第24話 旅立ちの準備をしました
旅に向かう前に、ミコトはお世話になった人々へ挨拶に行った。
まずは孤児院へ。
「もう遊びに来てくれないの?」
「やだよ~なんでだよ~!」
子どもたちが目をウルウルさせながら抱き着いてくる。
「ごめんねぇ。ちょっと大事な用事があって…来年には戻ってくるから!!」
ここでミコトは自分を取り戻すことが出来た。無力感に打ちひしがれていたときに、子どもたちに読み聞かせをせがまれたことが、必要とされたことが、すごくすごく嬉しかった。
この世界に来て家族がいなくなったミコトにとって、孤児院の子どもたちは同じ境遇だった。孤児院という大きな家族の中で一緒にご飯を食べ、一緒に勉強し、一緒に遊んだ。自分では気づくことのできなかった家族がいない寂しさを、ここで過ごすことで自然と埋めることが出来ていたのだ。
(この子たちの未来を守りたいな…)
子どもは国の宝だ。この言葉の意味がわかった気がする。
シスターたちの優しさと彼らからもらったエネルギーが、魔力の勉強への活力となり、そしてロザリー歌劇団へ繋がるきっかけとなった。まさにパワースポット的存在である。
来年、笑顔で、成長した子どもたちに会うことを決意して…
ミコトは渾身の一冊、“おとぎ話☆パラダイス”をプレゼントした。
子どもたちは大騒ぎ、そしてシスターたちからは大いに感謝された。
(徹夜でまとめた甲斐があった~!)
♢♢♢
ロザリーが回復したと聞き、クリスティア姫様とディアナとお見舞いに行く。
ベッドで座っているロザリーと、付き添いのノーラと5人でお茶会(気分的には女子会、ミコトは男枠だけどね!)をした。
「まさかずっと至宝を使っていたなんて…国にも世間にも申し訳なさすぎる…」
「仕方ないよ、強力な暗示をかけられていたんだし!」
落ち込むロザリーを慰める。
話を変えるべく、姫様とディアナが今までの舞台で好きだったキャラクター、感動したストーリーを熱く語る。直接ファンから聞く言葉でロザリーとノーラは嬉しそうだ。
「いい小説で素敵な主人公に出会うと、なんだか明日を頑張れる、そんな気持ちわかるかしら?この時代だからこそ、人々の心をつかんで離さない、そんな魅力的なヒーローが出る舞台を作りたいと思っていてね。」
ロザリーが熱く語る。
「わかります!“推し”の存在って大事ですよね!」
もう会うことのできない、元の世界の推しを思い出してはミコトも熱くなる。
「“推し”か…なんてぴったりな表現なんだ!ねぇ聖女様、異世界の乙女たちはどんなヒーローに夢中になってるの?」
ノーラが訪ねる。
「鉄板なのは同じ学校のクラスメートとか先輩とか幼馴染?あと先生と生徒も人気だし…イケメン俺様社長とOLの恋とか…?王子様系も根強い人気だし…、あぁわんこ系も捨てがたい…毒舌ドSも好き…お嬢と眼鏡執事も…あとは薔薇かなぁ…」
「いろいろ聞きたいことはたくさんあるが…薔薇?植物との恋…?」
いけない、みんな目が点になっている。
「植物じゃないですよ!薔薇はなんというか…男色の例えでして…」
薔薇と二次創作について語る。初めは疑わしそうに聞いていたロザリーとノーラだったが次第に食いついてくる。
「つまり既存の物語を自分たちで発展させていくということか…しかもその組み合わせは無限大…受けと攻めで全く違ってくる…」
「私、この前の舞台では、王子が攻めで従者が受けだと思いますわ。」
姫様がノッてくる。
「いや、王子が受けでライバル侯爵が攻めのほうがあってると思います。」
ディアナが反論する。
「長年の信頼関係を壊してしまうことに悩む王子と、王子への思いに罪悪感を抱きながらも仕え続ける従者、そしてお互い我慢できずにその均衡が壊れる瞬間がたまらないでしょうがー!!」
「積年のライバルとして憎みあいながらも心のどこかにあった尊敬の念がいつしか恋心へと変化していく方がよくないですか!ポッとでのヒロインに夢中になる王子に対して、焼きもちを焼いた侯爵が王子を舞踏会の夜、月明かりの下で攻めるのです!!!」
姫様とディアナの討論はヒートアップしていく。そしてノーラが目を血走らせながら必死でノートに何かをつづっている。
「今までの舞台をリメイク版として…限定公開していくのはどうだろう…週に1回だけとか…カップリングによってストーリーが全く別物になってくるな…」
ロザリーが販売戦略を考えて、駄々洩れになっている。
思わぬ異世界異文化交流をしてしまい…なにやらやらかしてしまったような気がするが…もう後戻りはできない。
ロザリーにそっと声をかける。
「週に1回なら金曜の夜がいいですよ。俺らの世界で金曜の夜は“花金”っていうんです…」
ついでに百合の概念も伝えといた。
しばらくしてロザリー歌劇団が始めた“金曜日の花園”シリーズはとんでもない大ブームを巻き起こし、乙女たちの原動力となった。そして男5人で旅に出た少年聖女一向へ、ロザリー歌劇団が目をつけるのも遠くない将来の話である…
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