プロローグ③〈彼らと王女様〉



「ただいま帰ったぜー」


今日の任務を終えたレアスとフォルテは、自分たちの帰るべき場所である孤児院へと戻ってきた。そんな彼らを迎えたのは、


「おかえり、レアス、フォルテ!なあなあ!早速今日の魔物との戦いの話聞かせてくれよ!」


「僕も!」


「私も!」


3人の子供たちだった。


「いいぜいいぜ。今日はなぁ、中々強ぇ魔物が……


「あら、お帰りなさい。レアス、フォルテ」


レアスが子供たちに今日の魔狼との戦いの話をしようとしたら、奥から1人の煌びやかな格好をした、アメジスト色の髪を肩まで伸ばしている美女が現れた。


「げっ!来てたのか!?シスケラ!」


「シスケラ」と呼ばれた美女は、嫌な顔をしているレアスに笑いかける。


「『げっ!』とは酷いわね。ワタクシはレアス、アナタに会いに来たのに」


「ぜ、全然嬉しくねぇ……」


シスケラに好意的な視線を向けられたレアスは、少し顔をしかめる。


「全く、シスケラ様。いつも言っていますが、もう少しご自分の身分を弁えて下さい」


フォルテは呆れた顔でシスケラを叱る。

当然だ。なぜなら彼女は、


「貴女はこの国の第二王女、『シスケラ・ゼウ・ディーチェ』様なのですから。護衛するのは俺たちなんですよ」


そう。

彼女、シスケラはこの【オリュンシア王国】国王の次女。つまり、第二王女なのだ。

そんな彼女が、こんな市街地からさらに離れたところにある孤児院に1人で来ている。彼女を護るのが使命であるフォルテが怒らないはずがない。


「あら、分かっているじゃないフォルテ。アナタが護ってくれるって信じているから、ワタクシは安心してここに来れるのよ?」


シスケラは言外に、自分を護るのは当然だと言う。それもそうだ。

何を隠そう、フォルテとレアスが所属しているのは、『第二王女直属騎士団』なのだ。つまり、彼らはシスケラの配下。シスケラを護るのは、常に課せられている最重要任務なのである。


「信じてくれるのは嬉しいですが、貴女に何か想定外のことがあったら……」


シスケラに何かあったら、恐らくフォルテは冷静ではいられないだろう。フォルテにとって、シスケラは自分の命よりも大事な人なのだ。


「大丈夫よ。いざと言う時はワタクシも戦闘するわ。それにフォルテ、今日はアナタにお願いがあって来たんだから」


【オリュンシア王国】の王族は、全員魔力量が高く、戦闘もバリバリにこなせる。


「あれ?俺に会いに来てくれたんじゃねぇの?違うなら、それはそれで少し悲しいんだが……」


意外に寂しさが襲ってきたことに驚くレアス。


「俺に?何ですか、シスケラ様から直接のお願いなんて」


シスケラからの指示はいつも、団長や副団長から伝わって来ていた。シスケラ本人からというのは珍しい。


「それはワタクシが帰る時に伝えるわ。今日の護衛はフォルテだけで来なさい。今回の任務は、フォルテだけが選ばれたの」


「そうなのか。良かったな、フォルテ!」


良かった?レアスはどういう気持ちで今の言葉を発したんだ?と、フォルテは思った。

まあ『フォルテだけ』と言われて、嬉しい気持ちになったのは事実ではあるが。


「分かりました。では、俺が護衛に付かせてもらいます」


「ええ。それでいいの」


フォルテが了承すると、シスケラは満足気な顔になった。


「おいおーい。そろそろ話聞かせてくれよぉー」


話がひと段落つくと、さっきからほったらかしにされてしまっていた子供たちがもう我慢できないとでも言うように、レアスとフォルテにすがりつく。


「おお、悪りぃな。よし!もうすぐ晩飯完成するだろう?晩飯食べながらたくさん話してやるよ!」


レアスがそう言った数秒後、


「はーい。夜ご飯が完成しましたよ。あら、お帰りなさい、レアス、フォルテ」


奥の方から、1人の母性溢れる黒髪の女性が、晩ご飯の完成を報せに現れた。


「お、マザーレイス!晩飯か!よし行くぞお前ら!!!」


「「「おーーー」」」


どうやら晩ご飯が完成したようだ。この時を待ちわびていたレアスは、3人の子供を引き連れ足早に食卓へと向かう。


「ただいま、マザーレイス。今日は、シスケラ様の分もあるのか?」


マザーレイスは、この孤児院を1人で切り盛りしている、いわばフォルテたちの母親だ。

そんなマザーレイスに、シスケラがいつ孤児院に来たのか分からないフォルテは、彼女の分の晩ご飯が作られてるかを尋ねる。


「ええ、ありますよ。ご飯だけ食べて帰るとシスケラ様が仰ったので」


どうやら、結構前から孤児院に来ていたっぽい。フォルテたちが帰ってくるまで、子供たちの相手でもしてくれていたのだろうか?


「そうか、分かった。じゃあ、行きましょうかシスケラ様」


「ええ。エスコートしなさい」


フォルテも、シスケラの手を引きながら、食卓へと向かう。



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