第29話 閑話:ロイズの夜ー①

 


「はい!どうも一日お疲れさまでーす!!」


 ガシャンッとジョッキがぶつかり合う音が騒がしい酒場の中で響く。


「んで、そちらさんは何もなかったですかい?」


 麦泡酒と緑小豆をつまみながらニッキーがアルとジークへ問いかける。


「まぁユキちゃんが冒険者ギルドの混雑を解消するための魔導具を思いついてプレゼンしだしたときは焦ったけど…」


 ジークが遠い目をしながらクピリと麦泡酒を喉に流し込む。キンキンに冷えたほろ苦い酒の爽快感がたまらない。


「やっぱりやらかしたか…ここに若がいるって知れたらまずいことになるのは知ってるくせに…」


「まぁしょうがない。エルモンテ家だからな。」


 たしかにしょうがない、あの家系だから!!ということでもう一回乾杯をした。


「ミコトはどんな様子だったんだ?」


 アルがニッキーに問う。こちらはホロホロ牛の串焼きを豪快に食べながら麦泡酒を流し込む。あまりに美味しそうに食べるのでニッキーも思わず1本頂戴する。


「あぁ…幸せそうに定食屋でシチュー食べてましたよ…」



 ミコトは“定食屋名物!創業当時から味の変わらない、ロビー鳥の手羽先シチュー”を頬いっぱいにしながら美味しい美味しいと大絶賛し、すっかり食事に夢中になっていた。そのおかげで女将が近寄ってくれてニッキーが話を聞けたこともあるが…まぁ情報収集は端からニッキーに期待されていたのでミコトのことは想定の範囲内である。むしろ、その素の感じが女将の警戒心を解いたのかもしれないと…前向きに考えよう。


「そうか…あんな変な奴に合わなくてよかった…」


 ジークがホッとした様子でまた一口酒を飲む。

 その視線の先には酒場の一角でチラシを配っている集団がいた――――





【王家を信用するな!至宝は王家が隠してる―――!!!】


【聖女はこの国の滅亡を呼ぶ魔女だ―――我々は騙されている!!!】





 ここ風の都はユースタリア国内で反乱の火種がもっとも燻っているところである。

 王城でのミコトの叫びを聞いた―――出来るなら余計な悪意に遭遇せずにミコトに過ごしてほしいものだ―――とジークは思っているが、結局こちらの都合で国や王家への憎悪が渦巻く、危ないところへ連れ出してしまった。


 異世界から来た…見ず知らずの人のために一生懸命頑張り、そして報われないことに心を痛めてしまう優しい少年のためにも、さっさとダンジョンに潜って、至宝を見つけたいところだ。


 王子がこの場にいる、そして聖女が近くの宿で寝てると知ったら―――この地の過激派たちはどんな行動をとるのか容易に想像がつく…


 酒の席ほど、口が軽くなり情報を得やすいものはない―――なので真っ先にここへ来るべきであったが…大人の嗜みだと言い張って酒場に来たのも、そしてミコトとユキちゃんを置いていったのも―――せっかく過激派などがいない定食屋でミコトを守ったのだ、この旅の間くらいは重圧など気にせずこの国を楽しんで好きになって―――至宝が見つかったあとの未来をミコトが夢見てくれればよい―――


 そこまで考えて、ジークはジョッキに残った麦泡酒を一気に煽った。

 今はしんみりしている場合じゃない。至宝を見つけて皆が笑顔になるためにも…ダンジョンのことについてもっと知る必要がある。


 冷えた麦泡酒がいっぱいに入った新しいジョッキを片手に―――照れたように頭を掻きながら―――

 先に近くの冒険者たちや、住民と話し始めたニッキーやアルに負けじと、ジークも周囲に溶け込んでいった―――

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