第43話 幕間:ミコトの場合ー①
「な、なぁ……よかったら一緒に…来てくれないか……」
顔を赤らめながらユキちゃんがそっとスライムに手を差し出す。
(グハッ――プロポーズかよ!!! )
ツンデレショタ魔導士がデレた尊さにミコトは五体投地したくなった。
(でも大丈夫かなぁ。ユキちゃん友達ってスライムしかいないってことはないよね? )
天才少年によく起こりうる悲劇を一緒想像して、想像じゃすまされそうになかったので止めといた。
(早く至宝見つけてユキちゃん学校に戻してあげよ)
花の16歳だ。至宝のために休学してくれているが、早く本の都で十分アオハルしてもらわなきゃ。
至宝をすべて見つけて来年には酒を飲む!ユキちゃん青春する!アルは結婚する!ジークとニッキーも何かいいことある!!
(とりあえず2つ目、ゲットだぜ!!!! )
行きの道のりでは無かった感情を抱えて、王城への帰路についた。
♢♢♢
ダンジョン内で得た情報を報告し、ユキちゃんの叔父さんといったその道のプロに過去の聖女や儀式についての調査を依頼して、しばらく花の都でのんびり過ごすことになった。
旅は一回休憩なのだ。そう、休憩だ。
ならばミコトには、ある目的がある。
「ジーク!!!アルに休暇を与えて!!」
とにかく1回アルと離れたい――――離れて冷静になろう大作戦だ!!
なのにこの堅物騎士は、断り続ける。
「これは任務だ!任務に休憩などない!! 」
「何だよそのブラック思考!! 上司がちゃんと休まないと部下も休めないんだぞ!! 」
「休んだところで何もすることがない!! 」
「社畜かよぉぉぉぉ!! あるだろ、街に買い物に行ったりとか、友達と飲んだりとか!!ほら、騎士団! 騎士団に顔出さなくていいの!? 」
ぐぅっ…とアルが息を詰まらせた。ここか! ウィークポイント!!
「ほら、せっかく時間あるんだからさ! 行くべきだよ!! 」
「そうだね、ミコトも行きたいって言ってるし、明日顔出して来たら? 」
(私そんなこと一言も言ってませんけどぉぉぉ!? )
バカ王子がマジでいらない助っ人をしてきた。
ミコトが行きたいのなら、とそわそわしているアルがいる。
(仕方ない。騎士団に行ってアルが仲間に囲まれてわちゃわちゃしている間に撒くか、いい感じの人をスカウトして護衛を変更しよう…!! せめて街の間だけでも…!! )
ミコトの小さな大作戦が、今始まった!!
♢♢♢
王城の部屋に戻り、一息ついたところでふと考える。
(――――暇だ。)
残念なことにクリスティア姫様はダンジョン攻略中に、本の都の魔法学校へと行ってしまわれたのだ。孤児院にでも顔を出したいけれど、外出には必ずアルがついてきてしまう。離れよう作戦の主旨が危うくなってきた。
コンコンッ――
部屋のドアがノックされる。顔を出したのはこげ茶の髪を後ろでお団子にしたかわいらしいメイドさんだ。確か姫様付きの侍女の一人だったはず。これまでのお茶会で何回かお世話になった。
「聖女様。聖女様の留守中に届いたお手紙がございます。」
「あ、そうなんだ。ありがとう! 」
この世界に来てから手紙をもらうなんて初めてだ。
高鳴る気持ちを抑え、宛名を見る。
「――――ロザリーからじゃん。」
メイドさんの肩がピクリとした。
ロザリーからの手紙の内容は、
“7の月初めの金の夕べに、聖女様からインスピレーションを受けました。金曜日の花園、第1回公演を行います。よろしければご友人などお誘いになってご参加ください。”
どうやら前回のお茶会で話したBL舞台をこの1ヶ月弱で公演できるレベルまで完成させたらしい。すごいな、ロザリー歌劇団。
「行きたいけど、一緒に行く人なんていないよ~。」
姫様がいないことがさらに悔やまれる。
「あの、聖女様。身分をわきまえず差し出がましいお願いだとは思いますが、わたくしめをどうかお供させてくださいっ!!! 」
勢いよくメイドさんは頭を下げた――
「ちょっ……落ち着いて! 顔を上げて! 怒ってないから!! 」
頭を下げてブルブル震えるメイドさんをどうにかこうにか落ち着かせて、話を聞いてみた。
どうやらこのメイドさん――マチルダちゃんは例の大輪の薔薇の花が咲き誇ったお茶会の給仕をしていてすべて私たちの会話を聞いていたらしい。そしてあの日から、がっつり腐ってしまったそうで……
要するにロザリーの金曜日の花園がめちゃくちゃ見たいという行動派女子だった。
もちろんミコトとしても大歓迎。他にも腐ってしまったメイド仲間を誘って一緒に行こうと声をかけた。
(となると――ますますアル以外の護衛を探さなくっちゃ。)
アルがいたら、せっかくの花金も台無しだ。
アルも楽しくないだろうし、反応が気になって心の底から楽しむことが出来ない。
出来れば女騎士で、趣味の合う人を――――
今週の金曜日、あと3日で探さなくては!!
乙女のエネルギーはすごいのだ。
熱く熱くミコトは燃え上がり、明日の騎士団見学へ備えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます