第81話 テニス部員VS鋼の精霊騎士


「じゃあ俺からいくぜ!」


 最初に選別を行うのはテニス部員の男子の内の一人。

 その男子部員は槍のスキルを持っているらしく槍を扱う中距離戦闘をするそうだ。


「では選別を始めましょう。……勝敗だけが合格の基準という訳では無いので、気負わず全力でぶつかってきてください」


 スチルさんは腰から剣を抜き、男子部員と一定の距離を取る。

 男子部員も槍を構え、互いに戦いの準備を行う。


「では、開始!」


 スチルさんの合図に合わせて、男子部員がスチルさんに向かって走り出し、そのままかなりの速度を乗せて槍を突き出す。


「やぁぁ!!」


 スチルさんは向かってくる槍を剣で捌く。

 攻撃を捌かれた男子部員はすぐに槍を手元に戻し、次は連続で突きを繰り出す。

 だがその攻撃もスチルさんは冷静に剣筋を見極め全てを捌き切る。


「むっ……」


 男子部員はこのままでは攻撃が通らないと判断し一度距離を取る。

 スチルさんはそれを止めることなく、逆に距離を取られたことをいいことに剣を鞘に納める。


「さて、少し趣向を変えましょうか。鋼の精霊よ」


 スチルさんが手をかがげるとその手に魔力が集い、一本の槍が現れる。スチルさんは槍を手に取り構える。そのままスチルさんは槍を扱い、男子部員と戦う。


「スチルさん強いな」


 俺はそんな戦闘を見ながら月奈に話しかける。


「そうですね。剣を扱う人なのかと思っていましたが、槍さばきもかなりの物です。アレを見ると他の武器も扱えそうですね」


 確かに。鋼の精霊と契約しているから様々な武器を出現させることが出来るだろう。それなら月奈の言う通り様々な武器を扱うことが出来るだろう。


 月奈と話している間にスチルさんと男子部員との選別は終わり、服のあちこちに砂がついている男子部員とそれとは反対に砂埃一つついていないスチルさんが握手を交わしている。


「それでは選別の結果ですが……」


 スチルさんが世界樹を見上げる。すると世界樹の葉が揺れ、落ちた一枚の葉っぱを男子生徒が手に取る。その葉を見た男子生徒は陽太たちがいる方に葉っぱを見せる。


「……ダメだった!」


 その葉には大きくバツが書かれていた。



 ____________


 その後も次々とテニス部員たちがスチルさんと戦ったが全員不合格。

 そしてテニス部員も陽太を除いて最後の一人、青羽さんの番になった。


「よろしくお願いします」


 青羽さんは丁寧に挨拶をし、弓を構える。青羽さんの持つスキルは弓だそうだ。

 スチルさんも剣を構え開始の合図を出す。


「よろしくお願いします。……では、開始!」


 最初に動いたのは青羽さん。青羽さんは弓を構え、矢を射る。

 スチルさんは向かってくる矢を剣を振るい弾く。


 青羽さんは少し驚いた表情をしたが、すぐに弓を構えなおし、さらに魔法の演唱を始める。


「……風よ吹け『ウィンド』」


 青羽さんは矢を放つと共に風魔法を発動させる。

 すると魔法で発生させた風により放った矢が様々な軌道を描いてスチルさんに襲い掛かる。


「なるほど、風魔法で矢の軌道を動かす。風を起こすだけなら魔力消費も抑えられる。いい工夫ですね」


 襲い掛かってくる矢を見ながらも余裕そうに青羽さんの工夫を褒める。


「鋼の精霊よ」


 スチルさんは手を前に伸ばすと手に魔力が収束し、盾が出現する。

 その盾を手に取り、剣と盾で向かってくる矢を防ぐ。


「これでも足りないの……風よ!」


 青羽さんは諦めずに魔法と弓でスチルさんに攻撃を仕掛ける。

 だがスチルさんも防いでばかりという訳ではなく、盾を前に出し青羽さんに向かって走る。


「このっ、……風よ!」


 防がれる矢を見ながら青羽さんはさらに矢を放つ。その矢もスチルさんの横や背後からなどかなりトリッキーな軌道を描いて飛ぶが、


「鋼の精霊よ」


 前面からの矢は盾で、横や背後からの攻撃は矢が当たる一瞬のみ空中に盾を出現させて防ぐ。

 それでも青羽さんは諦めず攻撃を続ける。


「青羽さん頑張ってるな。それにこれまでの人たちよりも戦い方が上手い」


「はい。青羽は昔から努力家でしたからね。きっとこの世界に来てからも頑張っていたんでしょう」


(まぁその頑張りの理由は日野さんの力になりたいから。なんでしょうね)


 俺たちが話している間にも青羽さんは攻撃を続けるが、すべて防がれかなりの距離まで近づかれている。

 そんな状況にも関わず、青羽さんは深呼吸をして弓を構えて演唱を行う。


「……風よその力を解き放て『ウィンドマルチアロー』」


 青羽さんは普通の矢と共に大量の魔法陣から風の魔法の矢を放つ。


「これは……」


 かなりの至近距離で大量の魔法陣に囲まれさすがに驚きの表情を見せる。


「いっけぇぇー!!」


 スチルさんは四方八方から放たれた弓を見て一呼吸。


「鋼の精霊よ我を守れ」


 スチルさんが呟くと共に、一瞬にしてスチルさんを囲むように巨大な壁が出現する。


「嘘っ、そんなのあり!?」


 全力の攻撃を防がれてしまった青羽さんはすぐに弓を構えなおすが、それより先にスチルさんが壁の中から抜けだし青羽さんに刃を向ける。


「終わりですね」


 青羽さんは手を上げて降参のポーズを取り、選別は終わった。


「では結果は……」


 世界樹の葉が揺れ、青羽さんの元に一枚の葉が落ちてくる。

 青羽さんはその葉を恐る恐る見ると、一瞬固まり、こちらに顔と葉を向ける。


「やったー!合格!」


 青羽さんは笑顔で丸が書かれた葉っぱを持ち陽太に駆け寄った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る