ステゴロ聖女の異世界救済記~あぁもう!面倒くさいからまとめてかかって来い!~

@faust1349

プロローグ

聖女、爆誕

剣と魔法の世界、アルトンリップ。しかし世界の名前など知っている者はほとんどいない。

何故なら世界の名前は神に会った者しか知らないからだ。


俺は今、そんな世界で



「聖女様ー!」

「聖女様が来たぞ!」

「おお、神よ・・・」


何故か聖女と呼ばれております。

自分で言うのもなんだけど神様なんか信じてなかったし、今もあんまり信じちゃいない。しかも俺は元々の世界では不良に属する社会不適合者だったりする。そして何より・・・。


「俺、男なんだよね」


ぼそりと呟いた一言に頭の中で天界からの鐘の音が響いた。神様の言葉が聞こえる前触れだ。


『体はもう女性じゃよー』

「アンタが変えてしまったんでしょうが・・・」

『これも神の思し召しじゃー・・・じゃー・・・じゃー』

「セルフエコーすんなし!」


言いたい事はそれだけなのか声はそれっきりだった。なんというか、ほんと困る。


「主に代わって、私がこの場にある邪を祓い清めます」


目の前には魔に侵された哀れな動物たち、そしてそれを統べる魔王の軍勢。恐るべき力を持った破壊の軍勢。

立ち向かえる軍、騎士は限られている。


『聖女、俺が討つ!我が名は魔王軍伯爵、グリゴオール!』

「やかましいのが来た、いいからかかってきな」


杖を振り上げて俺は目の前の軍勢に走りだした。もう一つ、そう言えば聖女らしからぬ、イメージにそぐわない内容があった。


「うおおおおおおお!」


そう、俺が使うのは派手な魔法でも、周囲を浄化する奇跡でもない。


「せぁっ!」

『はぐぉ!』


もっぱら杖での打撃、ならびに・・・


「このっ・・・落ちろっ!」

『うぐぇっ!』


自身の肉体である。しいて言えば、自身の拳であった。数多の鎧を打ち砕き、強靭な皮膚を撃ち抜いて、俺は戦場を駆け抜ける。まるで戦士だ。聖女という俺のイメージははたして間違っていたのだろうか?

あれか、ジャンヌダルクみたいな、戦いに赴くイメージがそうなのか。


「せえええいっ!」


トドメの一撃を見舞い、グリゴオールと名乗る魔王の軍勢を叩きのめす。彼奴の鎧も、剣も魔法も全てを杖で打ち返し、拳で砕いた。


「神よ、我が意思を持って魔を祓いたまえ!魔に狂い、堕ちた哀れな彼らを救いたまえ!」


ぶん殴るために地面に突き立てた杖を振り上げて俺は高らかに叫んだ。魔王の軍勢が倒れた今が聖女として、そして聖女らしい唯一の方法で魔物を一掃する。


「『シャイン・ソピア!』」


聖女として身に宿った聖なる魔法、俺が使える数少ない魔法だ。俺を中心に光の柱が起こり、魔物たちを包んでいく。


「グォォォ・・・クゥ?」

「ガァァアアア・・・キャン!」


魔物たちは魔を失い、元の動物に戻って森に戻っていく。


「やった!聖女様がやったぞ!」

「魔物が元の動物に戻っていく!」

「やった!聖女様バンザーイ!」


周囲の兵士達は俺を囲んで、惜しみない賛辞を送ってくれる。ああ、もう、くすぐったい。


「さて、と勝利は確定だ。みんな、帰りましょう!」

「「「「おおおおお!」」」」


疲れた、今日も生きて帰れたので良しとしようっと。








『ようこそ、我が世界へ・・・聖女よ』


俺の世界のこの世界での生活の始まりはこの声からはじまった。生来の女顔、そして華奢ともとれる体格は生まれる別を間違えたと度々周囲にも、自分でも思っていた。しかし俺はそんな周囲への反発心からか生来男らしくという憧れを持っていた。170にぎりぎり届かない身長、切れ長の目、日に焼けない白いくせに強靭かつ滑らかな肌。

散々にいじられ、時には女装さえさせられて、好評を得て傷つくやら腹が立つやら。そしてそれに反発するうちに・・・。


「喧嘩上等!夜露死苦!」


なんて言葉を使うグループとつるむ、いわゆる不良の仲間入りを果たしていた。それもなんちゃってであって、喧嘩かも結構したし、負けも少なかったけれど・・・。結局俺は浮いたままだった。


「あーあ、結局俺は、よくも悪くも、男らしくも、女っぽくもなれないままか」


川べりの土手に寝転がって黄昏れてみても答えなんて出ない。中途半端なまま。


「世界救うくらいの事したら・・・少しはどちらかになれるのかな」


バカみたいな極論だ。そもそも自身の悩みの答えですらない。


「あー、神様・・・俺に世界を救わせてくださーい」


なんて、バカバカしい。神様なんてこの世界にいるのかもわからない。会ったこともないんだから。


『願ってもない奇特な申し出、それならばありがたく』


そんな声と共に俺は自分の世界から姿を消した。

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