第53話 幕間:アルの独り言ー③
最近やけに調子が狂うことが多い。
俺らしくない行動をしてしまうというか――
ミコトといると何かがおかしい。
あいつが笑顔だとこっちまで無性に嬉しくなるのはなぜだ。
年の離れた友人というのはそういうものなのか。
あいつがどこにいても自然と目が追ってしまう。
落ち着け。これは職業柄だ。
騎士として、護衛としてワンランクアップしたのだ。
クルクル変わる表情を見ているのはいつまでも飽きない。
考えていることが手に取るようにわかるときと、
わからないときがあるがな。
劇場テアトリージョで――
誰かがあいつを背負って風魔法で壁を上がると聞いて、
鳩尾の部分がカッと熱くなった気がした。
ふざけるな。
そんな無責任に誰かに預けて、
ミコトがもし怪我をしたらどうするんだ。
それくらいなら俺がやる。
獣化すればこのくらいの壁は余裕だ。
本来であれば獣化した姿で触れることを許すのは
番いのみだが特例だ。
そこの騎士団とバカ王子、下で茶化してんじゃねぇよ。
獣化した耳には全部聞こえてるぞ。
こいつが怪我をするのは耐えられんからしているだけだ。
目の前で怪我されちゃ、それこそ護衛失格だ。
獣化した鼻では、あいつの匂いが今までにないくらい強く感じられる。
跨った太もものムチムチ感や
目測を誤って少し端の方に飛んできてしまった。
不覚。
ダンジョンで――
ミコトの戦いっぷりは正直ハラハラして心臓に痛いが、
スライム一匹倒すだけで花咲くように笑うから、
見守るしかできねぇ。
それにしても第二次性徴前の少年というものはこんなに破壊力あったか!?
普段は汗臭い筋肉たちに囲まれているからよくわからない。
逃げるときに抱き上げたが、片手で余裕だ。
あんなに細くて柔らかいと女と勘違いされるぞ!?
休憩中に焚火を見つめながら何かを考えている様子は
年齢よりもグッと大人びて見えて、
無駄な色気がある。
ムードを作るにはろうそくの明かりが一番だとフェイが言っていたが、
これがそういうことなのか!?
マッサージの時も思ったがこいつの時折出る脳みそを痺れさせるような声は何だ。なんだか俺が悪いことしている気分になるじゃないか!?
全てはあれだ。こいつがもっと成長すれば解決することだ。
諸事情により成長が遅いし男っぽくなれないと聞いてはいるが、
多少は変わるだろう。
野に咲く花のような、夜中に飲むホットミルクのような、心が安らぐ甘いにおいも
もう少し聞いていたくなる衝動を誘っているような声も
ずっと撫でまわしていたくなるような身体も
恐怖で震えながら必死に縋り付いてくる腕も
下からおずおずと見上げてきた潤んだ瞳も
周りが明るくなってこっちの気分まで高揚させる笑顔も
全てはこいつが成長すれば無くなるはずだ。
惜しいとかちっとも思ってないぞ。
よって俺はミコトにいっぱい食べさせることに決めた。
立派に成長して、素晴らしい筋肉をつけろ。
せめてもう少し男らしくなれ。
それまで俺が全てのものから守ってやるから。
それにしても、寒がっていたミコトを抱いて眠った日はすごくよく眠れたな。
誰かと眠るとあんな感じなのか?
番いがいるやつはみんなあんな幸せな夜を過ごしているのか?
長年の飢えが満たされ、心の隅から隅まで癒されるような……
あれは聖女効果か?
また出来ることなら抱いて――――
♢♢♢
「おい、おーいアルっ!! すげぇ怖い顔してるぞ。また何エロいこと考えてるんだ。」
「んあぁ? うるせぇ! 何も考えてねぇよ!! 」
「うわっ! カルバン副団長いつの間にこんなに飲んでたんですか? ベロベロじゃないっすかっ!! 」
「そんなに酔ってねぇよ。 普通だ普通!! 」
「オーケーオーケー。まだ大丈夫だよなぁ。おばちゃん! 酒追加で!! 見とけよ新入り、うちのアルはここからがかわいいんだぜ。」
♢♢♢
「アル~、女で一番どこが好き?? 」
「ん~、あしぃ~」
「番いってどんな感じだと思う? 」
「きっといい匂いがしてぇ~ふぅわふわでぇ~食べるときっと甘いんだぁ~」
「番いにあったらどうするの~?? 」
「誰にも見えないところに隠してデロデロにすりゅっ!! 」
「カルバン副団長……食べると甘いって……お菓子じゃねぇんだから……」
「それよりも何よりも口調は酔ってフワフワなのに顔だけめちゃくちゃ怖いんだけど……訓練の時より恐ろしい……」
「アルはな~、女のこと、エロいこと考えるときいつも顔が険しくなるぞ~。本人無意識で自覚ないがな! エロ本なんて悪の教典か!!ってくらいの目で見てるからもう笑えて笑えて仕方がない……」
「知らなかった~、ってか知りたくなかった~」
「誰にも見ないところに隠すって……子どものおもちゃですか……」
「まぁ獣人だし、蜜月が終わるまでは仕方ないだろうなぁ。せめて至宝集めてからにしてくれよ~。今出会ったらきっとこいつのことだから、旅に行くこと拒否するぜ! お前を慕っている聖女ちゃんが可哀想だろ~」
「ん~ミコトも一緒に隠す~」
「んなことされたら、この国終わるわ!! 聖女は巻き込むなっ!! 」
全くもう~副団長ってば……
賑やかな笑い声に包まれて夜は更けていった――――
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