第50話 幕間:ジークの華麗なる考察

「なんでこんなにも情報がないんだ……」


 書斎の椅子にドカッと座り、天井を見上げる。

 おかしい。明らかにおかしい。


 ミコトから聖女儀式について聞かれたとき、頭の中のモヤが一気に晴れたような気がした。今まで疑問を抱かなかったことに疑問を持つ。いや、何度か疑問に思ったはずなんだ。なぜかその疑問は、解決する前に消えるんだ。


 ――何度も。何度でも。


 自分の中の最悪の想定に思わず手を握りしめる。落ち着け、まだ確証はないんだ。他にも考えることはたくさんある。無理やり頭を切り替えた。


 大司教から届いた資料を見る。俺の優秀な相棒が更に詳しく調べて持ってきてくれるので、サラッと目を通すだけに留めた。だって同じものを何回も見る必要ないじゃんね。


 それよりも今は――

 兄上からの手紙が問題だ。


 ミコトはこの国に来てから2個も至宝を見つけたのに、いまだに王宮内での評判は低い。まるで完璧な聖女でないミコトは軽んじてよいとかのように。


 男だ女だってのが何に関係あるんだ。ミコトは不器用だし能天気だけど、この国の力になろうと真面目に頑張ってるぞ。12歳の少年が親や友とも引き離され、学校にも行けずに……


 “俺には何もない”って泣いていたミコトの叫びがずっと耳に残っている。聖女が来たからには全て任せればいいって安心して、むしろなんでまだ魔法の1つも使えないんだって、聖女をうさん臭く思っていた自分に気づいたあの日は衝撃的だった。


 俺泣いている子どもに弱いんだよな~


 次の日様子を見に行ったら笑顔で元気になってて安心した。あの堅物騎士と有名なアルがどうやって笑顔にしたかは知らないが、きっと彼も泣いている子どもに弱いんだろう。仲間だな。


 子どもは素直に笑っているのが一番だ。


 せっかく国中を旅してまわるんだ。俺がこの国のいいところ、楽しいところをたくさん教えてやる。とりあえず次の目的地はここかな。


 海の都 ラグーノニア

 海底都市


 大司教からの報告書にあったそこにチェックを入れる。国内でもトップレベルの遺産だ。何せ古過ぎて沈んじゃってるしね。


 それに夏と言えば海だ!!

 青い海、白い砂浜、新鮮な海の幸、南国特有のフルーツ、国内屈指のリゾート地だ。ここは権力フル活用で楽しむぜ!!

 ちょうど祭りもあるみたいだし、ミコトはこういうの好きだろうな。思わず顔がニヤケる。


 ニッキーにラグーノニアのおすすめ宿とグルメも調べてもらおうっと。下手なグルメ本よりもはるかにいい情報を頼めばあいつは仕入れてきてくれる。本当に最高だぜ。


 いつもは俺の後ろに潜んでいようとするあいつを表に引っ張り出せるところもこの旅の好きなところだ。小さい頃はずっと一緒にいたのに、影の使命は~とかごにょごにょ言って年々引っ込んでいることが多くなってきた。お兄ちゃん寂しい。


 影たちは影なりに、理想とする形があるらしく、あまり強くは言えないが、出来るならあいつに堂々と隣に立ってほしいな。


 いつかその影の概念をぶっ壊してやることも俺の目標の1つだ。


 隣にいたほうが圧倒的に面白そうじゃん!

 ニッキーも日記で愚痴っていたしね。あれは14歳くらいの日記だっけな?

 相棒の望みは例え相棒が忘れていたとしても叶えてあげなきゃ。強引にでも☆


 ――お、帰ってきたみたいだ。


「おい、報告書と大差ないんだがこのクソ野郎。」


「そうだと思ったよ。安心した! 」


「てめぇぶっ殺す!!! 」


 ニッキーが全力で投げてきた報告書をキャッチする。ナイスコントロール! そしてナイスキャッチ俺!!


 大司教と騎士団からの報告と変わらない内容だが、報告書には載ってないことまでちゃんと調べてきてくれてる。うん、相変わらず最高だ。


「ありがとう、ニッキー。いつも助かるよ。」


「あんたのその癖やめた方がいいってマジで。ミコトが言ってたぞ。ちゃんと休まないとブラックだって。」


 ソファにダラッと座ってニッキーが言う。

 はいはい~わかってますけど、次の旅まで時間はないのに知りたいことはいっぱいなんだよな~。ニッキーには悪いけどもう一仕事……


「じゃあ、王宮の噂だっけ? ミコトに対する噂の出元を調べてきたらいいの?」


「そ、具体的な対処は兄上たちに任せるけど俺なりに情報が知りたい。」


「ん、わかった。じゃあちょっくら行ってく……」


「あぁ、あとラグーノニアの評判のいい店とお土産と名物と、あと祭りの見物スポットも調べといて。」


「だーかーらー、そういうのは観光雑誌とか見ろって常々言ってんだろうがぁっ!!! 」


 これまたさっきまで抱きかかえてフニフニしていたクッションを投げつけて、足音荒くニッキーは出ていった。


「あと、ミコトの近況報告もよろしく~」


「んなもんアルに聞きやがれっ!! 」


 と言いつつちゃんと調べてくれるのが俺の影。

 影からの詳しい報告書に目を通しながら、俺の華麗なる日常は過ぎていった。





 ニッキー 「なんかミコトが不特定多数のメイドと女騎士を部屋に連れ込んだって噂が流れてるんだが……お前この情報知りたかったの? 残念ながら事実だ。(遠い目)」


 ジーク 「え、ちょっ、違う!! なにやってんだあいつは!! 自分で評判を下げるな!! 」

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