第7話 去勢してみました&口説いてみました

 


 その日の晩餐にお呼ばれしたが時間があるため一時姫様の部屋にて作戦会議を行う。


「ミコト、あなた男の子なのよ!一人称が“私”じゃダメでしょ!!」


 早速ダメ出しである。理想への道のりは厳しい。


「一人称は“僕”いいえ、“俺”にしてちょうだい!こんなかわいい顔の男の子が“俺”って強がるなんてなんかもう…」


 姫様がはぁはぁしてきた。


(わかるよ、姫様。その気持ち。)


「姫様、その感情を俺の国では“萌え”と呼ぶのです。」


 姫様は目をキラキラさせて頬を薔薇色に染める。仲村実琴はこれからはミコトとして乙女の萌えを守るために頑張る決意をした。

 先ほどの議会でツッコまれた反省を踏まえ、念入りに打ち合わせをして晩餐会へと臨む。



 ♢♢♢


 晩餐会という名前の響きで緊張していたが、王家7人と円卓を囲むアットホームなものだった。かつての聖女たちは華美な催しを好まなかったらしく配慮してくれたそうである。ミコトはホッとした。


「聖女っていうから絶世の美女が来るかと思ったら、女みてぇな顔した男で、びっくりしたわ。」


 気さくに話しかけるのは第3王子ジークハルト。銀髪に翠目、あの女王譲り。


「無礼だぞジーク。むぅ、確かにもう少し筋肉をつけたほうがいいな。よかったら騎士団の訓練に…」


 筋骨隆々、見た目通りの脳筋発言をしたのは第2王子リカルド。金髪碧眼で姫様と同じ色合いなのに野性味が溢れる。


「リックもジークも失礼よ。外見にとやかく言わないの。」


 たしなめる第一王女アイリスは優雅に食事を続ける。姫様と同じ金髪碧眼ゆるふわウェーブ。


  (あとでクリスティア姫様と並んで写真を撮ってもいいっすか!!永久保存したい…)


 美少女大好きミコトである。


「フフッ。確かにお前たちが好む、恋愛小説にこんな少年が出てきてたなぁ。」


 第1王子アークライトが笑う。銀髪碧眼、ザ・正統派王子、イケメン。


「アーク兄!!なぜそれを!!読んだのですか!?人の部屋から!!」


 アイリスとクリスティアが焦ってワタワタしている。


(王族って聞いてたから身構えてたけど、なんか普通の家族って感じだなぁ…)


 晩餐会は和やかに進んでいく。



 ちなみに姫様が決めた設定はミコトの設定は“12歳の少年、学生”だ。もう少し年上を提案したがさすがに無理があると言われた。体形はカバーできても喉ぼとけはつけられない…変声期前の少年ということになった。


 そして重要な設定がもう一つ。“12歳、少年、去勢済み”ってことだ。昔の中国にいた宦官とか、少年を去勢して高い声が出る歌手を育てるとかそんな歴史を少し引用させてもらうことをミコトは考えた。でも少し怖いので “病気で切り落とさないと死んでしまうところだった。物心つく前なので覚えていないしトラウマや未練もない”ということにした。これで声が高いこと、男にしてはふくよかな体形であること、成長が遅いことの説明がつく。あとダボっとした服を好むことも。


 話を聞いた男性陣は顔を青く、そして少し背筋を伸ばして内またになっていた。


(残念ながらその気持ちはわかりませんなぁ!)


 作戦成功である。

 これでかつては女性のみだった聖女になぜ少年が選ばれたか、完全な男ではないミコトであったから選ばれたのだという名分が出来上がった。



 晩餐会にてこれからしばらくは王城にてこの国について学ぶこと、そしてミコトには自由に動ける体制が必要だが、敵が分からない以上、身の安全のために護衛がつくことが決まった。臨機応変に対応できるプロがつくらしい。

 デザートを食べ終わり、まったりしていたところでドアがノックされる。


「第3騎士団副団長アルフレッド・カルバン只今参りました。」


「おぉう、入れ入れ。ミコト殿、紹介しよう。そなたの護衛騎士アルフレッド・カルバンだ。不愛想な男だが腕は確かだぞ。」


 そこには燃えるような赤髪をもつ切れ長の目をした男が立っていた。




「アルフレッド・カルバンと申します。貴殿のことは必ず守りますのでよろしくお願いいたします。」


 目の前の端正な騎士は礼を取る。片膝ついて胸に手を当てる騎士の礼だ。かっこいい。

 ミコトはその様子から目が離せない。そしてうまく声も出せない。


「ミコト殿…?」


 訝しげに騎士が語り掛ける。


「あ、あのすみません。ボーっとしてしまって。素敵な髪色だなと思って、目が離せなくって!!こちらこそよろしくお願いします。」


 慌てて手を差し出す。自分が何を言っているかもよくわからない。

 騎士が驚きの表情を浮かべ固まっている。


「「「う、うわはっははっは。」」」


 一瞬静まり返ったあとで、王子3人が大笑いを始める。王と王妃は微笑ましいものをみるように、第1王女は頬を赤らめながら口元を抑えチラチラとこちらに目を向けている。クリスティアに至っては鼻息荒くこちらをガン見している。王女よ、おしとやかさはどこへ行った…


「あぁー、少年聖女様が堅物赤獅子を口説いてるぞ。」


 ひぃひぃ言いながら王子たちは笑い続ける。特に第3王子は床の上を転がらんばかりの勢いだ。


「え??口説く???誰が??」


 ミコトの頭は?マークでいっぱいである。


「その…聖女様…、相手の髪色をほめるのは相手をお慕いしているという意味が込められていて…」


「まぁ鉄板の口説き文句?ナンパの誘いだな。」


(そんな異世界ルール聞いてねぇよ!!!そして騎士様も顔をあからめてんじゃねぇっ!!!)

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