第5話 めちゃくちゃ怪しまれました
王女の部屋に聖女が現れたことに王宮中が大騒ぎになった。国の主要人物が集められ、実琴は招かれる。が、実琴の姿を見た途端、場の空気が固まる。
(聖女って…女じゃないんかーい!)
「皆様の動揺はわかりますわ。私も最初は驚きました。まさか聖女がこんなにかわいい男の子だったなんて。」
どうやら姫様はあざとかわいいショタ路線で売り出していくようだ。
「初めまして。ミコト・ナカムラです。女神から至宝のメンテナンスをして世界を救うように言われました。ですが方法などの詳しいことは聞いてないです。」
(本当に私にできるのかな…もう少し詳しく教えてくれたっていいのに!)
大勢の視線を受け、不安が募ってくる。
(方法が分からない、しかも聖女って呼ばれたけど男だし、いや女だけど男だし!自分だったら信じないわ~こんな怪しいやつ…ほらなんかすごい見られてるし!)
ロマンスグレーなひげのおじさんから熱い視線を感じる…
信じて~お願い!と念を込めながら豪華な椅子に座った中央の人物、クリスティアのパパさん、すなわちユースタリア王国の国王陛下を見つめる。
「失礼ながら陛下。この者を信じるのはいかがなものかと…」
(ですよねぇ!そうっすよねぇ…あのおじさんすごい怪しんでたもの。)
予想通りひげのおじさんから反対される。
「なんですってぇ。ミコトはいきなり部屋に現れたのよ。女神の奇跡じゃない!」
「でしたらこの服装は何ですか。言い伝えによると聖女たちはみな見慣れない格好をしていると聞くではないですか。」
「そ、それはミコトがティータイムにいきなりテーブルの上に落ちてきたから汚れちゃったのよ!紅茶とケーキまみれの姿で謁見はできないでしょう。」
(やべぇ。男装が裏目に出た!クリスティア姫様頑張って!)
確かにこの国の服を着ている実琴が異世界人、聖女だと証明できるものはない。
クールビューティーに見えて脳筋美女だったディアナが「女とばれないように!」と着ていたスーツや下着は真っ先に燃やしてしまった。止める間もなかった。「ミコトの思い出に、とかお別れさせる情緒はないの!?」って姫様にめちゃくちゃ怒られてた…「もうここの世界で生きていく覚悟がかえって決まったので大丈夫。」としょげる美女を慰めたが大丈夫じゃなかった。後ろのディアナから激しい後悔のオーラが漂うが後の祭りである。
姫様と大臣の討論がヒートアップするに従って場全体がざわついてくる。そしてその空気は実琴を怪しむもので非常に居心地が悪い。
パンパンッ!!
陛下が手を2回叩く。ただそれだけで場が静まり皆が陛下の言葉を待つ。
(おぉ。本物のカリスマ!)
「して異世界からの聖女、ミコト・ナカムラ殿。お主もわかっておるはずだ。何か異世界からの証明を自身でしないとな。」
「おっしゃるとおりです。」
(何したらいいんだ…考えろ~考えろ~)
焦れば焦るほど何も浮かばない。
「そうだわお父様。かつて聖女が残した聖書を読んでもらえばいいじゃないの。」
名案!とばかりに姫様がほほ笑む。
「え、あ、私の世界だと言葉が何種類もあって、他国のものだと読めないものもあるのですが…しかも時代が違うと書き方も違うので…」
(姫様それは悪手!命とり!!私英語しかわからんよ!?しかもめちゃ苦手!!)
残念ながら実琴の言葉はかき消されてしまう。あれよあれよという間に神官?のような人が厳かに古い本を実琴の目の前に置く。恐る恐る見るとそれは…
(少女漫画かーい!!!)
聖書は高校生活をテーマにした青春恋愛ものの王道少女漫画だった。
(聖女様と気が合いそう。)
実琴も単行本でコレクションするほどお気に入りだったので嬉しくなる。
「ナカムラどの、これはどんな本だね。」
「はい。これは“シンデレラ☆ハイスクール”という少女向けの物語です。地味な容姿の少女が友人や周りの人の手を借りながら素敵な女性へと成長して憧れの先輩と結ばれるというものです。この5巻は文化祭でライバルの女の子と先輩とのダンスの権利をめぐって女子力対決をするというもので、そのライバルの女の子は父の後妻の娘で義理の姉に当たるんですけど、主人公の作ったハンバーグに焦りを感じたライバルが取り巻きを使ってぐちゃぐちゃにして、でもそのぐちゃぐちゃのハンバーグを先輩はヒョイとたべて“僕の好きな味だ”って!実は前に義姉に意地悪されて隠されていた弁当を先輩が食べてたことがあって、いや、先輩何拾い食いしてるの、どんだけ食い意地張ってるのって感じですけど、先輩はそのお弁当を作った人をずっと探していて“見つけたよ。僕のひき肉ちゃん♡”…っていう急展開する巻なんです!!やっと出会えた2人なのにこの後も先輩の許嫁が出てきて引き裂かれたりするんですけど…」
「わかったもう十分だ。続きまで言うでない!!」
興奮した実琴にストップをかける。
陛下はネタバレ禁止のお方らしい。
「大司教、この者のいうことは正しいか?」
王は本を持ってきたおじさんに問いかける。
「いかにも。一国民には決してわかり得ないことまでこのものは知っております。300年かけて研究していたものがこんなに簡単に解明するとは…しかし…異世界の女性はひき肉呼ばわりされてときめけるのか…?あの言葉はひき肉と呼んでいたのか…もっと甘い言葉…薔薇とか白百合とか恋人にむける言葉は他にあるだろう…?」
おじさんの目が濁ってきた。人生の大半をかけて“ひき肉”の解明に挑んだのだ。無理はない。
「ミコト・ナカムラ、そなたを聖女と認める。」
王が宣言しミコトは姫様とディアナと共に別室へ移動し詳しい説明を受けることとなった。
(ありがとう!やっぱり私の
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