理解不能な話を書きたくて

ヘイ

第1話

 水底にたどり着いたとき男が目の前に現れた。

「久しぶりだな」

 懐かしむような顔をして、男はそう言った。

「お前が覚えていなくても、俺は覚えている」

 誰なんだ。

「お前は、何故あんなことをしたんだ」

 分からない。

 分かるわけがない。

「死ぬつもりだったのか?」

 分からない。

 何のことを言っているんだ。

「ここはどこか分かるか?」

 ここは水の中。

 ふと、目を閉じれば、ここは教室。

「思い出せ」

 ギリギリと締め付けられるような痛みを覚えた。

 頭を抱えていると、目の前にいた男は破裂して、次の瞬間には少女が現れる。

「やあ、こんにちは」

 セーラー服を着た少女だった。

「わかるかな」

 髪の毛を後ろで縛った、黒髪のポニーテールの少女。

 ふーっ、ふーっ。そんな荒い息が口から漏れるのが聞こえた。じんわりとかいた汗を肌に感じながら、少女を見る。

「君は死のうとしたんだよ」

 ザザッ。

 砂嵐が脳内に浮かんで、そして次の瞬間には景色が変わる。

 倒れた椅子。避けられた机。

 首を吊る、等身大の人形。だらしなく曲がった首と、その顔に縫い付けられたボタンの目と目があった。

「ちょうどこんな感じに」

 少女がそう言うとまた、ノイズが邪魔をして、情景は変わる。

 小さな男の子が人形を抱えている。

「おにいさん、だいじょうぶ?」

 こてんと小首を傾げた男の子の首がグギリと折れ曲がった。

 そして、その首がメキリ、ミシミシと不気味な音を立てて外れた。首から手が生えてきて、その手は赤い絵具に染まったような手で人形の中に潜り込んでいき、体を作り上げる。

 赤髪の美しい女性だ。

 扇状的な胸元の開けたドレスを着たその女性は近づいてきて、そっと頬に口づけをすると。

 

 爆ぜた。

 

 真っ赤な雨が降りしきり、両腕の上に、赤い右腕が落ちてきた。

 その腕はどろりと溶けて消えていく。そして、自分の両足の感覚がなくなったことに気がついた。

「君が探しているのはこの金色の足か、銀色の足か」

 ふり仕切った赤い雨が作った、赤い池から裸の女が現れて、そう尋ねてくる。

 どちらも違うと首を振れば、

「あ、ああ、あああ、あ……あな、あな、貴方、はははははは……しょう、正直、正直者、ののののののののの、です、ねねねね」

 と壊れたラジオのように言って、ミシミシミシミシと彼女の体の真ん中から突然現れた指によって左右に引き裂かれた。

「死ね……」

 包丁を持った男が向かってきて、無抵抗に刺されてしまった。

 

 

 

 

 そして、びっしょりと汗をかきながら、目を覚ました。

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