第44話 幕間:ミコトの場合―②
「おおおぉぉぉぉぉ!! 」
アルに連れられて王国騎士団へとやってきた。
さすがに王国中の脳筋たちが集まる場所である。アルに負けず劣らず、がっしりとした肉付きのいい騎士たちが光る汗を垂らしながら、剣をぶつけあったり、肩組み合ってふざけあったり……眼福だ。
ミコトの脳内で昨夜蒔かれた薔薇の種が一斉に咲き誇る。
(あぁ! 早く護衛女騎士を見つけないと……!!)
薔薇色の思考を表に出さないよう顔を引き締めながら、女騎士を探して辺りを見回す。
「どうだ、ミコト。かっこいいだろう、王国騎士は。」
「うん! すごく憧れる!!(薔薇的に)」
「そうかそうか。お前も男なんだから鍛えればきっといい筋肉が……」
「よぉアルぅー! 会いたかったぜマイスウィート!! 」
何やら不穏なことを話しかけていたアルにいきなり抱き着いた大きな影。
「くっそ。フェイ! いきなり抱き着くな! 」
「いいじゃんずっと会えなくて寂しかったんだから……こいつが新しい男ね!私という者がいながらやっぱりあなたは若い子の方がいいのね!! 」
「気色わりぃことをいうな!! 」
アルに乱暴にはがされても嬉しそうにまとわりつく男は、アルと同じ第3騎士団の副団長フェイラートさん。顎に少しはやしたちょび髭と、遊び心のある瞳がなんとも、ちょい悪エロおやじ感があってワイルドだ。
危ない香りのするおじさんにミコトの心が高鳴る。
(この場合は、アルが受けでフェイラートさんが攻めで……いや、逆カプもありか?? )
腐りきっている。
久しぶりの再会で抱き着いてじゃれあうなんて、100点満点だ。最高だぜエロおやじ!!
2人の関係性に思いをはせている間に、第3騎士団詰め所へとたどり着いた。
「カルバン副団長!! 」
わらわらと爽やかイケメン騎士たちがアルの下へ集まり取り囲む。
アルは後輩に慕われているみたいで、その面倒見の良さはダンジョンでミコトも経験済みだ。
後輩に囲まれ、アルの意識がミコトから離れた。
(今のうちに……! )
「ねぇねぇフェイラート副団長。お願いがあるんだけど……」
「なんだい聖女ちゃん?」
「アルには反対されたんだけどね、俺アルに休んでほしいんだ。俺が来てから約3か月、休みなしで毎日俺の護衛してくれてるでしょ? そんなんじゃアルが疲れて身体壊しちゃいそうで心配なんだ…」
目線を下に下げ、顔に影を落とし、いかにも心配してますという雰囲気づくりも忘れない。
「俺が何を言ってもアルは大丈夫だって言って、休んでくれないから。フェイラート副団長がアルを息抜きさせてあげて――! 」
秘儀! 潤んだ瞳の上目遣い!!
さっきから限界まで瞬きを堪えたおかげでいい感じに仕上がっているはずだ――
護衛に対する優しい少年の思いやりは誰も断れないはず!!
「聖女ちゃん……なんていい子なんだ。いいぜ、おじさんに任せるんだ!! 」
(っしゃぁ! 釣れたぁぁっ!! )
少年の殊勝な態度に胸を打たれたのか、エロおやじは想定よりもチョロかった。
「ありがとう副団長! 出来れば今度の金曜日がいいんだけど…俺その夜予定あるから、アルの代わりに誰かほかの人を紹介してもらって、副団長にアルを頼んでもいい?? 」
「おぅ! いいぜいいぜ任せろよ。 代わりかぁ~、誰にしようかな。」
「あ、出来れば女性の方でお願いします。」
「おっ? 聖女ちゃんあどけない顔して意外とやるねぇ~。そういうのはまだ早いんじゃないか? おじさんは心配だぞ~! 」
「違うよ。そんな意味じゃないよ。俺の行先がロザリー歌劇団の新作舞台だから、女性騎士の方が楽しんでもらえるでしょ? せっかくの舞台なんだから俺も一緒に楽しめる人がいいし。」
(これだからおっさんは――――)
どこの世界もおじさんの絡み方は変わらないみたいだ。
「なんだそういうことか~。てっきり旅の間に殿下に色事を教えられたのかと思ったぜ~。いいか、あの堅物にはそんなこと聞いても無駄だからな。おじさんに女の扱い方は聞くんだぞ!! ほい、ぎゅ~! 」
「うわぁぁ! 」
調子に乗ったエロおやじに、気づけば抱きしめられていた。
背中に回された腕の力強さ、むっちりした胸筋を頬にダイレクトに感じ、ミコトはクラクラする。
(アルでさえこんな正面から抱き着いたことないのに~)
「ん? 聖女ちゃんだいぶ柔らけぇな。まるで女子みたいな……」
「あ、おい! このハグ魔!! ミコトから離れろ!! 」
そのままレーザービームでも出すんじゃないかってくらい凍てついた目をフェイに向けながら、アルは急いで傍にやってきてミコトを救出してくれた。
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