第49話 幕間:ニッキーのお忍び便り
「あぁ? ついでに王宮についても調べろだと? 」
ヤツの命令で神殿本部へと侵入してた俺に急遽指令が入る。
こういうときはホントあいつとの
ミコトが言ってたケータイデンワみたいなもんだ。大変胸糞悪いことに俺とあの野郎限定だけどな。王家とその影の代々伝わる古典魔法の一種でお互いを縛りあう頭のおかしい契約だ。おかげで俺の有能さに気づいたあのアホによって次から次に無茶ぶりされる毎日だ。
きっとこの魔法の存在を知ったらユキのやつ泣いて喜ぶんだろうなぁ。絶対に言えないけど! もし言ったら俺、父さんと爺さんとその他一族の方々と王様に怒られちゃう。こいつがあるおかげでダンジョンでも俺と奴が離れる分には問題なかったから、多少楽観的に攻略へ乗り出した。まぁ他のやつとの連絡手段にはさすがの奴も頭を悩ませていたが。スライム万歳だ。
――お、来たか。
大司教が扉を開けた瞬間にスルリと忍び込む。鍵を解錠して忍び込むことは造作もないが、イジった痕跡を細工するのがめんどくさいからな。まだまだ仕事は詰まってるし。扉を開けて招いてもらった方がやりやすい。侵入困難な場所への指令があまりにも多いもんで、無駄な経験値がついてしまった。素人にはお勧めしないぜ、俺くらい気配を消せるようにならないと、すぐに相手に気づかれるぞ。
――そろそろ時間かな。
「大司教! すみません!! 神殿前に怪しい鞄が置かれ、強烈なにおいを発しております。」
「な、なんだと!? 」
神官の報告でおっさんが大慌てで部屋を出ていく。うん、何かに使えるかもってミイラの腕を持って帰ってきて正解だったぜ。さすがに腐った腕が置かれてたら騒ぎになりそうだから、厳重に袋に入れて中身を風魔法で木っ端みじんに粉砕しておいた。かなり腐敗してたからなぁ、袋開けたらそりゃ強烈だわ。
あの腕に直接触れられたミコト、同情するぜ。
聖女研究に生きがいを見出している、大司教の研究部屋は大量の資料に囲まれていた。くそったれ。これらを吟味していかなきゃいけないことに気が遠くなる。そもそも大司教は至宝探しに協力的じゃないか。なにが“隠されている可能性もあるから、報告以外にも調べて裏とってきて”だよ。そこまで言うなら自分でやれや。あの完璧主義者め。あいつの満足に付き合わされる俺は、こうやって何回無駄足を踏んだことか。それで新事実が発覚することもあるが、稀だ、稀! 大抵、報告通りでした、って死んだ魚の目で指令終了するのが日常茶飯事だ。
幸い大司教は綺麗好きらしく、研究結果は丁寧に分類されていてありがたい。足の踏み場がない、雪崩の起きまくった部屋に侵入したときは地獄だった。ああいうのは本人しかわからない法則ってのがあるからな、1ミリのずれもないように、必死で記憶しながらの調査だ。あの時の俺、脳みそ5個くらい働いていたと思うぜ。あの日から俺は掃除はこまめにするようになった。
研究結果を見ながら、報告書と照らし合わせる。劇場テアトリージョも、ダンジョンも、建国当初からある古い建造物で、聖女儀式への関わりの可能性が高いってのは間違いないみたいだな。
となると、残りの至宝も遺産に近いものに隠されているって報告は信憑性があるな。
奴からは“他の候補地も調べといて!”だからそのまま部屋の調査を続行する。この後、大司教の自宅の私室も調べて、候補地を下調べしてくれた騎士団の更に裏を取りに行くんだぞ、俺。ダンジョンでもがむしゃらに働いたのに何なんだ全くもう。それが終わったら今度は王城で噂調査か……
女神エルカラーレよ、どうか俺に微笑んでくれませんかね。
神殿の最上部にあるこの部屋なら、俺の祈りが届く気がしてきた。
そういえばミコトは女神に会ったって言ってたなぁ。女神の微笑みから至宝が生まれたって伝説があるくらいだ。手のひら大の宝石を生んじゃう笑顔の持ち主っていうから絶世の美女なんだろ? ってミコトに聞くと、どこか遠くを見つめていたが……あれは何だったんだろうな。
ミコト、うんミコトかぁ。
普段はのんきな少年のくせに、時たまのアドバイスは適格だし、本人がおおらかな性格だからか無性に甘えたくなる時があるんだよなぁ。アレをちょん切ると少年でも母性って芽生えるのか? 孤児院の子どもたちに対しても、小さいお母さんかって感じで甘やかしながらも厳しいとこはちゃんとしつけていたしなぁ。
ダンジョンの夜にぼんやり薪を見つめていた横顔は、なんというか炎に照らされて少し大人っぽく見えて少し緊張した。
あとあれだ、忘れちゃならねぇ、というか忘れられねぇのがアルとのあれだな。なんだって男同士で抱き合って眠るんだよ! おかげでこっちは碌に眠れないまま見張り交代だぞ! 見張り中も気になりすぎてモンスターどころじゃなかったわ。
アルのあの過保護はなんだろうな。天涯孤独のミコトと一緒にいて絆された親心みたいなものか? まぁ、相手が獣人のアルでよかったよなぁ。変な趣味の奴だったらそれこそうまい具合に騙されて襲われかねないほど、ミコトには警戒心がない。アルだったら絶対に手出ししないから安心安全だ。獣人の番いは、本能で自分と相性の良い生殖相手を選別しているって説もあるからな。同性愛は聞いたことがない。
んー、でもアルの負担を減らすためにもミコト自身がもっと気をつけないとなぁ。悪い大人はいっぱいいるんだぞー。いっそのこと女装でもさせてみたら少しは周りに警戒しておとなしくなるかな。
――――思い付きだったが意外と悪くないかもしれない。
情報収集時に、女要素があるだけで得られる情報が変わってくる。俺も若いときは、奴からの無茶苦茶な指令をこなすために何度かしたが……男の時よりも簡単すぎて癖になりかけた。黒歴史だ。成長しちゃって今はさすがに厳しいが、ユキはギリギリなんとか、ミコトなら全然余裕でイケるだろう。
うん、聖女御一行だとバレないようにカモフラージュも出来るし、情報の幅は広がるし一石二鳥じゃないか。
この部屋についてあらかた調べ終えた俺は、自分の天才的な思い付きにに上機嫌になりながら、窓から夜闇へと暗躍した。
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