第28話 情報収集してみました

 


 次の日のお昼過ぎにダンジョンのふもとの町、ロイズに到着した。

 ダンジョン目当ての冒険者を相手にした商売、ダンジョンからの戦利品を買い付けに来た人、加工するための職人たち―――町は非常に活気に溢れていた。


「さすが、至宝じゃないかって噂されているとこあってすごい人っすね。じゃあ各々分かれて情報収集行きましょうか。」


 ここからは我らが暗殺者、ニッキー主導で行動を開始する。

 ミコトとニッキー、アルとユキちゃんとジークの2グループに分かれて捜査開始だ。


 チーム分けの理由としては―――アルはミコトの傍を護衛として離れることを心配していたが―――慣れてないミコトと強面のアルのコンビだと情報を取ろうにも取れないこと、面白い魔術に反応した暴走ユキちゃんを止めるのは最低でも大人2人の力が必要なこと、この2点が考慮されこの組み分けに至った。ニッキーはミコトのフォローを、ジークとアルでユキちゃんを止める予定だ。


 ―――昨日の件でアルとは気まずかったので、この組み合わせはありがたい。ミコト一人が意識しているようでアルはいつも通りの気難しい表情…通常営業なのが腹立たしいが。


「さすがに僕、そんな見境なくするようなことしないけど…?」


 ユキちゃんはブツブツ言っているが前科があるので仕方がない。一応お忍びで来てるので、前回のように曝露されてはまずいのだ。


「うっし、じゃあ俺とミコトは兄弟って設定でいくか。」


 ニッキーの栗色の髪とスカイブルーの瞳が、ミコトに合わせて黒髪黒目に変身する。


「おおおお!!!すごい!!!!」


 心なしか顔つきもアジアンチックなものに変わっている。


「風魔法の応用、蜃気楼ミラーリングっていうんだぜ。ここまでできるやつは中々いない!!まぁあの王子はやるんだがな…」


 ドヤ顔しながら悔しそうにニッキーがぼやく。


「でもなんかあいつは人を引き付けるからな…密偵としては俺の勝ち!!」


 ジークのキラキラオーラは蜃気楼ミラーリングでも消せないらしい…ニッキーも人のよさそうな爽やかイケメンだけどね…!クラスの2、3番目くらいにはかっこいいよ…!!


 ミコトとニッキーは兄弟で、ダンジョンのE級魔物や薬草採取をして出稼ぎするため故郷を離れてロイズへやってきた…そんな設定だ。


 昼食も兼ねて、町の中央から少し離れた定食屋で食事をとりつつ聞き込み開始だ。


「なぁおばちゃん!ダンジョンにはどんな魔物が出るんだ?」


 早速ニッキーが定食屋の女将さんに話しかける。


「なんだい!あんたら新米かい!!そうさねぇ、1Fはスライムやインプとかかねぇ。進めば進むほど敵が強くなっていく…まぁ当たり前のことだねぇ。新人さんなら3Fのゴブリンとかその辺で帰ってきた方がいいんじゃないかい?調子に乗って進んで痛い目みた奴らを何人も見てきたよ。それにここのダンジョンは普通じゃないしねぇ…」


「普通じゃないって?ここなにか違うの?」


「あんた知らないでこの町のダンジョンに来たのかい!他のとは全然レベルが違うよ!!あのダンジョンはね…………



動き出すんだよ。

ある日いきなり変わっちまったんだ。」


 ミコトとニッキーは顔を見合わせる。


「それって50年前くらい?」


「そうだねぇ…あたしが生まれてすぐの話だから…って女性の年を探るんじゃないよ!」


 バシーンッとニッキーが背中を叩かれる。いい音が鳴った。


 ♢♢♢



 女将の話と冒険者ギルドに行っていたジーク組からの話によると、ロイズの町のダンジョンはどこにでもある普通のダンジョンだったが、ある日いきなりダンジョン内が変化するようになったらしい。5Fで現れるはずのない15Fレベルのオークやハーピーが現れたり、いきなり4Fから10Fへ転移したり、せっかく20Fまで到達したのに2Fへ戻ってきたりと…ハチャメチャで完璧なる無理ゲーである。


 故に攻略したものはいないらしい。

 どんなにコアに近づいても、入り口付近に飛ばされたとあっちゃ意味がない。そしてどのような魔法で冒険者やモンスターたちが飛ばされているかわからない…原理不明な謎の魔法…花の都の魔導具のような話であることから、至宝かもしれないという噂がたっているのだ。


 もちろん、ユキちゃんのテンションは爆上がりであることは言うまでもない。


「まぁ…何かあってもモンスターをひたすらなぎ倒して、ミコトの勘で進んでいくしかないか…」


 ダンジョン内が無法地帯なもので戦略も何もない。とりあえず進んでみて考えよう!という結論に至った。


 なるようになれ大作戦は明日の朝から決行ということで、残りの時間で食料調達など必要物品の準備をしつつロイズの町を楽しんだ。


 そしてその日の夜、ジーク、ニッキー、アルの大人組は情報収集だと言い張って酒場に連れ立って行った…


「なにそれ!絶対楽しいじゃん!!いーきーたーいー!!」


「酒場なんてただうるさくて騒がしいだけだよ。ほら、ミコトは魔法の練習。せめて光魔法で切り傷くらい治せるようになって。足手まといにだけはならないようにして!!」


 ダンジョン攻略へ意識の高い家庭教師付きのお留守番となった。




 ミコトは割とのんべぇである。決して強いわけではなく飲みすぎると記憶はなくなるし二日酔いにも何度もなったことはあるが…いろんなお酒をちょこちょこ楽しむのが好きだ。チャンポンしているから酔っぱらうのだろうが…それでもやめられない。


 結論…異世界の酒が飲みたいのだ!!!!

 こちらでの成人は18歳…12歳設定のミコトはあと6年も我慢しなくてはいけない…


(さっさと至宝探して大人になってやる!!)


 大きな目標が出来た。

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