第86話 義兄VS三人目の精霊騎士
「精霊女王?」
姉さんはいきなり告げられた言葉に困惑している。
それは俺たちも同じ。姉さんが世界樹の精霊と契約し精霊女王とやらになるらしい。
「そう。先ほどあなたの記憶を見て確信した」
姉さんの過去。それは姉さんにとっては決していいものではない。
「そう。あなたは自分と違う種の者と共感し、寄り添える。それは我が求めていた人材だ」
「えっと、褒められるのはありがたいんだけど……」
「では何が不満なんだ?」
世界樹の精霊は心底理解できないという表情をする。
「いや不満っていう訳じゃないけど。そもそも精霊女王ってなんなの?」
「なるほど説明不足だったな。精霊女王というのは全ての精霊の母である我と契約した者を指す言葉だ。その役目は我と共に精霊とこの森を守り導くこと」
「……つまりあなたと契約するとこの森に居続けないといけないってこと?」
「そうだ。だが不満のある生活はさせないと約束しよう。……これでもまだ不満か?」
「ん。んん~……それって私じゃないといけないの?」
姉さんは悩んだ末その言葉を出す。その問いに世界樹の精霊はノータイムで頷く。
「そうだ。我が求める者がこの先現れる保証はない。それに最近魔王の気配が大きくなっている。我としてはすぐに契約を交わし魔王に対する力としたいと思っている」
「魔王かぁ。んん~」
魔王まで絡んでくる問題となればさらに姉さんは悩む。おそらくだが姉さんは断る気だっただろう。だがつい最近に魔王軍幹部と戦ったことで魔王の力とやり方、決して許すべき相手ではないことを知っているからこそ、決断を悩んでいる。
「まぁまだ悩んでるならそれでいいんじゃない?どうせ神装を入手するまではここにいるんだからその間に決めて貰いなよ」
口をはさんだのはツムリさん。
「……いいだろう。だが出来るだけ早く決めてほしい」
そう言い世界樹の精霊はその場を離れようとするが、ツムリさんが世界樹の精霊を止める。
「待ちなよ。せっかくだし直接選別試験見ていきなよ」
「……そういえばお前がわざわざ来たのは選別のためだったな。だがなぜお前がわざわざ出向いた?」
「そんなに私が仕事するのが珍しいの?」
「貴様は精霊以外にほとんど興味をしめさないからな。疑問に思うのは当然だ」
「わぁ酷いなぁ世界樹様。でも当たり。私がわざわざ出向いたのは彼から感じる者があったから」
そういい指す指の先に居るのは俺。
「兄さんですか?」
月奈は普段よりワントーン落とした声で聞く。
「そう。それが何なのか、私はそれを確かめるために来た。だからさ、やろうか選別試験」
どんな理由があろうと、選別試験が出来るなら問題ない。
俺はツムリさんの言葉に頷いた。
______________
俺は先ほどのやり取りで起きてきた【闇夜ノ剣】を構え、ツムリさんは片手剣を構える。
【主よ】
「どうしたヤミ?」
【あの者、かなり精霊の力が強い】
「この森最強って言ってたからな。そういうだけの力があるってことだろ」
【なるほど。確かにあれほどの力があれば最強を名乗れるだろう】
「負けそうか?」
【いや、あの者がどんな精霊を使ってくるか分からない以上なんとも言えない。ただ警戒するに越したことはない】
「……了解」
俺とヤミの会話が終わると、スチルさんが開始の合図を出す。
「選別試験、開始!」
合図と共に、俺は腕輪から閃光石を取り出し投げると共に俺も走り出す。
「とりあえず先手必勝」
閃光石は見事にツムリさんの目の前で爆破、強烈な光を放つ。
「うぉっ!」
「眩しっ!」
テニス部員たちの悲鳴が聞こえるが、それを無視して俺はツムリさんの背後を取り、【闇夜ノ剣】を振るう。
だが、ガキンッという音が響き、【闇夜ノ剣】はツムリさんの剣により受け止められる。
「驚いたよ。君はこういう戦い方をするんだね」
「こっちも驚きましたよ。その眼、魔眼ですか?」
ツムリさんの目は、虹色の光を放ち、そこからは月奈の魔眼以上の魔力を感じる。
「いいやこの眼は『
『精霊眼』それがヤミが言ってた強い精霊の力か。
だが魔力を見るだけならヤミがそこまで警戒しないはず。とすると……。
「それと、私に敬語はいらないよ。戦闘中に敬語とか調子狂うし」
「そうですか。ならこの口調で話させてもらおう」
俺とツムリは互いに後方へ移動し距離を取る。
互いに視線が交わり、ほぼ同じタイミング、俺が一瞬遅れて相手に向かって走る。
剣が交わる。が、ツムリの剣が先ほどよりも重い。
さらに互いに剣を打ち合うが、最初の一撃より次の一撃の方が速く、重い剣になっている。
何度も打ち合う中、遂に俺の方が斬られる。と言ってもコートの服の部分をわずかに斬られただけだが。それは確実に相手の力が上昇しているということを表している。
「さっきよりも強くなってる。気づいてるよね?」
剣を交えながら話しかけてくる。また剣が速くなった。
「私の契約精霊が司るのは戦い。戦いが始まった瞬間を0として、一度剣を交えると一、次は二と力や速度が上がっていく」
ツムリが話す間にも戦いの精霊による強化が行われ、俺のコートのあちこちが斬られた。
つまり戦いが長引くほどこちらが不利になるわけだ。厄介すぎる。
「それを戦いが始まってしばらくたった今話すなんて最悪だな」
「そりゃあスチルじゃないんだから手札は伏せるでしょ。君だってそうでしょ?」
互いに剣を弾きあい、間が生まれる。
「どういうことだ?」
「君の中にある物。怒りや殺意。精霊にはあまり司ってほしくない物だ」
「戦いの精霊と契約してるお前が言えることか?」
「確かにね。でも君ほどの感情を持つのは稀だよ。どうしてそこまでの思いを持つのか、精霊を守る者としてはとっても気になるんだよね」
そう言うツムリの手には魔力、いや精霊が集まっている。なんだかすごく嫌な予感がする。
「だから少しだけ見せてもらうよ。記憶の精霊よ」
その瞬間強烈な光が発せられ、俺は意識を落とした。
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