第83話 拳の勇者VS鋼の精霊騎士


「なるほどな。精霊契約のための選別か、懐かしいな」


 ドワーフさん(職人は名前を名乗らないということで巨匠きょしょうと呼ぶことにした)に俺は選別対策のための魔道具作りをしに来たと伝えた。


「それで、そこの拳の勇者のために作りに来たわけか。それでどんな物を作るつもりなんだ?」


 巨匠に聞かれた俺は腕輪から前々から考えていた魔道具の設計図を取り出して見せる。


「なるほどな。なかなかよく出来た図面だ。……だが完璧じゃあねえな」


 さすが巨匠。一瞬でこの図面が不完全な物と見破られた。


「はい。だからこそ魔道具の専門家である巨匠の知恵をお借りしたいのですが」


「……いいだろう。よし、勇者の坊主もこっち来い。この魔道具今日中に仕上げるぞ!」


 俺と陽太、巨匠は奥の部屋で陽太用の魔道具を夜通し作ることになった。




 ________

(月奈視点)


 兄さんたちが巨匠さんに連れられ奥の方に進んで行き、私たちはその場にそこされました。


「兄さんたち行っちゃいましたけどどうしましょう?」


「そうだなぁ、このまま戻るのもなんだしちょっと見て行こうか」


 姉さんは早速と大量の魔道具の山があった場所まで戻り、いくつかの魔道具を触り始めます。


「あんまり触ると危険なんじゃ……」


 青羽が無邪気に魔道具を触る姉さんを見て心配そうな顔をします。

 その心配はすぐに的中し、


「わぁっ!?」


「ミャッ!?」


「ピィロ!?」


 姉さんが魔力を込めた魔道具の一つがいきなり炎を出して飛び、姉さんの近くで飛んでいたフィートとフクが驚く声を出します。


「青羽ちゃん危ない!」


 魔道具は青羽の方に向かって飛んでいきます。


「え?っ!?」


 青羽はとっさの判断で近くに会った斧のような魔道具を手に取り、


「えいっ!」


 その斧を振るって魔道具を人のいない方向に打ちました。

 マネージャーとはいえさすがテニス部と言ったところでしょうか。


 そして飛んだ魔道具はしばらく空中を飛び回ると魔力が切れたのかゴトンッと音を立てて落ちました。


「び、びっくりした~」


「……姉さん、あまり不用意に触らないようにしてくださいよ」


 私は落ちた魔道具を拾い姉さんに軽く注意します。


「ごめんごめん。青羽さん本当にごめんね!フィートもフクも驚かせてごめん」


 姉さんの謝罪にフィートとフクは仕方ないなぁと呆れたように姉さんをゆるします。


「大丈夫ですよ。それにしてもその魔道具すごいですね、まさか飛ぶとは」


 青羽は斧を置き私の拾った魔道具を指さします。


「そうですね。炎も出てましたしかなり危険な物ですけど……」


 私たちがそんな会話をしていると、奥の方で魔道具を作成していたはずの兄さんが顔を見せます。


「さっき叫び声が聞こえたけど大丈夫か?」


 どうやら魔道具がいきなり飛んだことで私たちが叫んだ声を聞いて心配して来てくれたようです。


「大丈夫ですよ。姉さんが魔道具を触っていきなり動いてびっくしただけですから」


「そうか?ならいいが……そうだこんな魔道具見なかったか?」


「「「……あ!」」」


 兄さんが持つ紙に書かれている魔道具は今まさに私が持っている魔道具でした。


「兄さん、それってこの魔道具ですか?」


「あぁ、それだよ。ありがとな。……ところでなんでみんな怯えてるんだ?」


 そりゃあさっき店中を飛び回った魔道具ですからそれを使うとなれば警戒するのも当然でしょう。

 そんな中青羽が気まずそうに手を上げます。


「あの、私その魔道具を斧で打っちゃたんですけど……」


「そうか。……打っちゃた?」


 兄さんは最初聞き流そうとしていましたがあまりに衝撃的な言葉に青羽に聞き返します。


「はい。その、魔道具がこっちに向かって飛んできたのでテニスボールを打つみたいにスパーンと」


「あ、あぁそういうことか。……まぁ別にこれ自体をそのまま使うわけじゃないし、特に壊れてる感じでもないから大丈夫だ」


 兄さんの言葉に私たちはほっと胸をなでおろします。


「俺たち夜通し魔道具作りをするから帰れないと思うから、みんなは先に帰ってそのことを伝えておいてくれ」


「了解です。ですがあまり無理はなさらないようにしてくださいね」


「あぁ、分かってる」


 兄さんは私の頭を撫でると「それじゃあ」と奥に戻りました。


「兄さんもああ言っていましたし、私たちは戻りましょうか」


 私がそう言うと何故か二人は微笑ましそうな顔で頷きます。


「うん。そうだね」


「うん。月奈、すっごい嬉しそう」


「……そうですか?」


 私は二人に「そうだよ」と言われながら、三人で宿に戻りました。






 ____________________

(冷夜視点)


 その後夜通し魔道具を作り、横でのんきに眠っていた陽太を叩き起こして宿に戻り、数時間ほどの睡眠をとって俺たちは選別試験に向かった。


「おはようございます勇者様方」


 世界樹の下では昨日と同じようにスチルさんが待っていた。

 だが昨日と一つ違いもう一人、金髪のエルフの女性が隣にいる。


「おはようございます。あの、そちらの女性は?」


 今日一番に選別を行う陽太がエルフの女性を見ながら聞く。


「あぁ、このエルフは……」


「待った。自分の自己紹介は自分でするよ」


 エルフさんはスチルさんの言葉を遮って一歩前に出てくる。


「初めまして勇者様方。私はシャイン、スチルと同じ精霊騎士の一人だ。よろしくね」


 エルフさんは話す感じだと姉御肌といった雰囲気の人だ。


「昨日は非番だったから挨拶できなかったけど今日は私も選別試験をさせてもらうよ。さすがにスチル一人で勇者二人の相手はさせられないからね」


 なるほど。そう言うことか、だが勇者二人の相手をさせられないと言われると俺と月奈が勇者以下の戦力としか見られてないな。初対面ならそう考えるのが普通なんだろうが。

 まぁその辺は本番で実力を示すしかないな。


「それでは早速始めましょうか。今日最初に行うのは……」


「俺です。よろしくお願いします」


 陽太が堂々と手を上げ、挨拶をする。


「はい。正直勇者様を相手にするの気が引けますが、我々精霊騎士の役目ですので全力で行かせていただきます」


「ははは、まあ、お手柔らかにお願いしますよ」


 陽太は半笑いで(多分あいつとしてはかなりの過大評価をされて焦りで出た笑いだと思うが)スチルさんと距離を取り、ガントレットの調子を確かめる。


「よし。いつでもいけます!」


 陽太の声と共にスチルさんも剣を構えてシャインさんに目配せをする。


「じゃあ……選別試験、開始!」


 シャインさんの合図と共に、スチルさんに向かって走り出す陽太。

 陽太は最初から身体能力強化全開で一瞬にしてスチルさんの前まで移動し、拳を叩き込む。


「はぁっ!!」


「鋼の精霊よっ!」


 だが陽太の拳は鋼の精霊により作り出された盾により防がれてしまう。


「うわぁ、今の防がれるかぁ~」


「今のは危なかったですね。普通の魔法ならば展開が遅れて防ぐことは出来なかったでしょう」


 至近距離で話す二人。

 陽太はすぐに拳を引き反対の拳を突き出す。だが盾を手にしたスチルさんにより完璧に防がれる。


「ふむ。なかなかの衝撃。これも普通の盾ならばすぐに壊されて終わりでしたね」


 その後も陽太は右ストレート、左フック、回し蹴りなど次々と攻撃を仕掛けるが、そのどれもがスチルさんの身のこなし、盾捌きにより防がれる。


「日野さん、焦ってますね」


 月奈の言う通りなかなか攻撃の通らない陽太は焦りが見え始め、逆にスチルさんは陽太の攻撃に慣れてきたのか余裕が見え始めている。


「先輩っ……」


 月奈の隣で青羽さんが心配そうに陽太を見つめる。


「冷夜くん、昨日作ってた魔道具はまだ使わないのかな?」


「そうだな………」


 中々答えない俺に全員が不安そうな顔をする。中でも一番不安そうなのは青羽さんだが。


「大丈夫。そろそろ陽太も慣れてきたはずだからな」


 俺は焦る陽太を見ながら呟いた。





 __________

(陽太視点)


(っ、まだ慣れないな!)


 俺はスチルさんに攻撃を繰り出しながらガントレットを見る。

 このガントレットこそが機能冷夜と巨匠に作ってもらった魔道具なんだがこいつは本来の力を出すのに少し面倒な手順がある。


 まずは身体能力強化。

 俺の魔力での身体能力強化をかなりのレベルで発動させる。

 ただ身体能力強化はあまりに元の身体能力よりも強化し過ぎるとしばらく強化が身体に馴染まないので多少時間をかけて強化した体に慣れる必要がある。


 そして強化した体が作れてからが本番、ようやくガントレットの機能を使用することが出来る。


「はっ、らっ、おらっ!」


 拳と足で攻撃を繰り出すが本当に攻撃が通らない。

 盾固すぎだし、何より防ぎ方が上手すぎる。


「そろそろ勇者様も疲れてきましたか?」


「はは、まだ全然いけますよ!」


 そう言うが、スチルさんの余裕の表情にさすがに焦ってくる。


「はぁっ!!」


 俺は渾身の右ストレートを打つ。


「……今のはよい一撃でしたね」


 だがそんな攻撃も盾によりきれいに止められる。

 ……まぁいいけど。ようやく慣れたからな。


 俺はチラリと冷夜を見ると、親指を立てている。

 よし、


「『ブースト・オン』」


 俺は盾に右手をつけたまま、ガントレットに魔力を流す。

 するとガントレットに取り付けられた車のマフラーのような部品から後ろに向けて炎を吹き出す。


「はぁっ!!」


 勢いよく出る炎に突き動かされながら、俺は拳に力を込めて盾を粉砕する。


「なっ!?」


 さすがに盾を壊されたことに驚きスチルさんはこれまで見たことが無いほど驚いた表情を見せる。


「……まさか精霊の盾を破壊するとは、さすがは拳の勇者様ですね。鋼の精霊よ!」


 スチルさんはすぐに新しい盾を手に持つ。


「やぁっ!」


 俺はそんな盾を気にせず、両腕から炎を噴出させ、先ほど以上のパワーと速度でスチルさんに攻撃を仕掛ける。


「むっ、くっ!」


 さすがに一発で盾を破壊まではいかないが、何度も拳を打ち込めばヒビが入り、さらに盾を持っていてもこちらの連打でスチルさんの体勢を崩すことに成功する。


「やぁっ!!!」


「ぐほっ!?」


 見事に俺の右の拳がスチルさんの体にヒットした。


「くっ、うっ、さすがは勇者様ですね。降参です」


 おそらくまだ戦うことは出来るだろうけど、選別にはもう十分と判断したんだろう。


「『ブースト・オフ』ありがとうございました」


 俺はガントレットに魔力を流すのを止め、身体能力強化を解……こうとしたのだが、


「え!?ちょっ、待って!このガントレット止まらないんだけど!?」


 マフラーからは炎が噴き出し続け、腕が勝手に右へ左へと暴れまわる。

 俺ちゃんと魔力流すのやめたし魔道具の効力も切ったはずだよな!?


「冷夜!!どうにかしてくれー!」


 俺は腕を必死に抑えながらこの魔道具を作り出した張本人にして責任者の名前を叫ぶ。


「はいはい。ちょっとじっとしてろよ」


 冷夜はかなり余裕な顔しながら近づいてくる。もっと急いでくれよ!親友のピンチだぞ!?


「あぁーやっぱり魔力の制御機関がイカれてるな。やっぱ調整が必要かぁ」


「反省はいいから!早くどうにかしてくれよ!」


 俺が必死だというのに冷夜はあまりに冷静過ぎる。ここまで親友を殴りたくなったのは初めてかもしれない。


「はいはい、もう少し落ち着けよ。『錬成』」


 冷夜がガントレットに触れると、ばらばらとガントレットがパーツごとに崩れて落ちる。


「ふぅー。助かった……お前さ、もう少し早く助けてくれよ!」


 俺が叫ぶと冷夜はパーツを拾いながらため息をついて答える。


「いや助けるとなるとこうやってバラすしかないから、実際に使ってる時にどこが悪いのか見ておかないと」


「お前なぁ~」


 俺たちがそうして話していると、世界樹から葉が落ちてくる。


「ほら、さっさと確認しろよ」


「あぁ分かってるよ。………」


 いや合格してるよな?これで不合格だと本当にどうしようもないんだけど!?

 俺は恐る恐る葉っぱを見るとそこには、


「っ!?よしっ!合格だ!!」


 丸が書かれていた。




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