プロローグ②〈彼らの騎士としての日常〉
「よし、足を止めたぞ!後は頼んだぜ、フォルテ!」
と、光射す森の中にて、銃を扱う紫色の髪をした少年が叫ぶ。
「任せろレアス。動けない魔物はただのカカシだ!」
そう言って「フォルテ」と呼ばれた剣を扱うベージュ色の髪をした少年は、紫色の髪の少年「レアス」の叫びに応じる。
「
瞬間、フォルテが持つ剣が炎を纏い、目の前の顔が2つある四足歩行の魔物めがけ、蛇のような動きで攻撃する。
「ガアアァァァァァァァ」
フォルテに攻撃された魔物はそのまま地面に倒れ、光の粒になって消えていく。
「還ったか。【世界樹】に」
消えた魔物を見て、フォルテが呟く。
「還る前に俺たちが取り込めれば良いんだけどなぁ。この魔力」
遠距離から攻撃を行なっていたレアスが、魔物が消えたのを確認してフォルテへと近づいてきた。
「仕方ないさ。魔力は全て【世界樹】に強制的に還されるんだ。俺たちが取り込めたら、それはもう世界征服も夢じゃない」
さっきからフォルテが口にしている【世界樹】とは、オリュンシア王国領に生えている、推定3000m以上の巨大な樹のこと。名を【セフィロクリプト】という。
【世界樹セフィロクリプト】は、アスマガシア大陸に蔓延る魔力の源であり、命を落とした生命の魔力が還る場所である。そして、内に蓄えた大量の魔力を新たな生命に分け与える。
還って与える。この繰り返しで、人々に魔力が行き渡っているのだ。
しかし、中には例外もある。
「ていうかレアス。お前また魔力量増えたんじゃないか?前より長時間戦えてた気がするぞ」
「ん?さすがフォルテ、よく見てるな。正解!俺の魔力量はまた増えちまいました!」
例外。それは『才能』、もしくは『努力』によって体内の魔力許容量がレベルアップするモノ。レアスは前者だ。
体内の魔力許容量が上がると、勝手に限界の少し前まで【世界樹】が魔力をプラスで与えてくれる仕組みになっている。
「すごいな。別に特別な特訓をやっているわけじゃ無いのにそれだもんな……」
レアスの『才能』を改めて目の当たりにし、フォルテはネガティブな感情に襲われる。
「まあな!『才能』だよな!こればっかりは俺も認めてるぜ。まあ、決して努力してない訳ではなんだけどな」
レアス自身も10歳を過ぎたあたりから、周りとの力の差に気づき始めていた。
「ああ。レアスが安定的?と言っちゃあなんだが、しっかり努力もしてるのは俺が1番知ってるさ」
フォルテとレアスは5歳の頃から13年も一緒に居る。だからお互いのことは誰よりも理解していた。
「それも認めてるぜ。フォルテはちゃんと俺のことを見てくれてるってな」
そう言って、レアスはフォルテに拳を突き出す。
「もちろんさ。なんてったって、相棒だからな」
自身に突き出された拳に、フォルテも拳を突き出す。
「よし。ここら辺の魔物はさっきので終わりだろう。団長たちの所へ戻ろう」
周囲の魔力を索敵し、魔物の反応が無いのを確認したフォルテは、自分たちの戻るべき場所に戻ろうと提案する。
「おっけい!早く戻って団長に褒めてもらいたいぜ!」
レアスは自身の所属する騎士団の団長が大好きなので、早く戻りたくて仕方がない様子だ。
「そうと決まれば忙ぐか!」
次の行動が決まったレアスとフォルテの2人は、それぞれの属性の魔法を駆使し、自身の走るスピードを上げながら団長たちの待つ【オリュンシア王都】へと向かう。
*****
「レアス・ヘーレー、フォルテ・ネルヴァ、ただいま任務より戻りました!」
「よっしゃ、今日も無事に帰ってきたな!その事実に、セイヤァァァァァァ」
「「アガッッッ」」
オリュンシア王都に帰還し、団長に任務完了の報告をしたレアスとフォルテは、お褒めの言葉ではなく棍棒によるスイングを頂戴していた。
「よっし、今日はあまり飛ばされなかったぜ!どうよ、団長!」
元々いた位置から5mほどしか飛ばされかったレアスは、誇らしげな顔で自身の団長に近づく。
「ははっ!受け流し方が大分上手くなったな、レアス!だがフォルテは……」
団長はフォルテを飛ばした方向を見て、小さなため息をこぼす。
「全く、50mぐらい飛ばされてるじゃねぇか。何回目だ?俺のスイングを受けるのは。いい加減受け流し方の1つくらい覚えやがれってんだ!」
「いってぇな、本当。あ、ありがとうございます、副団長。また助けてもらっちゃって」
元々いた位置から50mほど飛ばされたフォルテは、相変わらず手加減がない団長を少し恨みながら、飛ばされたフォルテをキャッチしてくれた自身の副団長にお礼を言う。
「いいんだよ、私もアンタに助けてもらってるからね。お互い様だ」
無愛想な顔をしているが、優しいことを言ってくれる副団長。
「おーいフォルテ!早くこっちに来い!レアスじゃ正確な報告が聞けねぇ!」
フォルテをぶっ飛ばした本人が、早く来いと言っている。
「脳筋団長……。これは普通にひどいだろ……」
フォルテは毎回思う。なぜ、無事を喜んで棍棒でぶっ飛ばすのか?団長の力が強すぎるせいで、せっかくの無事が帳消しになりかけてしまう。
「それでフォルテ。どうだった?魔物の動きは」
フォルテが団長の元にたどり着くと、団長は急に真面目な顔になりフォルテの報告を
ここはフォルテも真面目な顔で、
「はい。やはり、俺たちが今回戦った魔物も知性を持っている奴が多かったです。最初に戦闘した2匹の魔狼は、明らかに連携しながら攻撃してきて、倒すのに苦労しました」
「アイツらはいい経験になったなぁ!」
レアスは強敵との戦いを思い出し、身を震わせている。
「魔狼は、遠距離から攻撃してきたレアスに狙いを定め、2匹同時にレアスを襲ったんです。あれがレアスじゃなかったら死んでたと思います」
2匹同時に襲われた時、レアスは自分が足場にしていた木の枝を撃ち落とし、難を逃れた。
「なるほど。やはりどの騎士に聞いても知性持ちの魔物と対峙したと聞く。3年前に比べて倍以上の数になっているな」
急に魔物たちが知性を持ち始めてから3年。知性持ち魔物の数は増える一方だ。
「他に今までと違う奴はいたか?」
「いえ、今日新発見したのは連携してくる魔物のみですね」
魔狼以外は、初見ではない少し頭が回る程度の知性だった。
「分かった。よし、今日はご苦労さん!お前たちはもう解散で良いぞ!」
報告を聞き終えた団長は、レアスたちに労いの言葉をかけ、解散を指揮する。
「えぇ?俺、稽古つけて欲しいんだけど」
レアスは増えた魔力量を見せびらかすために、団長に稽古をねだる。
「はっ!相変わらずいい根性してるなレアス!そんなお前にはぜひ稽古をつけてやりたいが残念。俺たちにはまだ任務があるんだ。だからまた今度な」
「ちぇ〜。そんなこと言ってると、次稽古する時は俺が団長超えてるよ?」
「お前、バ……
シュッ!
「おっと!ストップストップ副団長!」
レアスが団長を挑発した瞬間、レアスの背後を一瞬にしてとった副団長のレイピアが、レアスの喉元に突きつけられる。
「団長を挑発するのは、私を倒せるようになってからだ」
そう、怒りの形相でレアスに告げる副団長。
「了解っす。くそっ!悔しいけど視えなかったぜ」
力の差を感じたレアスは潔く引く。
「それじゃあ、俺たち行きます。お疲れ様でした!」
「うーい。お疲れさん!」
早くその場を離れたかったフォルテは、半ば強引にレアスの手を引きながら、団長たちのもとを離れる。
「お前バカか!スティアさんの前であんなこと言うなよ!」
団長たちの元から十分離れたところで、フォルテは開口一番レアスを叱る。
「いや仕方なくね?ああでもしないと稽古してくんないと思ってさ」
レアスにとっては団長に稽古をつけてもらうのが最優先事項だったのだ。
「お前過去に何度も同じような事言ってスティアさんに怒られてただろ?怖くないのか?」
フォルテは怒った時のスティアが苦手だ。
ちなみに「スティア」とは、フォルテたちの副団長、スティア・サターロスのこと。
「いや、むしろいい経験になってるな。スティアさん、毎回手を抜かずに俺を脅してくるんだよ。だから、スティアさんの動きが視えるようになったら、俺はトーさんとガチで戦うつもりだぜ」
「なるほど、お前なりに先のことを考えているんだな」
つまり、団長が挑発に乗ってくれたらそれはそれで良くて、スティアに怒られても自身の力量が計れるから怒られても良いってことか。
レアスらしい考えだと思う。フォルテは全く共感できない考えだが。
「ん?おいフォルテ!あそこにケモノ肉特売って書いてあるぞ!寄ってこうぜ!」
レアスが自身の好物である肉の特売を見つけ、寄り道しようとしている。
「ダメだレアス。早く帰らないと、セーラが怒鳴ってくるぞ?晩飯だって、すでに作り始めてるはずだ」
「たっ、確かにな……。セーラに怒られるのだけは絶対に嫌だ!フォルテ!早く孤児院に帰るぞ!」
セーラの恐ろしさを思い出したレアスは、絶対に怒られまいと、歩くスピードを少し上げる。
「全く素直じゃないな。怒られたくないというか、嫌われたくないんだろ、セーラに」
レアスの真意を知るフォルテは、そう呟きながら前を行くレアスについて行く。
彼らが向かう先は、10年以上自分らを育ててくれた愛すべき孤児院。そこで待っている、
愛すべき幼馴染やマザーたちの元である。
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