第51話 幕間:アルの独り言ー①
「おい! これのどこが大事な会議だ!! 」
「まぁまぁ、大事だろ? 第3騎士団定例会。」
「ただの飲み会じゃねぇか!! 」
そもそも夕方に会議があることに違和感はあったのだが、まんまと嵌められた。フェイと、フェイにノセられた後輩どもに会議室から居酒屋まで、わっせわっせと連れてこられてしまった。あんな大人数でかかってこなくてもいいじゃないか。おかげで逃げることも出来なかった。団長命令だといってたくせに、肝心な団長は“孫と遊びたい”ってこの場にすら来ていない。なんなんだ。
ミコトとフェイがなんか仲良さそうに話していたことは知っていたが、こんなことを企んでいたとはな。俺と観劇に行くのはそんなに嫌だったのかよ。
腹立たしさを流し込むかのように杯を煽った。
向こうでは最近結婚した後輩にフェイがしつこく絡んでいる。やめてくださいよ~と言いながらフェイの質問にデレデレ答えやがって……幸せそうだなぁ。
長年慣れ親しんだ、ほろ苦い焦燥感が胸に広がり、そいつをかき消したくてまた杯を煽る。ちっ、空になっちまった。新しい酒を待っている間にこの感覚になったのは久しぶりであることに気づく。
あいつが来てからのここ何ヶ月かは感じたことがなかった。
忙しすぎたからか?
バカ騒ぎしている後輩たちと、その中心で一番騒いでるアホ先輩をボーっと眺めながら、ミコトと出会ってから変化した俺の日常について思い返した。
♢♢♢
獣人ほど侘しい種族はないと俺は思っている。いつも心が飢える。仕事を頑張って認められても、確固たる絆で結ばれた仲間がいても――
番いがいなけりゃこの渇きは満たされることはない。
番いを求め続け、気づけば俺も28歳だ。番いを見つけた獣人仲間だけでなく、ヒトの友も結婚して所帯を持つやつが過半数を占めてきた。
――――くそったれが。
人の多い王都に出れば、番いに会えるかもしれないと思っていた純粋な少年時代の俺を全力で張っ倒したい。人生そこまで甘くありませんでしたっ!
番いに出会ったときに胸を張れる男でありたいと、努力を重ねいつの間にか第3騎士団の副団長として昇進し、毎日それなりに慌ただしく過ごしていた俺に、とある春の日、王命が入った。
“聖女降臨されたし。護衛として協力せよ。”
めんどくせぇ。なんで俺が。普通、1対1の護衛っていうんはフェイみたいに人づきあいが上手い奴が適任なんだよ。四六時中、不愛想な俺と一緒だと、相手が疲れちまうだろ。俺も疲れるけど。
しかし王命とあっては、断ることが出来ない。しぶしぶ俺は、聖女と王家のご家族が待っている晩餐会場へと向かった。
「第3騎士団副団長アルフレッド・カルバン只今参りました。」
王に招かれ、部屋の中に入る。前情報で、12歳の少年だと聞いていたが――思ったよりちっこいな。ほっぺもふくふくして柔らかそうだし、手首なんてすぐに折れそうなほど細いし、クリクリとした丸い目がなんというかまぁ、特別美人じゃないけど、なんか雰囲気が可愛らしい。まるで女の子みたいじゃねぇか。この女みてぇな頼りなさそうな奴にこの国の命運任していいのかよ。
思わず眉間にシワが寄った気がするが、まぁ俺のデフォルトだ。慣れろ。
「アルフレッド・カルバンと申します。貴殿のことは必ず守りますのでよろしくお願いいたします。」
目上の者に対する、慣例通りの騎士の挨拶をとる。ここで普通、相手からの返答があるはずなのだが、聖女様はピクリとも動かない。
俺の顔が怖すぎて怖気づいたか――?
「ミコト殿…?」
恐る恐る顔を上げると、俺をじっと見つめる黒曜石のような瞳と目が合う。黒い目のやつは他にも会ったことあるが、聖女様の黒はなんか輝いて見えるな。異世界人特有の色か?
髪の毛も一本一本が細くてフワフワ柔らかくて、触ったら気持ちよさそ――って俺は何を考えてるんだ!?
幸いポーカーフェイスが売りの俺の思考は周りに気づかれていないだろう。
「あ、あのすみません。ボーっとしてしまって。」
声も女みてぇに高いな。大丈夫か。
「素敵な髪色だなと思って、目が離せなくって!! こちらこそよろしくお願いします。」
なななな何を言ってるんだこいつは!!??
俺を口説いて何をどうしたい!!
聖女様の衝撃発言に脳みそが働かない。
騎士としてどんな状況にも即座に対応できると思っていたが、不覚だった。
いけすかねぇ王子どもに大笑いされて、初めての出会いは幕を閉じた。
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