第32話 灼熱の炎獅子がかっこよすぎです

 ユキちゃんが出してくれた火の玉―――熱くもないしその辺をフワフワ浮いてくれるから両手が空いて助かるんだ―――の明かりを頼りに一行は洞窟内を進んだ。


 入口のお姉さんがタイミングを見計らってくれたのか、先に入った他のパーティと出会うことなく順調に進んでいく。さすがプロだ…

 途中、インプの群れに当たったがユキちゃんがキモイ、と言い放って瞬時に風魔法でどこかに吹き飛ばしていた…



「お、あれは…」


 通路の先に何かプヨプヨ跳ねている。スライムだ!!

 鉄板モンスターにミコトのテンションは上がる。


「1匹だけなら…ミコトのデビュー戦といこうか。」


 戦いの火ぶたは落とされた―――Fight!!


 先制するはミコト選手、使える魔法の中で一番強そうな火の玉をスライムに向かって投げつけた。


 テイッ!!


 パクッ!!


 スライム選手はそれを瞬時に食べて消化した。一瞬スライムの体内が赤く光るがそれだけだ。

 変わらずプヨプヨ跳ねている。


「スライムにちゃちな魔法は通用しないぞー。核を一瞬で壊すくらいの強力な魔法じゃないと!!」


 うるせー野次馬!そんなことはもっと早くに言え!!

 残念ながら火の玉以上の魔法は使えない…自分自身を少し情けなく思いながら、昨日買ってもらった短刀を手にとる。魔法攻撃がダメなら物理攻撃だ…


 ポコッポコッ!


 15㎝程度の土壁…今ミコトが使える土魔法の精一杯…いきなり足元に現れたらつまずいて転んじゃう!レベルの攻撃をスライムに繰り出す。

 もちろんスライムはプヨプヨしながらそれを躱す。

 が…!うまいことスライムを壁際に追い詰めることにミコトは成功した!!


「はぁ!アタタタタタタタタタッッ!!!」


 短刀を構え、ミコト神拳を繰り出す。

 ある程度刺したところでミコトはクルリとスライムに背中を向けた。


「お前はもう、死んでいる―――。」


「―――まぁ、あんなに刺したら死にますわな…」


 WINNER☆MIKOTO!!



 ♢♢♢


 えへへへへッ…

 ニヤケ具合が止まらないミコトを引き連れながらさらに深くまで進んでいく。


「いいか、さっきはうまくいったが…油断しちゃだめだぞ。スライムは獲物を溶かす性質があるからな…できればめった刺しじゃなくて、スライムが飛び散らないように一撃で仕留めろ。あの倒し方だと欠片が顔や腕に飛んできて危ないからな。」


 アルがブツブツなんか言ってるが初めて自分の力でやり遂げたのだ。

 ちょー気持ちいい。


 まぁごもっともな意見なので参考にしながら、スライムが出たときはミコトが倒して…経験値を上げながらダンジョンを進んでいく。



 ブウォーーーーン


 洞窟を曲がった瞬間、低音の機械音のような音が響き渡った。


 弱者のミコトを中心にした陣を取り、各々武器を構え周囲を警戒する。

 突如前方の通路に魔法陣が青白く浮かび上がった…


 その魔法陣から…頭は牛、体は筋骨隆々の巨体、手には何やら赤黒く染まった巨斧を持つ…ミノタウロスが現れた。



「ブモオオオオッーーーー!!」


「怪物だーーー!!!」


「転移魔法だーーー!!!何あの魔法陣っ!!!」


 吠えるミノタウロス、パニクるミコト、興奮して走り出すユキちゃん。


「っ!!あのバカッ!!」


 駆け出したユキちゃんを急いでアルが追いかけ、俵抱きにして走り出す。

 固まっていたミコトはニッキーに手を引かれ、とりあえずその場を退散する。



「おろしてぇぇぇぇっ!!あの魔法陣が消えちゃう!!」


「うるせぇぇっ!この大猪鹿ビッグハバーリノ魔導士!!黙って担がれやがれ!!」


 後方でジークが魔法障壁シールドを張りながら、なんとか岩場の陰へ避難する。


「何やってんだこのガキっ!!死にてぇのか!!おい、ジーク!こいつ見張っとけ!!」


 ユキちゃんを少々乱暴に降ろして、アルは通路に戻り剣を構え、

 ―――ミノタウロスと向き合った。



 ――――フウッ

 アルが大きく息を吐きだし呼吸を整える。


炎蔦剣ジャーマフェヒート。」


 アルの剣の周りに、炎の蔦が絡み合い、渦を描くように覆いつくす。


「おおお、あれが第3騎士団の灼熱の炎獅子か…」

 ニッキーがポツリとつぶやく。


(何その二つ名…)


 中2病感のある名前に思わずツッコんでしまったが、炎に赤く照らされ、真剣な目をして剣を構える精悍な騎士からミコトは目を離せない。


「ブモオオオオッ!!!」


 ミノタウロスが吠えながら巨斧をアルに向かって振り下ろす。その攻撃を易々と躱し、ミノタウロスの背後へ回り込む。


「ハァッ!!!」


 回り込んだ勢いのまま炎を纏った剣でミノタウロスの踵の上のあたり、腱を焼き切る。


「ブモオオオオオオオオッッ!!!」


 ジュワっと肉が焼かれる音と嫌な臭いが周囲を包み、ミノタウロスの叫びが木霊する。

 腱を焼かれた痛みにのたうち回りながらミノタウロスが膝をつく。


「とどめだ。」


 洞窟の壁を蹴り上げ駆け上がり、高くジャンプしたアルが―――重力に任せて剣先をミノタウロスに向けたまま落ちていく。


 そのままミノタウロスの首筋めがけて剣を突き刺した。


 ミコトの目にはその瞬間がスローモーションに映った。

 鋭い目を向けてミノタウロスに向かって落ちていくアルーーー剣先がミノタウロスに突き刺さり、血しぶきが上がる―――そのままゆっくりとミノタウロスの巨体が前方に倒れ込む―――ズシンッと揺れる地響き―――フウッと息を吐いて両手で剣を抜きながらミノタウロスの背中の上で立ち上がり、片手で剣についた血を振り払いながら空いた手で顔についた返り血をぬぐう――――



「アルゥゥゥゥッ!!!」

「何だよもう!!最高かよおおお!!」

「その魔法何!?魔剣!?うわ!めっちゃ血ィついてんじゃん!!」


 ワアアアッと興奮したジークやニッキー、ユキちゃんがアルに駆け寄り、もみくちゃにされる。そして、ユキちゃんの水魔法によって瞬時に返り血を流されるアル。その様子をポーッとしながらミコトは見つめていた。


 水魔法によって乱れて濡れた前髪をかき上げながら、アルはミコトに目を向けた。


「怪我、なかったか―――。」


 普段はめったに見せない、歯を覗かせながらアルが笑いかける―――

 さっきの危険な香りのする雰囲気から一転し、ミコトが無事であることがとても喜ばしいことのように、目を細めて笑う。



(アカンやろ――――)

 胸の高鳴りが周りに聞こえてるんじゃないかって思うくらい、トキメいてしまっている自分自身をミコトは感じた―――




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