第3章 風の都 ウィンドザック

第25話 風の都へ出発します


 旅立ちの朝は雲一つない快晴の日だった。

 城の中庭でお世話になった人たちとのお別れを済ませる。


 王家の人々に感謝を述べたり、述べられたり、騎士団やロザリーたちと話しているその横で…


「文句言わず、好き嫌いなくしっかり食べて、眠れる時にはよく眠り…くれぐれも珍しい魔導具があるからって夢中になって暴走してミコトや殿下に迷惑をかけるんじゃないぞ!!あぁ心配だ…そんな筋肉のないヒョロヒョロの身体で出発するなど!やっぱり毎朝のトレーニングに…」


「姉様うるさい!そんなに細かく言われなくたってわかってますよ!!そして筋肉は関係ない!!」


「あぁユークリッド!!今からでも遅くない、腹筋をしよう!!筋肉は裏切らない!!」


 ガバっとディアナがユークリッドに抱き着く。


「痛い!!ちょ、手加減してこの筋肉だるま…」


 ディアナ&ユキちゃんが話しているのは初めて見たが、わちゃわちゃしつつも仲のよさそうな姉弟だった。そして弟は姉の暑苦しい愛に絞殺されそうになっている。ジークがベリベリっと引きはがすのが横目で見えた。



「それにしても…ミコトの旅装は素晴らしい出来栄えね!さすがはロザリー歌劇団の服飾班の力だわ!」


「光栄でございます。姫様。ミコト様の少年から大人へと進化していく、その貴重な一瞬の中性的な神々しさを引き出せたのは、姫様のアドバイスがあってこそだと我々一同考えております。」


「まぁそんなことないわ…」


 憧れのロザリーに褒められ、姫様は感極まっている。


 ミコトはシャツとベスト、膝丈のズボンにハイソックスとブーツ、そして深緑色のポンチョを着ている。暑ければハイソックスとブーツを脱いでサンダルになればいいし、ポンチョで体形はカバーできるし、ベストがあることも安心材料の1つになる。いくらミコトの色気が低くて、女神からもらった腕輪がいい働きをしてくれているといっても、男の中に混じって生活していくのだからそれなりの防御は必要だ。事情を知っている姫様がロザリー歌劇団に適宜注文しながら作った旅装は、舞台衣装を手がけているだけあった見栄えがいいのにとても動きやすい。もっとも本当は聖女らしさを出すため白地に金字の刺繍をしたポンチョが制作されようとしていたのだが…いち早く情報を知ったニッキーから、目立ちすぎは駄目!!とジークの手を使って止められた。


(白もかわいいだろうけど…

汚さないか心配だしね!)


 ニッキーの情報察知能力に感謝だ。



 ♢♢♢


 しばしの別れを済ませて、ミコトたちはぽっちゃりしたお腹と人のよさそうなたれ目のおじさんが運転する2頭立ての馬車に乗り込み出発した…


「ちょっと待って!流れで出発しちゃったけどニッキー乗ってないじゃん!!」


 影であるニッキーは今日の中庭での送別には参加しておらず、対外的には4人での旅になる。どこで合流するんだろうな~とかのんきに思っていたら、郊外の街道まで来てしまっていた。


「気づくの遅くない?もう城門も出て大分経つけど。」


「ん?どうしたんだいお嬢ちゃん?何か忘れものでも?」


 御者のおじさんが車内の異変に気付いて声をかける。


「はい、うっかり人を忘れてきてしまって…」


「そうかいそれは大変だ。もしかしてその忘れてきた人って…

 こんな顔かい??」


 クルッと振り返ったおじさんの顔は…




 半分おじさんで半分ニッキーだった。





「うぎゃぁぁぁぁっ!!!!!」

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