第40話 ずっと貴方に会いたかったんです
(なんかすごい…爆睡してしまった……)
朝だ。あんなに無理だと思ってたのに…夢の一つもみないまま爆睡してあっという間に朝が来てしまった。自分の単純さが悔しいミコトである。
(だって暖かくていいにおいがして腕の中にいると落ち着いて…って違う違う!!そんなんじゃないから!!これはあれだ!!オカマ女神の時と一緒のやつ!!母性!アルの母性に目覚めただけ!!!)
アルも女神と同じ属性であると頭の中で処理する。
そのアルはこれまたいつも通りのムスッとした表情で朝食を食べている。
(こっちの気も知らないで…罪な男だよ!天然タラシめっ!!)
「よお!やっと起きたか!!上ですごいものが見れるぜ!!」
朝の散歩に行ってたのだろうか…ニッキーが地下に戻ってきた。アルと二人は勝手に意識してしまい気まずいので、ニッキーの帰還にホッとする。
ニッキーは何やらテンション高く戻ってきたかと思えば、アルとミコトを見て目を泳がす。
そのままうずくまり、あぁー!!って自分の頭をわしゃわしゃした後に、ミコトにおもむろに手を伸ばし…またまたあぁー!!って叫びながらミコトの頭をわしゃわしゃしてきた。
「うわっ!ちょ!ニッキー!?」
「うるせぇっ!!とりあえず準備出来たら上に来い!!」
そのまま背を向け走り去っていく。何だあれ。まだエネルギー爆発したりないのか?
(もう!せっかく寝ぐせ直したのに!!)
ミコトは少しプリプリしながら再び身だしなみを整えた。
「……うそだろ…」
昨日はあんなに恐ろしかった…巨大サルがそびえたつ祭壇に…
光が降り注いでいたのだ―――
ダンジョンに入って約2週間…あんなに求めてやまなかった…
太陽の光を再び目にすることが出来た…
「うわぁぁぁぁ!!!」
祭壇の前で両手を広げ、光をいっぱい浴びながらクルクル回る。
気分的には世界名作劇場のオープニングだ。肩にかわいらしい小動物はいないが、胸元にはヘバってるスライムがいる。完璧だ。心なしかサルの目がほほ笑んでいるように見える。
一通り浮かれまわって落ち着いた後に、ニッキーに促され神殿の外に出る。
―――空だ。
正確にはまだダンジョンの洞窟内であったことは確かだったが、最上階まで来たのだろう。洞窟の天井に大きな亀裂があり―――
そこから蒼い蒼い空が―――見えた。
「……空ってあんなに蒼かったっけ。あんなに高かったっけ。」
「……あぁ…失って初めて気づいたな……。俺、ここを出たらかわいいあの子に話したいことがいっぱいあるんだ。」
「ニッキーそれ駄目!死亡フラグ!!」
「はぁ?んだよそれ!!お前の世界なんでそんな変な文化ばかりあるんだよ!薔薇とか百合とか!!いいじゃねぇか!俺も誰かとイチャイチャしたいんだ!誰もいないけどよ!!」
こんちくしょー!!!空に向かってニッキーは大きく叫んでた。
いいね。青春だ。女っ気のない(あるけど!いや、ないけど!!)男だらけのダンジョン生活に嫌気が限界なのかもしれない。
そういう青少年の叫び系は大好きだ。もっとやれ。
ここでもまた、世界名作劇場オープニングPart2をやった。
その様子をアルがいつもよりすこし穏やかな顔で見つめていた…
(空が見れて嬉しいって顔だよね!?そういうことだよね…!!)
「おーい!ニッキー!!ミコト―!!!アルゥー!!」
「バカ騒ぎしてるからすぐわかったよ…」
空に向かってキャーキャーしてたら、ユキちゃんとジークが手を振りながらやってきた。傍にはプヨプヨ跳ねながらキングスライムも一緒だ。
「えぇー!!ジークッ!?ユキちゃんっ!?どうしてここに…??」
「攻略してきたんだよ…このバカ聖女ッ!!!」
♢♢♢
「戻ってこないから心配したっていうのに…なんでそんなのんきなんだよ!!こっちは急いできたのに!!」
「そうだよねぇ。俺ら徹夜でダンジョン攻略してやっとここまで来たのにねぇ。仲間が心配なんだ助けてくれ!!ってスライムにユキちゃん必死でお願いして道案内してもらったのにねぇ。」
「は、はぁっ?別に必死じゃないけどっ!?……いきなりいなくなったら心配するのは当たり前だろ…俺のハンバーグまだ食べてもらってないのに。」
目元にクマを作りながら、耳元まで真っ赤にしてユキちゃんがジークに反論する。隣のスライムも、“めちゃ真剣やったやないかーい!”とでも言いたいかのように、ユキちゃんにプヨプヨ体当たりしてた。
(やだもう何この子かわいい!!!心なしかスライムとも仲良くなってるし…!!!)
平和な光景に心が和む。一晩の戦いでユキちゃんとスライムの間に何があったのだろうか…あとでジークに語ってもらおう。それにしても、元いたとこからここまでどのくらいの距離があったかわからないが、実質2人でダンジョン攻略したようなものじゃないかそれは―――
(今までの苦労は何だ?はっ…!もしかして道案内の力量!?)
思わずスライムを見つめるミコト。
ミコトなんて気に留める様子もなく…スライムは変わらずプヨプヨし続けた。
新たなライバル誕生である。
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