第88話 義兄VS戦いの精霊騎士
(冷夜視点)
「うっ、あ、頭が」
意識を取り戻したツムリは頭を抑えながら体が倒れないよう剣で体を支える。
「っ、何が、起きた?」
俺も同じように頭を抑える。
【戦いの精霊騎士が主の記憶を覗いたんだ。だが主の心に踏み行ったことであぁして反発を受けた】
「俺に影響は?」
【特には無い。強いて言うなら記憶を見られた時に精霊の魔力を大量に浴びたことによる頭痛だろうが、それもすぐに治まる】
俺たちが会話をしている間にツムリは多少回復したのかまだ顔色は悪いが、剣を構えている。
「まさか記憶を見たら私が苦しむことになるとはね」
「自業自得だろ」
「ははは、そうだね。勝手に見てごめんね」
「別に。それで何か得るものはあったのか?」
「う~ん。分かったのは寂しい思いをさせないようにしよう、てことかな?」
「なんだそれ」
俺の頭痛も治まり、【闇夜ノ剣】を構える。
「分かってると思うけど、今の君じゃあ私に勝てない」
「そうだな。戦いの精霊、厄介な相手だ。……やるしかないな。『
黒い魔力が身体を包み、片眼に紅が灯る。そして【闇夜ノ剣】が黒い魔力を吸い取り暴走を抑制する。
「それが君の力か。禍々しいね」
俺たちは互いに視線を交差させ、同時に走り出す。
互いの剣が打ち合う、力は拮抗する。
さらに二度、三度打ち合う。そのたびにツムリの力と速度は上がり、俺の黒い魔力の量が上がり理性が薄れる。
「精霊の強化についてきてる?」
「……そういう力だからな」
互いに剣を振るう。多少俺の方が速く、ツムリの服をわずかに切り裂く。
「おっと、酷いなぁ女の子の服を切るなんて」
「……無駄口を叩いていていいのか?」
笑いながら剣を振るうツムリに、俺は冷たく言葉を返す。
さらに俺たちは剣を振るう。そのたびにツムリは速くなるが、俺の『狂戦士』の黒い魔力による強化には追い付けず、俺の剣だけが相手に届く。
「っ、これは、強い!」
ツムリはすでに剣を攻撃でなく防御に使っている。
(このままだとやばいなぁ。ここは……)
ツムリは剣を下から振るい、【闇夜ノ剣】を一瞬弾く。そして生まれた隙で後方へ移動する。
「これは少し本気を出さないとね。……戦いの精霊よ」
ツムリが呟いた瞬間、ツムリの魔力が大幅に上昇する。そして上昇した魔力は虹色の魔力となり剣に集中する。
「それがお前の奥の手か?」
「そんなとこだよ。これは君と戦った時間の中で溜めた力。その全てを開放して剣に集中させた」
「……つまりその剣を砕けば終わりか」
「そういうことだね」
俺は【闇夜ノ剣】に黒い魔力を込める。
「ヤミ、いくぞ」
【あぁ、一撃で決めろ】
何度目か、俺とツムリは視線を交差させ、同時に走り出す。
「戦いの精霊よ!」
「『
虹色の魔力を纏った剣と、黒い魔力を纏った【闇夜ノ剣】がぶつかる。
そして、
バキッ
とツムリの剣が折れた。
「これは、私の負けだね」
ツムリが折れた剣を地面に落としたところで、俺は『狂戦士』を解く。
「……ふぅ~。お疲れヤミ」
【うむ。主はこのまま神装の試練に挑むのだろう?】
「あぁ、と言っても合否次第だけどな」
俺は世界樹の精霊の方を見る。
世界樹の精霊は俺の視線に気づき、表情一つ変えないまま手を上にあげる。すると風が吹き、世界樹から一枚の葉が落ちてくる。
「どうやら問題なさそうだ」
【そうか。ならば試練の時に呼べ。それまで我は休む】
ヤミは剣の状態を解き、俺の身体の中に入りそのまま眠る。
「兄さん!」
「冷夜くん!」
月奈と姉さんが俺の元に駆け寄ってくる。
「「どうだった(でしたか)?」」
そろって聞く義姉妹に俺は笑いながら丸が書かれた葉を見せた。
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