第59話 屋台街に行ってみました


 ここ、ラグーノニアはユースタリア国内でも屈指のリゾート地だ。海辺には観光客向けの宿が多く並んでおり、見事な景観を楽しむことが出来る。そんな宿屋街から15分ほど歩いたところに、ラグーノニア随一の観光名所、屋台街があった。

 どの店にも扉はない。開放的な作りの店が並んでいる。店の中にはもちろん、外の広場までテラス席のようにテーブルが並んでいる。気になった店があれば、そのまま中に入って食べてもよし、いくつかテイクアウトで頼んで外のテーブルで食べてもよし。地元の人や、観光客が楽しそうに杯を交わしながら語り合い、流しの音楽家たちが思い思いにセッションして盛り上げる。

 辺りを照らす、夜空に浮かぶランタンは光魔法の一種だろうか。ふわりふわりと風に揺れ、音楽に乗りながら踊っている光景は、遠くから見ると蛍のようで少しロマンティックな気分になる。南国特有の熱気に包まれた、活気あふれる市場にミコトのテンションは最高潮だ。


「あそこのおっちゃんが食べてるのは何?? あの豪快な骨付き肉は!! あっちの集団が食べてる麺類も美味しそう……。待って、あの屋台からもいい匂いがしてる!! ねぇ! あのお姉さんたちが持ってるのは? 肉まん? サンドウィッチ? あぁ!あそこでイケオジが丸焼き肉から切り出して……それを挟んで食べるのか! え、そんなたくさん挟んじゃうの?? え、溢れ出るじゃん。駄目じゃん。 あんな分厚い肉を何枚も……肉汁とお野菜が絡み合って、パンの甘味が更に引き立つやつでしょう? アカンやん……!! 」


「……あれにするか? 」


「でも待って! あの麺類も気になる! まさかとは思うけどラーメン……」


「ミコトうるさい! さっさと決めてさっさと食べて! 僕研究の続きがしたいから早く帰りたいんだけど! 人もいっぱいだしうるさいし~。」


「えぇ~無理だよ~どこもかしこもいい匂いだし誘われちゃって……」


「お、坊ちゃん店が選べなくて困ってるのかい! うちの名物食べてくかい? ラグーノニアといったらやっぱり海よ! 海の幸よ!! 新鮮な魚で作るうちの料理は絶品よ? 今なら外のテーブルに持っていってあげるから、他のもいくつかテイクアウトしてきたらいいさ! そこの兄ちゃんならいっぱい食べるから余裕だろう? いい男なんだから! 」


 ブツブツ悩んでたミコトたちのすぐ近くの店から、フクフクとした陽気なおばちゃんが声をかけてきた。海の幸か……悪くない。それに外のテラス席でも持ってきてくれるのはありがたいな。この店から漂ってくる匂いも、香ばしくて食欲をそそる。チラッとアルとユキちゃんを見ると、しょうがないなぁって顔をしてるから……いいよってことだよね!


「えぇ~いいのおばちゃん? 外まで持ってきてくれるって……」


「いいよいいよ! あんたかわいいからおばちゃんサービスしてあげる!! 」


「えぇ~サービスまで……!! 」


「気にせんでいいって! カッコいい兄ちゃんに綺麗な顔の兄ちゃん、かわいい坊ちゃんに食べてもらえるならおばちゃん幸せだよ~! おい、あんた~! 焼きエビのオパールソース炒め! 3人前大盛りで!! 」


「あいよ~! 」


 恰幅のいい、笑顔の素敵なおばちゃんが店の奥にいる、おじさんに声をかける。長年してきたのだろう、息の合ったやりとりは、まだ見ぬ料理への期待を更に抱かせる。


「ほら、あっちのテーブル座っときな! あと向こうにある唐揚げがおすすめだよ!! 」


「ありがと!! おばちゃん!! 」


(親切な人に出会えてラッキー! しかもエビかぁ~美味しそう~)


 上機嫌にミコトはおばちゃんに示されたテーブルにつく。しかし流れで決めちゃったからアルとユキちゃんに申し訳ない。


「ごめん~勝手に決めちゃったけどいい?」


「決めちゃったというか決められちゃったというか……。ミコト、もう少し警戒心持った方がいいと思うよ。処世術って知ってる? あとお世辞。」


「知っとるわ!! 箱入りユキちゃんにだけは言われたくない!! 」


「別に箱になんか入ってませんけど? 僕はあんな簡単に流されないし~。」


「どっちも似たようなもんだろ……唐揚げ食うなら買ってくるが? 」


「「食べる……!! 」」




 しょうがない、おいしい料理の前に喧嘩なんて無粋な真似は出来ない。私は年上のお姉さんだからな。ここは折れてあげよう。

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