第2章 花の都 ラスカロッサ

第8話 何も出来ませんでした

 ユースタリア王国は7部族にゆかりのある7つの都市にわけられている。王城のある<花の都 ラスカロッサ>を中心とした時計回りに、森の民が暮らす<緑の都 グラスノーラ>、美しい水路と美食の町<ウォートリート>、南の島々からなる<海の都 ラグーノニア>、情熱的な砂漠が広がる<砂の都 サンドリシア>、冒険者の町<風の都 ウィンドザック>、学園や研究機関が集まる<本の都 ブッケルード>である。地理的に王城の北側に位置するグラスノーラ、ブッケルードは寒冷、ラスカロッサ、ウォートリート、ウィンドザックは温暖、ラグーノニア、サンドリシアは熱帯気候である。



 ♢♢♢



 少年聖女ミコトのユースタリア王国での新生活は、花が咲き誇る春真っ盛りに<花の都 ラスカロッサ>からスタートした。しかし春を満喫することなくあわただしく日々が過ぎていく。


 朝起きると女騎士ディアナのパーソナルトレーニング、“ディアナズ・〇―ト・キャ〇プ”が行われる。めちゃくちゃしんどい。その後朝食を食べて午前は王国の地理・歴史の講義、午後は魔法についての講義やマナー等お作法についての勉強を行う。そう、さすが異世界、魔法が存在するのだ。これには鬼教官ディアナの扱きやお堅い授業に辟易していたミコトもテンション爆上がりである。


(チート設定とかあるかなぁ。過去の聖女様たちも素晴らしい魔力を持っていたっていうし…)


 ワクワクして初回の授業に臨むが…チートはあるにはあった。普通の人が1~2属性、多くても3属性しか魔力を持たないのに対してミコトは全属性すなわち《火・水・風・土・光》5属性すべて持っているオールラウンダーだったのだ。だがしかし、使いこなせなくては意味がない。女神はチートを授けてくれたがそれまでである。使いこなすのはミコト自身の努力が必要だ。そして残念なことにミコトは不器用であった…



 ユースタリア国民は皆、幼少期から魔力運用の勉強を行い、成人するまでに習得、魔力を活かした職業についたりつかなかったりというように魔力と共に生きているため感覚で使用している。

 異世界人であるミコトはまず魔力を感じなくてはならないがそれがまた難しい。


(あぁーもう!あと少しなのに!!)


 手のかゆいところに届きそうで届かない、そんな毎日はミコトをいらだたせる。



 ミコトを追い込むのはそれだけではない。至宝との共鳴とやらも全くうまくいかないのだ。至宝は高魔力の結晶体であるらしい。共鳴の感覚をつかむために魔力の勉強をするが失敗続き。「のんびりいけばいいのよ。」と優しい声をかけてくれるが、転生して2週間、いつの間にか春は終わりかけている。破滅の期限がある以上うかうかしていられない。王城に漂う重圧は日に日にミコトにのしかかっていく。とりわけあの転生の日に議会にいたおじ様たちの疑念の目が一番厳しい。廊下ですれ違うたびに訝しむもの、鼻で笑うもの、反応は様々だがどれも好意的ではない。



 気遣ってくれる王家の皆様には申し訳ないがミコトは疲れてしまった。



 それから護衛騎士も邪魔だ。何もしゃべらないのにずっと人といるのは疲れるものだということをミコトは学んだ。仲良くなろうと語り掛けたがあの騎士様は「えぇ。」とか「はい。」とか「左様でございますか。」とか…会話を続ける気がない。ぶった切ってくる。3日でミコトは諦めた。




 ちなみに聖女降臨の御触れは出たが具体的なお披露目とやらはしないこととなった。ミコトを気遣ってのこととお披露目をして時間や財を費やすくらいなら至宝探しやもう天変地異の兆しが出てる地域への保証をしたほうが良いという話になったからだ。仮にお披露目をしたとしても、“聖女現れました。でも男でした。”と発表された国民の戸惑いや疑念は予想がつく。


(何もできてないしなぁ。なんで私だったんだ…)


 かなりミコトは参っていた。

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