聖女爆誕、異世界へ

『ようこそ、我が世界へ』


暗闇から光の満ちた白い世界が俺を包んだ。そして目の前にはギリシャ神話よろしくの白い服を着た老人が立っていた。


「アンタが・・・神様?」

『いかにも』


中途半端にエコーがかかったような、遠いような、近いような声。


『此度は世界を救いたいというそなたの願いを叶えようと思ってね』

「願い・・・?」

『世界を救いたいと・・・そう言ったが?』

「確かにそうだけど・・・それは、一種の方法であって・・・」


そう言って言いよどんだ俺を見て老人はああ、と手を叩いた。


『そうか、そなたにも悩みがあったのだな・・・奇特な願いばかりを聞いていたが確かに、対価は必要だ』

「対価、というと・・・」

『そなたの悩みを取り除こう、そして、向こうで生活できるよう祝福を授ける』

「取り除く・・・本当ですか!」

『フォフォフォ・・・当然、それだけの偉業に着手しようと言うのだ』


俺が乗り気になったのを見てとったのか笑顔で老人は言う。やった、神様万歳!異世界とか海外すら行ったことないけど大丈夫かな?ま、神様がついてるし大丈夫だろう。


『それでは大まかに言うとだ、向こうの世界の事だが・・・』

「異世界ですか」

『そう、剣と魔法、魔王と勇者が鎬を削るあの異世界じゃよ』


ラノベ程度の知識しかないが。大丈夫だろうか。


『そこで、そなたにはワシと定期的に連絡をとりつつ世界を浄化していってほしい』

「浄化?」

『魔法というのは少なからずその土地を汚染する、それは時間とともに風化するが・・・戦争レベルとなるとそうもいかん。汚染が汚染を呼び、動物は魔物に、植物は枯れて魔境と化してしまうのだ』


神様の話によると俺の仕事と言うのは魔族と呼ばれる環境汚染兵器を垂れ流しにする連中を勇者たちと協力してしばき倒しつつ汚染された動物や土地を聖魔法で浄化して回れとのこと。


「聖魔法が使えるのはほかにも居ないんですか?」

『いない事はないが、それは虎の子とされておってのう・・・なぜかは知らんが彼らは聖魔法を秘匿しようとしておるのじゃ』


どうやら貴重な聖魔法にはすでに既得権益が出来上がってしまっているようだった。聖職が使う魔法なのに悲しいかな、組織が腐敗しちゃってるわけね。


『最近では困ったことにワシの声を聴けるものそのものが少なくなってしまって・・・』

「なんていうか・・・ご愁傷様です」


今の世界の神様も同様の悩みを抱えていそうだが・・・。とりあえずはこの神様に従うことにしよう。可哀想だし。


「とりあえず事情はわかった、汚い場所を綺麗にして、勇者が困ってたら助けて、魔王の関係者をぶちのめしつつ神様と連絡をとればいいってこと?」

『大まかにはそうじゃ、それ以外は大して制限も無いから人の道に外れない程度に好きにすると良いぞい』


やった、異世界に行ける上にコンプレックスを解消してもらえる。しかも神様の加護つき!行くっきゃない!

ああ、憧れのシックスパック!アーノルド・シュ〇ルツェネッガー!イェーイ!


「え、えへへ・・・」

『それでは、異世界へ向かうといいぞい!』

「うん!」


目の前に広がる世界、空間の裂け目が出来上がった。目の前には見たこともない豊かな自然の森。

俺は目の前の裂け目に迷いなく飛び込んだ。











「うわぁああ・・・っと!」


一瞬の浮遊感と共に俺は異世界へと降り立った。ここが俺の、新しい人生の幕開けだ。そして、地面へと降り立った瞬間に俺の期待はあっという間に地面へと叩きつけられることとなる。


たゆん。


たしかに、そう形容するにふさわしい感触が。そして、ズボンがスースーするぞ。どういうことだ。


「ど、どういうこと・・・ですかね」


疑問を抱いた刹那、頭の中に鐘楼から響くような鐘の音が響いた。


『我が世界へようこそ、聖女殿』

「誰が聖女か!男だし!男らしくなりたかったし!」

『えっ!そうなの?!』


このリアクションは素だ、このじーさん素で間違いやがった。以前美容院で「一番いいのを!」と頼んだ時にはやり女優さんの髪型にしやがった美容師とおんなじリアクションだ。


「うわぁぁぁ・・・シュワちゃんになりたかったし!」

『仕方ないのぅ、とりあえず生まれ変わるまで我慢してくれい』

「うぅぅぅ・・・詐欺だぁ・・・お家帰るぅ・・・」

『頼む、これだけ普通に会話できるのはお前さんくらいのもんなんじゃ!頼むぅ!』

「ふぇぇ・・・」

『泣かないで、泣かないでくれぃ・・・』


これが泣かずにいられようか、女みたいなやつと言われ続けて早17年、ついに俺は性別すら男をやめてしまった。

さようなら、我が愚息。実戦経験させてやれなくてごめんね・・・ほんとに。


「もうヤケだし、こうなったらとことんやってやるし・・・」

『ホント、ごめんの・・・バックアップは最大限してやるからの・・・の?』

「わかった、とりあえず何ができるんだし?」


女になってしまったからにはもうヤケだし、聖女とやらになってやるし!覚悟するし魔王!俺の怒りを思い知るがいいし!

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