第79話 義姉兄妹と拳の勇者と精霊の森への道中


「さすがはトライド王国。昨日の今日でもう神装の場所を突き止めるとはな」


「あぁ、確か精霊の森だったよな。それに亜人。まさしく異世界ファンタジーって感じだ」


 朝食を終えた俺たちは馬車に乗り、拳の神装がある精霊の森に向かっている。

 精霊の森に向かうメンバーは俺、月奈、カグラ姉さん。そして陽太たちテニス部だ。


 これから俺たちが向かう精霊の森、そしてそこに住む亜人は通常人族との交流をしない者たちであり、自力で向かおうとしても森に漂う霧によって方向感覚を狂わされて偶然にもたどり着くことは出来ない。

 そんな精霊の森だが、どうやら過去に召喚された拳の勇者と交流があったらしく、その影響で今でもトライド王国を数少ない人族との交流国として友好関係を築いているらしい。


「ほんとに過去に召喚された拳の勇者様様だな。そのおかげで時間をかけずに神装がある場所まで向かえる」


「冷夜はその話ばっかりだな。よっぽど他の神装の入手が大変だったんだな」


「神装の入手というか、入手までの道のりが大変だったな。武闘大会に出たり、魔王軍幹部の悪魔と戦ったり………」


「お前本当に異世界来てから波乱万丈だな。……そういえば馬車、妹さんと別でよかったのか?」


 今更だが俺が乗っている馬車は俺と陽太、そして別の馬車に月奈と姉さん、青羽さん。そしてテニス部員が男女で分かれて一つずつの計四つの馬車で移動している。


「別にいいよ。女性陣だって自分たちの中で話したいこともあるだろうからな」


「………なんか、思ってた感じと違うな」


 陽太は口をポカンと開けて驚いたという表情で俺を見てくる。


「思ってた感じって?」


「いや、中学の時の行動とか妹自慢とか聞いてた限りだと「妹からは絶対に離れない!」みたいな感じなのかなと」


「なんだそれ。俺は別にそこまで過保護じゃないぞ」


「いや、十分過保護だろ」


 言うとすぐに突っ込まれた。

 俺としてはそこまで過保護だとは思っていないのだが。まぁそれでも確かに今まで鳥なら月奈と違う馬車に乗ろうとは思わなかっただろうな。それが変わったというのならそれは……。


「お前が思ってた俺と違うって言うのなら、それは姉さんのおかげだろうな」


「姉さんってことはカグラさんだよな。俺たちとは別の世界からこの世界に転移させれた人で、義理の姉弟。でもどうしてカグラさんのおかげなんだ?」


「確かに前までの俺なら月奈と別の馬車に乗るのはあり得なかった。何かあった時に月奈の隣に居られないなんて死んでも嫌だからな」


「お、おお。やっぱり過保護じゃねえか。それでそんなお前がどうして変わったんだ?」


「それが姉さんのおかげだな。姉さんが月奈の近くに居てくれれば、万が一は無いと信じてるからな」


「……気を悪くしてほしくは無いんだが、どうしてそこまでカグラさんを信じられるんだ?少し話しただけだが確かにカグラさんは良い人だと思うが、それでもどうして?」


 まぁ陽太の疑問も当然だろう。カグラ姉さんは出会って間もない義理の姉。なぜ姉さんを強く信じられるのか疑問に思うはずだ。


「姉さんは月奈と似てるんだ」


「似てるって、それは顔ではないよな?確かに二人とも整ってはいるけど」


「あぁ、二人とも自慢できるほどの美人だが違うな。似てるっていうのは、気持ち、心だ。月奈は過去に両親を亡くした。姉さんは母親の顔を見たことが無くて父親とはめったに話すことは無かったらしい」


「………」


 陽太は静かに俺の話を聞いてくれる。


「二人とも幼い頃に家族を失くしている。だから二人は誰よりも家族を欲していた。だから二人とも義理とはいえ手に入れた家族を、絆を大切にするし絶対に守る。俺はそう信じてる」


「……そうか。まぁ、なんというか。お前幸せになれよ」


「なんだよそれ」


 俺と陽太は森に着くまでたわいのない話をして時間を潰した。





 __________


(月奈視点)


 私と姉さん、そして青羽は精霊の森に着くまで同じ馬車で過ごすことになりました。


「月奈はお兄さんと同じ馬車じゃなくてよかったの?」


「突然ですね青羽。問題はありませんよ。兄さんも「女子だけで話したいこともあるよな」と言ってくれたので。それで青羽。話したことというのは何ですか?」


 私たちが青羽と同じ馬車に乗っているのは青羽から相談があると言われたからです。それも男性陣には聞かれたくないということで兄さんと違う馬車に乗っている訳です。


「あぁ、うん。それなんだけどさ……」


 青羽は中々言い出せないのか何度も言おうとしては口が閉じてを繰り返します。

 なんだか告白前の人みたいですが、まさか青羽……。


「実は私、好きなの!陽太先輩が」


「………」


 ……青羽。ちゃんと主語は前に持ってきましょう。さすがに驚きましたよ。


「そうなの!?そっかぁ~、確かに陽太君いい子だもんね。少ししか話したことは無いけど冷夜くんとのやり取りからいい子だっていうのは伝わる子だよ」


 姉さんはかなりテンション高めに青羽の言葉に頷いています。姉さんは意外とこういった話が好きなのでしょうか?


「そうなんですよ!先輩は優しくてテニスも上手くて、真面目に練習する姿がカッコよくて……」


 青羽がすごい勢いで「先輩すごいんだよ!」という先輩自慢を語り出します。さすがにこのまま語るのを聞いていると森についてしまう気がするので少し強引に話を戻しましょう。


「コホン。青羽が日野さんが好きなのは十分に伝わったよ。それで、青羽は私たちに日野さんの何を相談したいの?」


 青羽は私の言葉に正気を取り戻し、話し始めます。


「えっと、実は私、精霊の森で陽太先輩に告白しようと思ってるの!」


 なるほど。確かに王様の話では精霊の森はかなりの絶景らしいですし、探せば告白にぴったりな場所も見つかりやすい場所なのかもしれません。


「それで月奈とカグラさんには、その告白に関してアドバイスをしていただきたく……」


「それは別に構いませんが、私告白された経験は会っても告白をしたことは無いですよ?」


 姉さんの方を向くと、姉さんもそういった経験は無いと首を横に振る。


「大丈夫。月奈なら大丈夫。月奈なら分かってくれると思うから」


 なんだかすごく私なら大丈夫を押してきますね。ですが本当に私は告白なんて考えたことないのですが……。


「安心して青羽ちゃん。私も月奈ちゃんも頑張るから。絶対に告白成功させようね!ね、月奈ちゃん」


「はぁ~。ちゃんとしたアドバイスが出来るかは分かりませんよ?出来る限りの協力はしますけど」


「月奈、カグラさん……!よろしくお願いします!」


 私たちは精霊の森に着くまで、青羽の告白大作戦を考えるのでした。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る