第80話 義姉兄妹と拳の勇者と精霊騎士

 俺たちがのんびりと話していると数時間ほどで目的地である森に着いた。


「ここが精霊の森。見た所普通の森だな」


 馬車から降りて森を見渡すが、精霊の森という名前の割には何もない普通の森だ。

 そんなことを思いながら待っていると、森の中から複数人の人影が近づいてくる。


「ようこそ勇者様方。お待ちしておりました」


 俺たちに歓迎の言葉を言う高齢な男性のエルフ。そしてそのエルフを守るように囲んでいる武装をした獣の耳やしっぽを持つ獣人。


 どうやらここが精霊の森であることは間違いなさそうだ。


「早速森に案内したいところですが、森の中にはあまり人族に慣れてない者もおります故、少人数だとありがたいのですが……」


 エルフさんの言葉を聞き、俺たちは顔を見合わせて話し合う。

 そして話し合いの結果、俺たちとテニス部員たちの勇者組だけ残し、騎士たちは馬車を持って一度王国に戻ることになった。神装を入手したらまた迎えに来てくれるとのことだ。


「では行きましょう。我々から離れますと森の中で迷うことになりますのでお気をつけて」


 俺たちはエルフさんと獣人騎士たちの後ろをついて行った。






 _______________



「ここが精霊の森なんだな」


「なんというか、予想通りの光景って感じだ」


 濃い霧の中を数分歩いて着いた精霊の森。

 綺麗な川が流れ、木でできた家や店が並び、エルフやドワーフ、獣人となどの亜人と呼ばれる種族が幸せそうに過ごしている。これは森というよりかは村、もしくは町と言ってもいいかもしれない。


 そんな精霊の森の光景だが、その中でも目を引くのは中心にそびえたつ巨大樹だろう。


「やはりあの樹が気になりますか?」


 俺たちの反応を見て、エルフさんが樹のことを説明してくれる。


「あの樹は「世界樹せかいじゅ」と呼ばれるものです。世界樹は精霊の森だけでなく、この世界全体の魔素を補っている物でもあります。そしてすべての精霊の生みの親であり、母でもあり、あの樹自体が巨大な精霊でもあります」


 巨大な精霊か。というよりもそもそも精霊ってのはなんなんだ?

 そんな俺の疑問はすぐに解消されることになる。


 様々な人たちに見られながら町の中を通り、エルフさんは俺たちを案内したのは世界樹の下だった。そこには先ほどのような人が暮らしていた雰囲気は無い。


 その場所には腰に剣を携え、鎧を身に着けた銀髪仏頂面のエルフの男性が立っている。


「勇者様私の役目はここまでです。あとはあちらに居る者が対応します。ご武運をお祈りしますよ」


 俺たちを案内してくれていたエルフさんはそう言いって来た道を帰って行った。

 そして残された俺たちに向かって仏頂面のエルフの男性が近づいてくる。


「初めまして勇者様方。自分は精霊騎士の一人、スチルと申します。」


 精霊騎士?という言葉に俺たちは首をかしげると、スチルさんは説明をしてくれる。


「まずは精霊の説明をしましょう。精霊は魔力とその精霊のつかさどる物で構成される存在です。精霊には様々な種類がおり、例えば炎の精霊や水の精霊、その名前はつかさどる物によって変わります。自分が契約している精霊は鋼の精霊です」


 スチルさんが手を上げるとその手に魔力が収束し、剣が現れる。


「この剣は鋼の精霊が姿を変えた物です。自分の契約している鋼の精霊はこのように鋼の武器に姿を変えて自分の力になってくれます」


 スチルさんが「戻れ」と言うと剣が光になって消えた。


「精霊騎士の役目は精霊と契約する者の選別です。精霊と契約をすると自分が持たない属性の魔法や、強力な魔法やスキルを扱うことが出来ます。そんな強力な精霊と契約するにふさわしいかを確かめる、選別をするのが精霊騎士の役目です」


 なるほど。精霊との契約、今後邪神と戦うにあたって強力な力になってくれる存在になるな。


 俺たちが精霊に関心を示していると、スチルさんが俺たちの目的である拳の神装の話をする。


「拳の神装があるのはこの世界樹の中、そして世界樹には精霊との契約を果たした者のみが入ることを許されます」


「それってつまり、精霊と契約しないと神装は入手できないってこと?」


「はい。そう言うことになりますね」


 姉さんの質問にスチルさんは頷く。


「ちなみに選別っていうのはどうやって?」


 次に聞いたのは陽太だ。陽太が精霊と契約できなければどのみち神装は入手できないのだから陽太にとって選別の方法は重要な物になるな。


「選別の方法は単純な実戦です。さて、誰から行いますか?」


 スチルさんの鋭い口調の言葉に、俺たちは身構えながら順番を話し合うことにした。

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