第82話 精霊の森の魔道具屋
「やりましたよ先輩!」
青羽さんは嬉しそうに陽太に駆け寄る。
「あぁ、おめでとう!」
飛び跳ねるほど喜んでいる青羽さんに祝福の言葉をかける。
そしてしばらく喜び落ち着いたころ、スチルさんが近づいてくる。
「選別合格おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます。でも私もスチルさんに勝てませんでしたけどなんで合格を?」
青羽さんは丸が書かれた葉を見ながら聞く。
「先ほども言いましたが勝敗はそこまで影響しません。あなたの場合は魔法と弓を会わせた戦い方、合格をしたいという強い意志が世界樹に認められたのでしょうね」
なるほど。勝敗が関係っていうのはそういうことか。
「次の人と行きたいところですが、日が落ちてきたので今日はここまでにして残りの人は明日にしましょう。今日宿泊していただく場所へ案内します。ついてきてください」
俺たちはスチルさんについて行き、先ほど通った多くの店が並ぶ場所まで戻った。
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スチルさんに案内されて着いたのはかなりの大きさの宿屋。
「あとは宿の者が対応しますので。ではまた明日」
スチルさんは軽く手を振ってその場を後にした。
「すでにお食事も用意していますので、まずはお食事からどうぞ」
宿屋に入り食堂のような場所に通された俺たちはすでに机に並べられている食事に目を奪われる。
「か、カレーだ……」
そう呟いたのは男子部員。その反応から分かる通りこの世界に来てからカレーを食べていなかったのだろう。
かくいう俺たちも天から貰った食料の中にカレーを作れるものは無かったので久しぶりだ。
「かつて召喚された拳の勇者様が異世界の方の好物であるとおっしゃっていた物を用意しました。その反応からだと喜んでいただけそうですね」
拳の勇者。おそらく、いや絶対に三回目に召喚された勇者の仕業だろう。
「そうなんですか!?じゃあ早速、いただきます」
そうしてテニス部たちは次々とカレーを口に運ぶ。
「「……美味い!!」」
どうやらその味も完璧らしい。中には水をがぶ飲みする者もいるが、みんな嬉しそうに、美味しそうにカレーを食べている。
「えっと、みんな美味しそうに食べてるけど、有名な料理なの?」
一人困惑しながらテニス部員を見るのは姉さん。
そりゃあ姉さんは別の世界から来たわけだし育った環境が環境だからカレーなんて知らないよな。
「これは俺たちの世界の料理で、大人から子供まで多くの人が好きな料理なんだよ」
「はい。ただ人によっては少し苦手かもしれませんからまずは少し食べてみてください」
俺たちの説明を聞いた姉さんはスプーンでカレーをすくい、ゆっくりと口に運ぶ。
「はむっ………」
「どうですか?」
姉さんはしばらく口の中をもごもごさせながら飲み込む。
「……美味しい。これ美味しいね!」
その言葉に俺も月奈もよかったと俺たちもカレーをすくう。
ただ口に運ぶ前に姉さんの様子が変わり、
「あ、か、辛い!」
「月奈、水!」
「はい!姉さんどうぞ!」
どうやら辛さが後からきたらしく、姉さんは月奈から受け取った水を一気に飲み干す。
「ん、ん。……ふぅ~、ありがとう月奈ちゃん」
「いえいえ。大丈夫ですか?」
「うん。後から辛さがきてビックリしちゃったけど大丈夫だよ」
姉さんは笑いながらカレーを口に運び、俺たちに大丈夫と伝えてくれる。
それを見て安心して俺たちはカレーを口にする。
「……うん。美味いな」
「はい。とても美味しいですね」
俺も月奈も久々のカレーをぺろりとたいらげた。
「みなさまおかわりはいかがですか?」
宿屋の人の言葉にお願いします!と全員おかわりをお願いした。
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「「ごちそうさまでした」」
俺たちはその後も数回おかわりをお願いして食事を終えた。
そんな俺たちに宿の人が複数の鍵を持ってくる。
「こちらお部屋の鍵です。一人部屋から複数人の部屋まであるのでお好きなお部屋をお使いください」
宿屋の人から各々鍵を受け取り、テニス部員たちは早速部屋に向かって行く。
ただ俺は鍵を受け取るが聞きたいことがあり宿の人に話かける。
「この森に魔道具の材料になりそうな物売ってる場所ありますか?」
「ありますよ。昔拳の勇者様がこの森で様々な魔道具を作ってたらしいですからね。ただこの時間となると開いているお店も限られますが……」
宿の人はそう言いながらも近くの開いている店を教えてくれた。
「兄さん行くんですか?」
「あぁ、明日の選別に備えたくてな。月奈と姉さんは待っててもいいけど……」
二人は俺の言葉に首を横に振り当然ついていくと言う。
「よし。じゃあ陽太行くぞ!」
「え、俺も?」
まさか誘われると思っていなかったのか宿の人に風呂のことを聞いていた陽太が首をかしげる。
「当たり前だ。お前が万が一にも選別に落ちないための備えなんだからな。のんきに風呂になんて入らせねえよ」
「えーそんなぁー!」
陽太は文句を言いながらもこちらに来る。
「あの、私もついっていっても?」
そう尋ねるのは青羽さん。
まぁ選別に合格したとはいえ本番は神装の試練だし青羽さんが使えそうな魔道具が作れそうなら戦力になってくれるし。
「もちろん」
俺は青羽さんの言葉を了承し、俺たち
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「ところで冷夜くん。陽太君に魔道具を作ってあげるみたいだけどどんな魔道具を作るつもりなの?」
「陽太は拳の勇者だから武器はガントレット、ようするに手や足での戦い方が主になる。だから必然的に近接戦闘なるんだけど、陽太は魔法のスキル持ってないから遠距離が絶望的なんだよ」
俺は陽太の方を見る。
「そうだな。けど魔力での身体能力強化は人よりもかなり強いらしいぞ」
「つまりこいつは近接特化にしかならない。だから最初は遠距離対策をしようかと思ったんだけど……今日の選別を見て遠距離は一旦保留にすることにした」
姉さんはどういうこと?と首をかしげる。
「選別の相手は精霊を扱う。その精霊なんだが今日見た印象だと、演唱の少ない魔法って感じだった」
他にも武器の強度や壁の展開速度は驚異的なものだった。
鋼の精霊だけの可能性もあるが、今回の相手はその鋼の精霊だから問題はないだろう。
「ただスチルさんは遠距離の攻撃は無いみたいなので、陽太には近接で相手の防御を崩せるくらいの力を与えようかと」
そうこう話していると目的の魔道具屋に着いた。
着いたのは多くの店が並んでいた場所から少し離れぽつんと一軒だけある店。
「おじゃましまーす」
俺はのれんをくぐり店の中に入る。
「暗いですね」
俺に続いて店に入った月奈が明かりのない店内を見て呟く。
俺たちは店の奥の方へ歩く。その道中に壊れたもなのか失敗作なのか数多くの魔道具が山のように捨てられている。
「なんだろうこれ?」
姉さんは魔道具の山を見ながらいくつかの魔道具を手に取る。
ただそのどれもが使い用途が分からない物ばかりだ。
「なんだろう?まぁ作った本人に聞けばいいと思うよ」
店の奥に近づくにつれて、カンッ、カンッ、とハンマーを叩く音が聞こえる。
「こんばんわ」
俺が挨拶をするとハンマーの音が止まり、この店の店主と思われる高齢そうなドワーフの男性が俺の方を見る。
「人間?……あぁ、お前らが昼に騒がれてた勇者か」
「はい。正確には勇者はこっちの二人。俺はその勇者の弟であり親友です」
「ほぅ………」
ドワーフさんは一瞬姉さんと陽太を見ると、視線を俺に戻す。
「それで、その勇者の弟で親友のお前が何の用だ?」
威圧的に聞いてくるドワーフさんに俺は少し楽しくなってきて笑って答える。
「俺の目的はただ一つ、最高の魔道具を作りに来た」
俺の答えを聞いたドワーフさんは、笑みを浮かべながら俺を見た。
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