第84話 義妹VS光の精霊騎士
(月奈視点)
無事選別に合格した日野さんは兄さんの肩を借りながらこちらに歩いてきます。あの魔道具意外と体に負荷がかかる物なんでしょう。
「お疲れ様です先輩!合格おめでとうございます!」
「あぁ、ありがとな」
青羽はすぐに日野さんに駆け寄って祝福の言葉をかけます。
青羽もなんだかんだで日野さんにアピールしていますよね。
「……青羽さん、悪いがこいつを支えるの変わってくれないか?すぐにでもガントレット部品のチェックしたいんだ」
「え?は、はい!すぐに変わりますね」
青羽が頬を赤くしながら日野さんを支えます。兄さんグッジョブ。
「おいおい、親友より魔道具かよ」
「これもお前のためだ。ほら、さっさと休んでこい」
兄さんに言われるままに日野さんは青羽に支えられながら日陰の方へ歩いて行きます。
「スチル。あんた派手にやられたね」
「……」
「さすがは拳の勇者様と言ったところかい?」
「……そうですね」
「それで、まだ出来そう?」
「……無理ですね」
「だよね。いいよ、後は私が引き受ける」
「お願いします」
二人は話を終えるとシャインさんがこちらに向かってきます。
「じゃあここからは私が選別試練をするよ。それで残ってるのは……」
私と兄さん、姉さんが手を上げます。
「じゃあ勇者様以外の二人、どっちからやる?」
「あの、わたしからじゃダメなんですか?」
シャインさんの言葉に姉さんが質問します。シャインさんはそんな姉さんの質問にため息交じりで答えます。
「ごめんなさい。さすがに私でも勇者様の相手をすると他の二人の相手が厳しくなるから」
「でもそれなら……」
「別にいいんじゃないか?誰がやっても結果は変わらないんだから」
兄さんは姉さんが反論をしようとするのを止め、私に視線を向けてきます。
それは「どっちが先にやる?」という視線です。
兄さんが言っていた「誰がやっても結果が変わらない」という言葉、つまりは一人でシャインさんを他の二人と戦えないほど追い込む、こう言うとなんだか悪いことをしている気分になりますが、そういう状況に追いこませるということでしょう。
確かに私も兄さんの能力を過少評価されて思うところもありましたし……決めました。
「私がやります」
「うん。じゃあ用意してね」
シャインさん先に位置に着き、得物である二本のナイフを手に馴染ませます。
「月奈ちゃん頑張ってね!」
「はい。絶対合格します!」
私がそう言うと姉さんが強く抱きしめてくれます。ちょっと苦しい。
「月奈、お前なら出来る」
「兄さん……」
姉さんの腕から離れた私の頭を兄さんは優しく撫でてくれます。これはもう負けるわけにはいきませんね。
「では、行ってきます」
私は
私とシャインさんの準備が出来たことを確認し、スチルさんが合図を出します。
「では、開始!」
「光の精霊よ」
「!?」
合図と共に先に動いたのはシャインさん。聞こえた言葉から察するにシャインさんの契約精霊は光の精霊。そしてその力で自分の姿を消しました。
「消えた。冷夜くんわたしの目がおかしいのかな?」
「いや、俺の目にも見えなくなってる。しかも……」
(魔力が感じ取れない!?)
私は目で見えないなら魔力を感じて位置を特定しようと思いましたが、まったくと言っていいほどシャインさんの魔力が感じ取れません。
……この原因は周囲の魔力が強いからですね。さらに普通の魔力でなく精霊による魔法だからこそさらに周囲の魔力区別がつかなくなっています。
「感知が使えないなら仕方ありません。別の方法で行きましょう。『シャイニングバレットレイン』」
少し強引なやり方ですが、私の周りを囲むように上空から光弾を雨のように降らせます。
「……光の精霊よ」
私のやり方は成功し、背後から声と、光の弾丸を魔力の障壁で防いでいます。
「お嬢さん中々大胆だね。てっきり大人しい子だと思ってたよ」
「……私と兄さんを甘く見たことを後悔させてあげますよ」
ついついそんなことを口走ってしまいました。特に後悔はありませんが。
「『シャイニングバレット』」
シャインさんに向けて光弾を撃ちます。
「光の精霊よ」
シャインさんは姿をまたしても姿を消して光弾を避けます。この距離で避けられるとは、これは接近されるのを避けたいですね。
ひとまず……
「『マッドグランド』」
私は土魔法で周囲の地面を泥沼に変えます。これで近づかれれば気づくことが出来ますが、
「光の精霊よ」
横から光弾がこちらに飛んできます。
「『魔力障壁』」
その全てを障壁で防ぎました。遠距離からの攻撃なら魔力感知も働きますね。
ですがこのままではお互いにジリ貧、ここで手札を切りましょう。
「『魔眼』」
眼が黄色く光、魔眼を発動させます。
あの悪魔との戦い以降表示が『???の魔眼』となっていたので魔眼が
「光の精霊よ」
シャインさんは相変わらず姿を見せないまま光弾を放ってきます。なんにせよ一方からなので対処は簡単ですが、先ほどと違い飛んでくる光弾の中にナイフが混ざっています。
「『魔力障壁』」
ですが問題ありません、すべて魔力障壁で防ぎきれます。光弾は消滅し、ナイフは私の横の泥沼に突き刺さります。
さてそろそろこちらから攻撃を……!?
「光の精霊よ!」
「『魔力障壁』『シャイニングバレット』」
私は前面から襲い来る光弾を魔力障壁で防ぎ、横から襲ってきた光弾を刺さっているナイフごと光弾で打ち砕きました。
「ありゃ、バレてたか」
どこからかシャインさんの声が聞こえます。
さきほどの攻撃、二つの方向から光弾が襲ってきたのはあのナイフが原因でしょう。
「私の契約している光の精霊は光を伝って移動する。今のはナイフに反射した光からそこに移動した光の精霊が攻撃をしてくれたんだけど……あなたに魔法系統は効かないみたいね」
そう言うことでしたか。だとしたらナイフを壊して泥に埋めたのは正解でしたね。
そしてシャインさんの言う通り、魔力がこもっていれば魔眼を使用している私なら対処可能です。なので私に近づかなければ有効打は与えられませんが、泥沼の地面なら近づかれた瞬間に対処できます。
互いに手づまり、シャインさんはそう思っているでしょう。ただ私は違います。さきほどの攻撃で見えない相手に広範囲攻撃が有効だと分かりました。なので後は防がれないほどの威力があれば……。
「天より放たれる閃光の弾丸。穿って、『シャイニングバレット・バースト』」
私が放ったのは先ほど同じように広範囲に渡る光弾の雨。
「光の精霊よ!」
シャインさんも先ほどと同じように障壁を張って防ごうとします。
ただ今回の魔法は先ほどと似ていても、先ほどよりも魔力を込め、魔眼まで使っているので威力は別物です。
その証拠にシャインさんの張った障壁にはヒビが入り、その障壁に向けて光弾の雨が降り続けます。さらに私はシャインさんのいる位置が分かったのでその場所に向けて光弾を集中させます。
「っ!?光の精霊よっ!!」
シャインさんはすぐに新しい障壁を張りますが、範囲を限定したことで光弾の威力が増し、古い障壁は壊れ、新しい物にもヒビが入ります。
「くっぅ、光の、精霊よっ!!」
すでにシャインさんには余裕がなく、必死に障壁を張ります。私は念のためにシャインさんの真上から少し範囲を広げて打っていた光弾の範囲をさらに絞ります。
「っ、光の……精霊、よ」
さすがに限界でしょう。シャインさんがその場に座り込み全ての障壁が壊れたところで光弾の雨を止めます。
「『ドライグランド』」
私は地面を元に戻し、シャインさんに近づきます。
「あの、大丈夫ですか?」
「……えぇ。すごいわねあなた。魔法技術も魔力量も勇者以上。あなたを侮っていたこと謝罪するわ」
私はシャインさんに手を差し出します。
シャインさんきちんと謝罪をしてくれるいい人ですが私には一つだけ気に入らないことがあるのでそこだけは直してもらいましょう。
「私に謝罪は必要ありませんよ。ただ……兄さんを侮ったことだけは反省してください」
「……それは彼の強さを見てからでもいいかしら?」
「……いいですよ。どちらにせよ結果は変わりませんから」
「……それは楽しみだわ」
シャインさんは私の手を取って立ち上がりました。
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