第42話 ラスボスと対戦しました

 


「アル!!ミコトが落ち着いたなら手を貸せ!!」


 ジークからの指令が飛ぶ。他の3人は風魔法を駆使して宙に飛び上がり、石壁や天井から伸びた蔓にぶら下がって、ミイラを撃退していた。ユキちゃんはちゃんとキングスライムも一緒に抱えていた。親友かよ。


 ジークやあの分裂する弓矢で無差別に、ユキちゃんは魔法でドカンと、ニッキーはターザン状態で蔓にぶら下がり「ア~アア~」しながらミイラを切り払っては攻撃される前に宙へ戻るを繰り返している。


(うわっ!泣いてる場合じゃなかった!!)


「ごめんっ!!」


「謝るよりも先に手を動かして!!至宝はどこにあるのさ!?」


 ユキちゃんから怒られた。


「えっと…」


 神殿内を見渡す。どこもかしこもミイラがいっぱいでもうよくわからない。


(やっぱ祭壇くらいしか思い浮かばない…んんっ?)


 ミイラによって盛大に開かれた棺からキラリと光るものが見えた。2択は外してなかったらしい。そもそも1択だった。


「アル!!あれ!!! 」


「…っつ……なんかあるな。おいジーク!!棺の中だ!!光るものがある!! 」


「よりによってあそこか……!! 」


 ジークの整った顔が歪む。

 ミイラは棺から次から次に湧き出してくる。至宝に近づこうとするとミイラの波に飲み込まれてしまうことは、素人冒険者ミコトでも想像ついた。


「きっと至宝を使った魔導具でミイラを転移させてるんだろうね…あぁ解析したい……」


 ユキちゃんが一瞬恍惚とした表情を浮かべ、すぐにミイラへ厳しい目を向けた。あいつらさえいなけりゃ…激しい憎悪が見て取れた。


「このままじゃらちがあかないぞ!!強行突破で降り立つか…!!」


「ア~アア~」を一回休憩してニッキーが提案する。


「だが近づいて手を棺の中に入れたところでミイラの手で遮られるだろう…!!」


 たしかに…下手したら握手でもしそうだ―――

 先ほどの地獄の奥底へ引き摺り込まれる感覚がよみがえりミコトは思わず腕をさすった。





 プヨンップヨン!!


 ユキちゃんに抱えられていたスライムが激しく何かを主張しているようだ。

 2人にしかわからない何かがあるので、ミコトたちは見守るだけだ。


 話を聞いていたユキちゃんが顔を上げる。


「ミコト!!スライムの中に入れ!!」


「はいっ!?」




 ♢♢♢



 作戦はこうだ。


 スライムにインしたミコトが地上に降り立つ

 アルとニッキーが周りのミイラを薙ぎ払いながら進む

 ジークとユキちゃんは上から援護する

 スライムがミイラの腕から防御してくれる

 ミコトは遮られることなく棺へ近づける

 スライムから腕を伸ばして魔導具ゲット!!


 単純明快だ。


「スライムの中に入って俺溶かされないの!?」


「大丈夫!…こいつはもう……友達だっ」




 目を少し伏せ、誰とも合わせないようにしながら、ユキちゃんは絞り出すようなか細い声で呟いた。

 声は震えてるが、顔中、首元まで真っ赤っかだ。


(おいおいおいおい!一晩で何があった!!美少年の照れ顔尊い…!!)



 ウリ坊可愛すぎる。最高かよ。


 ユキちゃんとスライムの友情を信じて、サルの頭の上でミコトはスライムに入る。


(ちょっとひんやりしてて…気持ちいい……)


 ウォーターベッドに包まれるってこんな感じだろう。顔の周りは空気の層で包んでくれて呼吸もばっちりなのでスライムの中は想像以上に快適だ。


「よしっ…ニッキー!行くぞ!!」


「いつでもこいやぁぁぁ!!」


 アルがスライムごとミコトの膝裏に手を入れ肩を持ち、抱き上げる。




(おおおおお姫様抱っこぉぉぉぉ!!)



 憧れのお姫様抱っこだが存分に堪能できるはずもなく、ただ顔を赤くして固まるだけだ。


(私はスライム、私はスライム)



 自分に一生懸命暗示をかける。


 スライムがいてくれてよかった。本当によかった……


 ミコトはオカマ女神に感謝した…!




 地面に降り立ったら後は時間との勝負だ。


(なんか水の上を透明なボールに入って遊ぶレジャーみたい!!名前知らないけど!!)


 ミイラの屍の上をプヨプヨしながらミコトは進む。進行方向はジークが蹴散らし、漏れてしまったヤツやサイドからの攻撃はアルとニッキーが、後方からはドカンッと大きな爆発音が聞こえるのでユキちゃんが活躍してくれているのだろう。


 棺に近づき、のぞき込む。

 スライムの壁があるためミイラの手がツルンとすべりミコトまでは近づけない。


(スライムって実は最強の鎧じゃない?)


 棺の中には…

 太陽の光をギュッと濃縮したような黄金色の輝きの中に、月光のような淡い煌めきが陽炎みたいに揺れている、神秘的な円形の宝石が眠っていた。


 恐る恐るミコトは手を伸ばす。





「うぎゃああああああ!!!」


 至宝に目を奪われて、どんな状況だったか忘れてたミコトは、スライムからゆっくり手を伸ばしたてしまったので…ミイラに再び掴まれた。つくづく残念である。

 死に物狂いで振り払い、急いで至宝を回収しスライムの中へ戻った。


(スライム鎧改善の余地あり!!うぅぅぅ気持ち悪いぃぃぃぃ…)


 “ドンマイドンマイ”とでも言いたいのか、優しくスライムが揺れている。

 スライムの中で掴まれた部分をミコトが必死でこすっている間に、頼れる仲間たちがミイラを殲滅してくれた。



 これにて…

 風の都のダンジョン クリア!!!



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