第85話 義姉の選別試験

(冷夜視点)


 シャインさんに手を貸した月奈の元に、世界樹から葉っぱが落ちてくる。


「さて結果発表だね。まぁあんたなら……」


「……はい。やりました」


 月奈はシャインさんに一礼すると俺たちの方に小走りで近づいてくる。その月奈の顔が笑顔であることから結果は明確だ。


「合格しましたよ!」


「やったね月奈ちゃん!!」


 姉さんは合格した月奈以上に喜び、月奈を強く抱きしめる。少し月奈が苦しそうだが、笑っているし問題ないだろう。


「おめでとう月奈」


 俺は月奈の頭を撫で、祝福の言葉を贈る。


「ありがとうございます。兄さん、姉さん」


 そう笑いながら言う月奈をさらに抱きしめる姉さんと頭を撫でる俺。しばらく姉さんと月奈を可愛がると、二人の精霊騎士がこちらに近づいてくる。


「さて、あとはお二人ですが……」


 あぁ、続きをやろうっていう話だな。


「俺からやりますよ。いいよね姉さん?」


 姉さんはもちろんと頷き返してくれる。

 だが当のスチルさんはそうではなく……と首を横に振る。


「自分もシャインもこの様なので、お二人の選別を明日に回してもらえないかと」


「ちょっとスチル。私はまだやれ……」


「ないでしょう。直撃こそは避けて貰いましたが精霊の力を使い過ぎです」


 スチルさんはシャインさんをなだめながら俺たちに頭を下げる。


「そういうことですのでまた明日に……」


「待ちなよスチル」


 俺たちの後ろから、スチルさんの言葉を遮る声がする。その声の方を向くと、青髪猫耳の獣人の女性が光の玉というか精霊?に囲われながらこちらに歩いてくる。


「ツムリ……サボり魔のあなたが来るなんて珍しいですね」


「ははは。酷いなぁー。ちゃんと仕事はしてるよ?精霊たちのケアも私たちの仕事でしょ?」


 ツムリと呼ばれた獣人の女性は自分の周りで浮く光の玉のような精霊を撫でる。

 俺たちはそんな二人のやり取りを見ていると、ツムリさんがこちらに向く。


「さて、勇者様がた。選別の前に自己紹介をしようか。私はツムリ。精霊騎士の一人で、この森最強の戦士だよ。私の周りを漂ってるのは精霊の赤ちゃんみたいな子。あんまり人にはなつかないんだけど、私は精霊に好かれやすい体質だからね。この子たちとずっと一緒にいるんだ」


 森最強の戦士か。つまりはスチルさんやシャインさんよりも強い精霊使い。


「へぇーこの子たちが精霊の赤ちゃん?」


「そうだよ。今は自我の薄い魔力の塊みたいな状態だけど、ここから司る物を決めて自我が強くなって強力な精霊になるの。でも精霊は警戒心が強いから契約者以外にはほとんど近づかないんだよね」


「へぇー。……精霊さんこんにちは」


 姉さんはいつの間にか精霊に話しかけている。さすが姉さん、コミュ力高い。


「ははは。話しかけてもなかなか精霊は反応してくれな……」


 ツムリさんが反応してくれないと言いきる前に、姉さんの元に精霊が集まり出す。


「わっ、わっ!たくさん来たんだけど!?」


「……もしかしてあなた私と同じように精霊に好かれる体質なのかもね。でもこれは……」


 ツムリは何か考えるように精霊と戯れる姉さんを見る。

 俺が考えるに姉さんの元に精霊が集まったのは体質もあるだろうが、姉さんのスキル、『以心伝心』が影響していると思う。『以心伝心』はフィートフクなどの人間の言葉が話せない相手ともコミュニケーションをとることが出来るスキルだ。それなら精霊と会話できても不思議じゃない。


「……あなたの名前聞かせてもらえる?」


「ん?いいよ。ゴホンッ、私は星空カグラ。鞭の勇者だよ。こっちはフィートとフク」


 姉さんが名乗るのと共に精霊と戯れる二匹も鳴き声を出す。


「鞭の勇者……あなた合格」


「……え?」


 いきなりの合格を告げられた姉さんは口を開けて驚く。かくいう俺も月奈も他の奴も全員驚いているが。


「えっとどうしていきなり合格?」


「えぇっとね、それは世界樹様本人に話してもらおうか」


 その瞬間強風が吹き、世界樹の葉が大きく揺れる。風が吹いたことで俺たちが目を塞ぎ、次に開いた瞬間には俺たちの目の前に長い緑髪のどこか神秘的な少女が立っていた。


「……こんにちは異世界の勇者たち。我は世界樹の精霊」


 世界樹の精霊と名乗った少女は、一瞬で姉さんの前に移動する。いや、移動というか俺たちが認識できなかったその速度は転移と呼ぶべきものだった。


「えっと?」


 姉さんは突然目の前に現れた世界樹の精霊に戸惑う。


「あなたが精霊と対話出来る者。……少し見せてもらう」


「え、見せてもらうって……っ!?」


 世界樹の精霊に触れられた姉さんは、いきなり力が抜けたように膝をつく。


「「姉さんっ!」」


 月奈は姉さんに寄り添い、俺は義姉妹ふたりを守るように世界樹の精霊の前に立つ。さらに俺と同じく怒っているフィートやフクも横に並ぶ。


「お前何をした?」


 俺は怒りを必死に抑えながら世界樹の精霊を睨む。このまま怒りをぶつけてもいいが、一応世界樹と名乗る相手なので多少の配慮をしてやる。


「落ち着け万能の使い手よ。我は貴様らと争う気はない」


 世界樹の精霊は表情を変えることなく淡々と言う。


 万能の使い手、こいつヤミのことを?


【誰かと思えば、世界樹の精霊か】


 俺が考えていると俺の手元に【闇夜ノやみよのつるぎ】、ヤミが出現する。

 俺は呼んでないのだが……。


あるじの怒りを感じたからわざわざ出てきたんだが。我が主を怒らせるとは、貴様何をしたんだ?】


「……勘違いだ。我は貴様の義姉あねに危害を加えてはいない。ただ少しだけ記憶をのぞかせて貰っただけだ」


 俺は後ろを向き姉さんの状態を確認する。姉さんは頭を押さえながら立ち上がっている。


「姉さん大丈夫ですか?」


「うん。大丈夫。冷夜くんも、フィートもフクも大丈夫だから」


 俺たちは姉さんの言葉を聞き、怒りを鎮める。


「だから言っただろう。……だが何も言わずに行ったのは悪かった。すまない」


 世界樹の精霊はまだ俺たちの怒りが完全に収まっていないことを感じ取り、謝罪をしてくれる。


「……まぁ姉さんが無事ならいいけど。それでなんで姉さんの記憶を見るなんてことをしたんだ?」


 世界樹の精霊は俺の後ろにいる姉さんを指しながら答える。


「……それは、貴様の義姉が我と契約するにふさわしい、精霊女王となるにふさわしい人物からだ」










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