第34話 ゴブリンさんのお宅へ突撃しました

 次の日―――


 暗い洞窟の中で陽の光などあるはずもなく、今が何時なのかよくわからず中々目覚めない身体を無理やり起こしながら―――


 一行はダンジョンのその奥へと足を進めた。



 この寝不足は慣れない野宿からくるもので、決していろんなことからの心理的ストレスではない!!とミコトは信じているが…寒かったのか?やっぱり野宿は堪えたか?と明らかに顔色の悪いミコトを気遣ってアルが声をかけてくるのが―――




 何よりも一番辛かった。






 昨日のように出会った敵をなぎ倒しながら、だいぶ深くまで進んできた。



 ブウォーーーーン



 再び昨日のような機械音が響いた。

 とっさに武器を構え、周囲を警戒する…


 しかし、360度見渡しても何も異変はない。


(気のせい…?)


 一瞬気を緩めたのもつかの間…


 ミコトたちの足元を青白い光が包んだ―――



「うわぁぁぁぁぁ!!」




 転移した先はゴブリンの群れの真っただ中だった。


 ゴブリンさんたちも家族団らん、リラックスタイムに突如として現れた見慣れない者たちにさぞ驚いたのだろう。周囲はたちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。


 とっさにジークが魔法障壁シールドを展開し、第一陣の攻撃は防いだ。


「死急速やかに撤退する!!ユキ!1時方向のあの通路までの道を開けろ!アル!あたり一帯を薙ぎ払え!!ニッキー逃げ足を加勢しろ!!」


 ジークは指示を出しながら弓矢を構え、天井に向けて撃ち放つ。撃たれた矢が分散し、魔法障壁シールドを中心とした円形に、青い光を放ちながら雨のように降り注ぐ。


 ゴブリンたちが一瞬ひるんだその隙に、アルが昨日のように炎を纏った剣を構え、地面と平行にブンッと振り回す。半径3メートルの所、円周上に炎が上がり、ゴブリンたちはそれ以上ミコトたちに近づけなくなる。


 ユキちゃんが前に躍り出て、左手を掲げ風魔法を解き放った。前方にいたゴブリンたちが吹き飛ばされ、アルの炎を利用した、花道が出来上がる。


 展開の速さに理解が追い付いてないミコトは何かに手をグイッと摑まれ、宙に浮きあがる。



「しっかり摑まってろ。」


 耳元で低く囁かれた。




 アルがミコトを片手に抱き上げ、一行は全力で炎の花道を全力で駆け出した。

 ニッキーの風魔法のおかげか、結構距離があったはずの道のりが一瞬で終わる。

 最後にジークが振り返り、ゴブリンがいた広場と洞窟の間の天井に向けて矢を放ち、瓦礫で足止めしたところで、やっと一息付けた。




 ――――自分が何にドキドキしているのかわからない…




 いきなり始まった戦闘か、耳元を疼かせ身体の芯に響いた低音か、抱かれた腕の力強さか…



 ゆっくり、壊れ物を扱うかのように―――丁寧に降ろされたミコトは下半身に力が入らずその場にヘナヘナと座り込んだ。思わず上を見上げると、ミコトを射抜くような―――力強い目で見つめるアルがいた―――



 心臓が早鐘を打つ。その熱いまなざしに一気に顔が熱を持つ。


 呼吸をすることさえ忘れたかのように、全身が動かなくなったまま、アルを見つめ続けた。



 アルがフイッと視線をそらした―――




「軽い、軽すぎる。筋肉もない。もっと肉を食え。そんなんで男としてどうする。」



 ―――そうだった。今、自分は男なんだ。



「わ、わかってるようるさいな!これから成長するんだからね!!」



 妙な雰囲気が一瞬にして消えたことにミコトは安堵しながらも、自分自身の感情に複雑な思いを抱いていた―――




 ♢♢♢



「さて、俺たちはどこまで飛ばされたのやら…」


 小休憩をはさんだ後、作戦会議をする。このダンジョンには地図があってないようなものだ。ゴブリンが群れで生活するのは7~10Fだと言われているのでその辺りだと見当をつける。


「先に進みたいけど、どっちの方向に行けばいいか全くわからないな…

 さぁミコト、君の出番だよ。どこに行けばいい?」


 笑顔のジークに尋ねられるがそんなこと言われてもまったくわからない…

 残念ながらロザリー歌劇団の劇場テアトリージョで感じた不思議な感覚を、このダンジョン内でミコトはまだ感じれていなかった。


 仕方ないので、女神に祈りつつ運試しをすることにした。


 腰から短剣を抜き、地面に立ててそっと手を放す。短剣はその場で少し揺れた後ゆっくり倒れた。


「右の通路のようです!隊長!!」


(わかってる!わかってるからそんな残念な子を見るような目で見つめないで!!)


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