!! 」


「これはうまいな……。適当に入った店なのに大当たりだ。」


「…………っ!! 」


 ユキちゃんに至ってはもう言葉を発する暇がない。ソースとエビと野菜を積み上げ食べ、積み上げ食べ……食べ盛りの少年は恐ろしい。


「こんな世界一のソースをプロポーズに……って女将さん幸せ者だなぁ~。きっとあの話いろんなお客に話しているよね! 」


「……そうだな。」


 フッと笑いながら、アルがパンを口に運ぶ。やめてもらえませんかね。その時折、雰囲気を緩めるの。無意識ですか――!?


(集中、集中!! 今は目の前のエビさんに向き合うのです。)


 アルが唐揚げと買ってきたサーニャのソーダ割りを一口飲む。甘酸っぱい爽快感と、オパールソースがこれまた合う……! いい仕事するぜアル!! たまに口直しに唐揚げを挟むがこれもまた、冷めてもジューシーかつパリパリで美味しい。出来心で唐揚げにオパールソースを絡めてみたが……美味しさに悶絶する。


 エビ、ソース、唐揚げ、ソーダ、エビ――壮大な輪廻の輪が、テーブル上には広がっていた。これもオパール女将の作戦かしら……


今夜もお腹いっぱいになるまで、美味しいラグーノニアの夜を堪能した。




「ミコト、そんだけで終わりか? ユキを見てみろ。もっと食わんと大きく……」


「無理だってば! もう!! 」




 ♢♢♢



 満腹感の幸せの余韻に浸る。ちなみに見忘れていた、というか見る暇がなかったニッキーメモにちゃんとオパール食堂は載っていた。


 “オパール食堂:屋台街でぜひ味わいたい一品。魚介をふんだんに使ったオパールソースは最高。オパールソースは、町のレストランの一人娘オパールに惚れた若き料理人が、彼女との結婚を彼女の父に認めてもらうため愛の力で開発した。「俺の娘を一生笑顔にするくらいの料理を作りやがれ」という難題に料理人は挑み、オパールも大好きな彼との未来のため陰ながら支え応援した、言わば二人の愛の結晶。女将の笑顔は今も屋台街を明るく照らしている。”


(女将……こっちは照れて恥ずかしくて言えなかったんですね。というかすごいなニッキーメモ!! )


 ニッキーメモには屋台街の裏事情から、オススメのゴールデンコンビまでなんでも載っていた。どうやって情報集めているんだろうか。


「ねぇねぇ、帰りに腹ごなしにここ行ってみようよ。」


 ニッキーメモ、“食べ過ぎたとき~ラグーノニアのんびり夜散歩~”を指差す。ここまで想定済みだったのか!? 


 どうやらラグーノニアは夜景が綺麗らしい。名所を網羅するオススメルートが書いてある。


「行くか。ラグーノニアの夜景は噂で聞いたことあるし、まだあいつらも帰ってきてないだろうしな。」


「よっしゃー! 」


 思えばこの世界に来てから夜遊びなんて初めてだ。ロザリー歌劇団に行ったくらいで……なんて健康的な生き方をしているのだろうか。ワクワクしてきた。


「僕パス。ちょっと研究したいことがあるから先帰るね。ルパート・ハインツも寂しがっているだろうし。」


「え、ちょっ、ユキちゃん!? 」


「僕もう疲れたし。じゃあね~。」


 スタスタと去っていく背中を呆然と見つめる。あとは2人でごゆっくり……とかそういうんじゃないなあれは。あの子にそんな気遣いはできない。純粋に研究したいから即座に帰っていったのだろう。こっちの空気も読まずに――


(ユキちゃんの大馬鹿子イノシシー!! )


 なんてこったい。急遽アルとの夜景デートが決まってしまった。


(いや、デートじゃないから!! 観光、そう、ただの観光!! )

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