第89話 精霊契約

 選別試験を終えた俺たちは、宿屋へ戻った。

 そして食事を終え、俺と陽太は巨匠の元に向かった。


「……機能はしたのか」


「はい。でも部品が魔力に耐えられませんでした。それと、使った後にすごい暴走しました」


「なるほどな。それで、冷夜の坊主の方は何をしてるんだ?」


 陽太と巨匠がガントレットについて話している横で、俺は新たな魔道具の設計図を描いている。


「新しい魔道具の案ですよ。どうですか?」


 俺は描きあがった複数枚の設計図を巨匠に渡す。


「……本当によく思いつくな。いくつも気になる物はあるが、これはなんだ?」


 巨匠が渡してきたのは陽太用の新魔道具。ガントレットに搭載していたブーストをガントレットではなく腕の鎧部分に付けたものだ。


「なぜわざわざガントレットと別にした?別に出来なわけじゃないが、代用品のガントレットとブースト。それに他の魔道具も作らないといけないのに仕事を増やされる理由が知りてぇ」


 巨匠少し怒ってるな。そりゃあ作った魔道具バラされたら怒られるか。


「理由は単純ですよ。そいつが神装を手に入れたら他のガントレットなんて全部廃棄になる。それくらいの力を秘めているのが神装だ。けど手数は多い方が良い、だからこそブーストをガントレット以外に付けることで神装を使いながらもブーストも使えるようしにしたい」


「……分かったよ。よし、じゃあさっさと作業に取り掛かるぞ!」




 ______________



 朝、俺と陽太は巨匠の元で夜通し魔道具を作り続け、寝不足のまま月奈と姉さん、そして青羽さんの合格者で世界樹に来た。他のテニス部員は精霊の森観光中だ。


「集合とは言われたけど、誰も居ないね」


「そうだな。……そういえば姉さん、世界樹との精霊契約どうするか決めたの?」


「ううんまだ。でも断ろうかなって思ってる。やっぱり二人と離れたくないからね」


「なるほど。それが契約を渋ってした理由か」


 俺と姉さんの会話に割って入ってきた緑髪の少女、世界樹の精霊が突然現れた。


「世界樹の精霊。俺たちを呼んだのはあんたか」


 世界樹の精霊は俺の質問に頷く。


「今日の我は精霊契約の引率に来た。鞭の勇者、あなたはまだ考えていてもらってかまわない」


「う~ん、でもどれだけ時間を貰ってもわたしの気持ちは変わらないよ?わたしは二人と一緒に居たい」


「……それでも考えてほしい。ではついてきてくれ」



 世界樹の精霊について行った先は俺たちが居た世界樹の裏側。そこには巨大な湖があった。


「ここは精霊の泉。ここで精霊契約の儀式をしてもらう。誰からやる?」


 俺たちは顔を見合わせ順番を決めた結果、合格順ということで青羽さんからになった。


「では泉の真ん中へ」


 青羽さんは端を渡り、泉の中心にある石碑の前で祈るように手を組み目をつむる。


「あなたの願いを、思いを、精霊たちに伝えて。そうすればあなたの思いに共感した精霊が現れる」


「分かりました。……」


(私の願いは、先輩の隣に立つこと。中学の頃からずっと好きだった先輩の力になること。先輩のために私は強くなりたい!)


 しばらく青羽さんが願っていると泉が光、巨大な魔力が青羽さんを包み込む。


「成功したようだな」


 青羽さんは笑いながらこちらに戻ってくる。


「青羽どうだった?」


「無事に契約できたよ。けどなんか不思議な感じというか違和感がすごい」


「契約したばかりの精霊は契約者との繋がりが安定するまでその力を使うことが出来ない。だいたい一日ほどあればその違和感も消え、精霊との対話が可能になる。その対話を重ねて精霊の力を使えるようになる」


「なるほど。じゃあ明日まではこのままかぁ。……次は先輩の番ですね」


「あぁ行ってくるよ」


 陽太は橋を渡り石碑の前で目をつむる。


(俺の願いは魔王を倒す。そして平和になった世界で自由な冒険をする。知らない世界で、知らない物を見て、仲間と笑い合いながらこの世界を自由に歩きたい)


 陽太が願っていると泉が光、巨大な魔力が陽太を包み込む。

 そして契約をした陽太が戻ってる。


「どうだった?」


「上空の言う通りだな、なんかしっくりこないというか違和感があるというか。まぁ明日どうなってるかだな」


「そうか。なら次は」


「私ですね。……行ってきます」


 月奈は少し緊張気味ながら橋を渡り石碑の前で目をつむる。


(私の願いは家族と一緒にいること。兄さんとこの世界で出会った姉さん。家族が無事に元気で幸せに暮らしたい)


 月奈が願っていると泉が光、巨大な魔力が月奈を包み込む。

 契約をした月奈が戻ってくる。


「どうだ?やっぱり二人と同じか?」


「はい。なんというか、自分の魔力と、もう一つ使える魔力が増えた感じですね」


「……なるほど妹は魔力の扱いに長けているからかすでに精霊を強く認識できているようだな。では最後だ」


「あぁ、俺の番だな」


 俺は橋を渡り石碑の前で目を瞑る。


(俺の願いは家族で……っ!?)


 俺が願い始めた瞬間に、泉が光だし巨大な魔力が俺を包み込む。

 ……なにが起きた?まだ何も願っていないぞ?


「ふむ。どうやら万能の使い手を狙っていた精霊がいたらしいな」


「……どういうこと?」


「要するに、万能の使い手の願いに関係なく、彼を気に入った精霊が契約を行ったということだ」


「それって普通のことなの?」


「いや。これまでにそんな者は見たことないな」


 俺は違和感を感じながら、みんなの元に戻った。


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