第76話 義兄妹の過去②
俺と陽太の出会いは中学の時。
中学に入り月奈と学校が分かれた俺は、普段は月奈のことを考えながら過ごし、学校が終わったら誰よりも早く家に、小学校が終わるより早く帰れた時は小学校まで月奈を迎えに行った。
そんな生活をしていたある時、陽太が俺に話かけてきたのだ。
「なぁ、星空。お前いつも早く帰ってるけど何やってるんだ?」
休み時間中にいきなり話かけてきた陽太に、俺は内心「なんだこいつ、怖っ!」と引いていた。
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「え?あの時お前引いての!?あんなにフレンドリーに話してたのに?」
「お前それ記憶違いだぞ。あの時は……」
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「え?何って別に、妹と遊んでるだけだけど」
「へぇ~。妹いるんだな。何歳なんだ?」
「十一、今年で十二だが……。ところで、お前誰?」
「え、同じクラスになってもう一カ月くらいなのに覚えてないのか?」
「覚えてない。お前も、他のクラスの奴も」
俺の言葉に、陽太はため息をつく。
「よし、じゃあ今覚えろよ。俺は日野陽太。部活はテニス部に入ってる。よろしくな!」
「あぁ、よろしく」
それ以来俺は中学に行っている間は陽太と過ごすようになり、俺の唯一の友達、親友となったのだ。
_________
「こんな感じだな」
「今思うと、冷夜って会ってからずっと妹の話してるよな」
「そうか?」
「そうだろ。それに修学旅行を妹が心配だからって休んでたしな」
「いや、それは月奈が熱を出してたから」
「じゃあ熱を出してなかったら休んでなかったのか?」
「……どうだろうな」
「そこではっきり否定しないのが答えだよ!」
俺と陽太がそんなやり取りを、姉さんは楽しそうに聞いている。
「なんか、昔の冷夜くんも冷夜くんって感じだね」
とりあえず俺と陽太の話は終わりだ。次は、
「次は私と青羽ですね」
「うん。私はたちの出会いも中学の頃だったよね」
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(月奈視点)
中学では小学校のころほど兄さんと学校内で会うことの出来る時間も少なく、基本的には教室内で読書や勉強をして過ごし、放課後になればすぐに兄さんと共に帰宅する生活でした。
そんな私と青羽が会話をしたのは最初の席替えで青羽が私の前の席になった時でした。
「星空さん。これテニス部の男子から。渡してほしいって」
私は青羽から手紙を受け取りました。
その手紙は、端的に言えばラブレター。私は中学に入ってからそう言った物を受け取る機会が多くなっていました。
「ありがとう。……はぁ、まただ。ごめんね上空さん。こんなことさせて」
「気にしないで。それにしても星空さんってモテるんだね」
「モテるかどうかは分からないけど、こういう手紙はたまに貰うんだよね。誰とも付き合う気はないのに」
私がため息をつくと、青羽は苦笑いをする。
「星空さん、もしかして彼氏がいるとか?それなら私からそういう人は出来るだけ断っておくけど」
「ううん。彼氏はいないよ。それに上空さんに迷惑かけるわけにはいかないから」
「そっか。でも困ったことがあったら言ってね」
___________
(青羽視点)
その放課後、部活も休みでやることも無かったので、私は告白がどうなったか興味本位で体育館裏に見に行った。
もう男子はいる。あとは星空さんだけど、今ちょうど来た。
男子はしばらく下を向いていたが、意を決して告白をする。
「星空さん。僕と付き合ってください!」
お、言った!さて、星空さんの返事は?
「ごめんなさい」
一言。告白を断るその一言を明確に、はっきりと伝えた。
分かってはいたことだと思うけど、男子はかなり落ち込んでいる。
まぁ仕方ないよね、どんまい男子!
そう思いながら帰ろうとした瞬間、
「あの!友達からでもいいので、お願いします!」
男子が立ち上がった。
振られたのにそれ言える度胸すごいな。でもその言葉は振った側が気まずくならないように言う言葉だと思うな。
まさかの友達から宣言で、星空さんは一瞬固まっていたが、すぐに頭を下げて「ごめんなさい」と断る。
うん。そりゃあ断られるに決まってるよね。
けど男子もここまで来ると引き下がれないらしい。
「そんな……。それなら、パシリでも、召使でも、奴隷でも、なんでもいいので、どうか、隣に居させてください!」
うわぁ、気持ち悪。
あそこまで必死だと、すごいを通り越して気持ち悪いよ。それになんでもいいの中に変なの混じってたし。
実際に言われた本人である星空さんは、気持ち悪さからか、驚きからなのか、固まったまま動かなくなってしまう。
しばらく固まっていたが、星空さんはなんとか意識を取り戻して素早く頭を下げる。
「ごめんなさい。私はあなたとどんな関係にもなるつもりはありません。私は用事があるのでこれで……」
星空さんははっきりとした断りの言葉を伝えると、すぐにその場から逃げようと男子に背を向ける。
だけどそれで諦めるなら振られたときに諦めている。
男子は、立ち去ろうとする星空さんに向かって手を伸ばす。
これはさすがに止めないと!
私は隠れて見ていたことを忘れ、星空さんの元に走る。けど私が居た場所からでは男子の手を止めることは出来ない。
男子の手が星空さんの肩に触れようとする。けどその瞬間、
「遅いから何かあったのかと思ったら、俺の妹に何か用か?」
突然現れた男子生徒が、星空さんに向かって伸ばしていた男子の手を掴む。
あれは、確か二年生の教室で見たことがあるから先輩かな。それと今妹って。
「兄さん。ごめんなさい。約束の時間過ぎてますね」
星空さんが先輩に向かって謝る。
どうやらあの先輩は星空さんのお兄さんらしい。
「気にしなくていい。ただ、前からこういうのは俺を頼ってくれって言ってるだろ?」
先輩は男子を掴む手を強める。男子がだんだんと痛そうな顔をしていく。
お兄さんなかなか容赦ないな。
「すみません。兄さんに迷惑をかけたくなくて」
「あのな月奈。妹は兄に迷惑をかけるもの。そして兄は妹の迷惑を喜んで引き受けるものなんだよ。それにお前に何かあった方が俺は辛いんだ、だからどんどん迷惑をかけてくれ」
「兄さん……。分かりました。これからはたくさん頼らせてもらいますね!」
「おう。そうしてくれ」
そんな兄妹というよりかは恋人同士の雰囲気を醸し出す二人。完全に男子は蚊帳のそとだ。
「ちょっ、もう離せよ!」
さすがに男子が悲鳴を上げる。そんな悲鳴でようやく先輩は男子の手を掴んでいたことを思い出したのか、望みどおりに手を離す。
「はぁっ、はぁっ。な、なんなんだよあんた!俺は星空さんと話してたんだぞ!」
いや、全然会話になってなかったけど!?と私は内心ツッコミを入れる。
「そうなのか月奈?」
「いえ、会話らしい会話は少しも。ただ交際を申し込まれたので断っただけです」
星空さんも私と同じ考えらしく、お兄さんに向かって首を横に振る。
「だ、そうだが?」
「それは……星空さんが照れて否定してるだけだ!」
いや、その言い訳は苦しすぎるでしょ。
「ほう。それはつまり、月奈が嘘をついていると?」
「ひっ!いや、そういうわけじゃ……」
お兄さんは、数トーン下げた声で男子に問いかける。
位置が離れてる私でも、お兄さんの雰囲気が怖い物に変わったのは分かる。それを直接受けた男子は声が震えている。
そんな雰囲気を出していたお兄さんだが、一度男子から離れると何故か私がいる方向を向く。ちなみにお兄さんが来てから私は再びお兄さんたちからは見えない位置に戻っている。
「まぁいい。月奈が正しいに決まっているが、俺は別に見たわけじゃないからな。だから、見ていた第三者に聞こう。そこの女子、聞きたいことがあるんだが」
それは、多分というか絶対私に聞いてるよね。まぁこの状況は私にも責任があるし、……行こう!
「えぇっと、何でしょうか?」
私が出ていくと、星空さんが驚いたように私を見る。そんな星空さんに向けて、私は小さく手を振る。
「聞きたいんだが、君は二人が話してたのを見てたか?」
そう聞いてくるお兄さんの雰囲気は、普通のどこにでもいる男子中学生という感じだ。先ほどまでの人を殺せそうな雰囲気は纏っていない。
「えぇっと話していたというか、そこの男子が星空さんにしつこく迫ってたのは見てましたごめんなさい!」
つい罪悪感に負けて謝ってしまった。
「いや、謝る必要はないんだけど。……ま、そういうことだ。これでどっちが悪いか明確になったよな?」
お兄さんは私に苦笑いしながら男子の方向を向くと、一瞬で先ほどの人を殺せそうな雰囲気を纏う。
「は、はいっ!すみませんでした!」
男子は体を頭が地面に着くほどまでに下げ、謝罪する。
そんな男子にお兄さんは雰囲気を纏ったまま笑顔で男子の肩をかるくたたき、男子の耳元で何かをささやく。
「うんうん、分かればいいんだよ。……じゃあ金輪際俺の妹に近づくなよ。次妹に関わろうしたら、分かるな?」
「ひぃっ!す、すみませんでしたー!」
男子は大声で謝罪の言葉を叫びながら、すごい速さでその場を立ち去る。
お兄さんが何を言ったかは聞こえなかったけど、多分殺すとか言われたんだろうなー。さて、私も帰ろう。
そう思い私は校門に向けて歩く。
ちゃんと星空さん謝らないとなぁと思っていたが、なんだかお兄さんと甘々な雰囲気を出していたので明日にすることにした。
________
翌日、私は星空さんの席に向かった。
「おはよう星空さん」
「上空さん、おはよう」
星空さんは昨日あったことを気にしていないように挨拶を返してくれる。
「あのね星空さん。昨日は、ごめんなさい」
私が謝ると、星空さんは「なんのこと?」と聞き返してくる。
「いや、昨日のことなんだけど。一応私が手紙を星空さんに渡したわけだし、それにずっと見てたし……」
話していると罪悪感で声がだんだん小さくなってしまう。
けど星空さんはそんな私に対して「あぁそのこと」と特に気にした様子はない。
「別に気にしてないよ。そもそも上空さんが悪いわけじゃないからね。それに兄さんから聞いたけど、あの男子が私に触ろうとした時に止めようとしてくれたんだよね。むしろ私としてはありがとうって言いたいよ」
お、おお。お兄さん。あなたいい人だ。てっきり人殺しシスコン先輩かと思っていたことを謝罪します。
お兄さんが説明してくれていたおかげで、私は星空さんに感謝までされてしまった。
「そういえばさ、そのお兄さん。すごかったよね。なんというか、雰囲気が」
私がお兄さんの話を出すと、星空さんの顔色が変わった。
「うん。そうなの、兄さんいつも私を守ろうとしてくれてね、」
おや?星空さんの顔がこれまでに見たことないほど生き生きとしているぞ?
これは、兄だけじゃなくて妹もブラコンな奴だったか。
その後私は永遠と星空さんの「私の兄さんすごいんだよ」の話を聞き続けた。
正直話の内容はあまり覚えていないが、それをきっかけに私は星空さんを月奈と呼び、大切な親友になったのだ。
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