第38話 雰囲気抜群の古代神殿へやってきました


 転移した先はモンスターの目の前でも後ろでもど真ん中でもない、平和な場所だった。


「いいスタートだね。」


 そう思うくらいには感覚は麻痺ってる。

 そして胸元のスライムちゃんは…

 真下に行きたいようで瓶底にヘバッてしている。かわいい。じゃんけんで負けたユキちゃんが持つキングスライムはどうやら下にいるみたいだ。

 ―――あんなの鞄に入れて持ち歩いてたら、気づいたときには四次元鞄の中身消化されてました…ってことになりそうで―――あのじゃんけん大会は大変白熱したものとなった。


「さて、だいぶ上まで来たみたいだな…」


 周囲の様子がいつもと違う。いつもは洞窟の中なのに……大きな切り出された岩が積み重なって造られた建物や、その侵食の年月を感じさせるように蔓延った蔓があたりの石像を覆う、イン○ィージョー○ズが冒険しそうな古代神殿が―――暗闇の中に照らされていた。


「ちょっとこの雰囲気スリルやばくね…」


 ニッキーが頬をピクピクさせながらビビってる。もちろんミコトはさらにビビっている。

 古神兵とかミイラとかアンデットとか…今にも出てきそうな雰囲気に…なんか死者の扱いがうまそうなジークとユキちゃんが恋しくなった。


「早く外に出たいんだろ?ジークたちの所へ戻るより至宝に辿り着くほうが可能性ありそうじゃないか…男なら腹をくくれ!!」


 アルが喝を入れる。


(女ですぅーーー!!!)


 その反論は心の中に留めた。


 ♢♢♢


 このまま隠れていてもらちが明かないので、周囲に十分に警戒しながら、神殿の探索を始めてみた。入口に踏み入れると正面の壁に天井までそびえたつ、角の生えたサルのような巨大な石像が2体。その中央に階段があり、サルの目線の同じ高さまで登り切ったとこに祭壇のような四角い台が設置され―――月明かりに照らされ青白く光って見えた。天井には外から侵入した蔓が垂れさがり、放置された年月を感じる。

 足を踏み入れた瞬間に背中をゾゾゾッとしたものが駆け上がる。


(え?あのサルに何を捧げるの??生贄??もうやだーっ!!)


 ガクブルである。


 とりあえず神殿の1階部分は今にも動き出しそうな変なサルといろんなしがらみが染み込んでそうな祭壇以外は何もなさそうだ。

 一行はサルに睨まれながら奥まで進む。今にもその目の奥が光って「不届き者めがー!!! 」とか怒り出しそうだ。自分の想像力にますます怯えてしまう。映画とか某アトラクションとか知らなきゃよかった……ミコトは後悔した。


 奥の壁まで来ると、どこまでも深く伸びてそうな…地下へ続く階段があった。


「さ、降りるか。」


「ええええ!!どうしても?どうしても?? 」


「…ミコト。お前の勘に聞くが、ここと地下どっちが怪しい。」


「そそそそれって俺が行きたい方?行きたくないほう?どっちを指せばいいの?? 」


「…行きたくないほう。」


「断トツで地下!! 」


 今いる1階部分は祭壇を照らす月明かりがあるため、かろうじて全体を把握することが出来るが、地下は何も見えない真っ暗闇だ。そしてなぜダンジョン内で月明かりのような光がさしているのか――わけがわからないがその演出がさらに怖い。リーダー・アルが地下に行くことを決定したのでそこで思考を放棄した。


「よし、行くぞ。」


 アルの左手にミコトは全力でしがみつきながら、アルが進むので仕方なく一歩踏み出す。ニッキーはアルの右手を掴みたかったようだが、剣が振るえん!と言われて仕方なしにミコトにしがみついていた。がんばれ暗殺者アサシン


「うわぁぁぁぁぁ!! 」


 階段をある程度降りたところで、壁の松明にいきなり炎が灯る。そんな気遣いも演出もいらない。明かりがついたことで壁際をこそこそ這っている毛虫やらサソリやらが一瞬見えた。マジで余計なお世話だ。


 定期的にいきなり灯る松明に毎回ちゃんとビビりながら、階段を降り切った。


 

 ――――上にいたサルが牙を見せて歯茎をひん剥いて怒り顔に変化している

 そんな石像が両サイドに並ぶ、長い廊下だった。

 しかも一体一体妙にニュアンスが異なるため、見分けがついてしまう感じがリアルすぎて怖い。


(むぅーりぃぃぃぃぃっ!!! )



 えぐえぐ半泣きになり、アルにあやされながら、1歩1歩どうにかこうにかサルが見守る廊下を進む。もちろん、定期的に松明が灯るイベントはまだ開催中だ。5サル1松明の割合でファイヤーしてくる。


 5回くらいファイヤーしたところで突き当りの部屋に辿り着いた。


“ノックして開けてネ。おっさん立ち入り禁止”


 そんな石板がかかっている。

 思わずアルを見上げた。何歳からおっさんなんだろうか…


「ふむ…なんて書いてあるのか……」


「え?ノックしてって書いてあるじゃん! 」


「ミコト…読めるのか!! 」


「え!!普通に日本語じゃん!ちょっとギャル文字っぽいけど……」


 そう、日本語である。アルたちが読めるはずもない……

 場のおどろおどろしい雰囲気にのまれ、その当たり前のことに気づくのが遅くなった。


(ということは…聖女に何か関係あるってことか!!! )


 ダンジョン攻略への光が差し込んだ瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る