第77話  義兄と拳の勇者


(冷夜視点)


「私と月奈の出会いはこんな感じでしたね」


 なるほど。月奈に友達の話とかは聞いたことなかったが、まさかこんな出会いとはな。


「俺と青羽さんって会ったことあったんだな。全然気づかなかったよ」


「直接会ったのはその時くらいですからね、仕方ないですよ」


 俺たちはそうして昔の話に花を咲かせ、姉さんはそんな俺たちの話を楽しそうに聞く。そんな時間を過ごす中、俺たちは本題に入ることにした。


「さて本題なんだが、王様との話を聞いてた通り、俺たちがこの国に来たのは神装を手に入れる手伝いするためだ。それで、当の勇者は誰なんだ?」


 俺が聞くと陽太と青羽さんは顔を見合わせて、陽太が一歩前に出てくる。


「俺だよ」


「……は?」


 俺はいきなりの陽太の言葉に思わずそんな声がでる。


「だから、俺が拳の勇者なんだよ!」


「そうかお前が勇者か……」


 確かに陽太は俺みたいなやつとも仲良くしてくれてるし、運動も出来る。ただ、


「なんで拳なんだ?」


「それは俺が聞きたいよ!どうせならテニスの勇者とかの方がよかったんだけどな」


 陽太はため息をつきながら言う。


「いや、テニスの勇者はそれはそれで嫌だろ。まぁ勇者がお前ならやりやすいからいいんだけどな」


 その後も俺たちは前の世界に居た時のように空が暗くなるまで話をしたり遊んだりした。



 ________


 俺たちは王城にある部屋を二室借り、月奈と姉さんで一室俺で一室使わせてもらうことになった。

 二人は一緒の部屋でいいと言ってくれたが、俺は少し用事があるからと言って納得してもらった。


 そしてその夜、俺は部屋魔道具をいじっていると、扉がノックされる。俺はそのノックを疑問に思うことなく扉を開ける。


「よ、来たぞ冷夜」


「あぁ、いらっしゃい陽太。入っていいぞ」


 陽太は「おじゃまします」と言いながら部屋に入る。そして陽太は部屋に入るなり机の上に並べた魔道具を興味深そうに見ている。


「どれも見たことない魔道具だな。触っていいか?」


 トライド王国に転移しただけあって魔道具の知識はあるらしいが、俺が机に並べているのは新しい魔道具を作るための材料なので目新しいのだろう。


「いいけど、使おうとはするなよ。……最悪この部屋が消し飛ぶからな」


「え………」


 俺の言葉に陽太は一度魔道具を見ると「やっぱりやめとく」と魔道具に刺激を与えないようにゆっくりとテーブルから離れる。

 そして陽太は椅子に座ると、俺は話をきりだすことにした。


「それでなんの用なんだ?話なら昼でも良かっただろうに」


 俺がわざわざ月奈や姉さんと部屋を分けたのは陽太から夜に二人で話をしたいと言われていたからだ。ちなみに昼に勇者や神装、神や魔王などの話もし終えている。


「まぁそうなんだけどな、………中学の頃にさ、異世界に行ったらどうするかみたいな話したことあっただろ?」


 懐かしい話を出してきたな。中学の頃、俺は陽太からアニメや漫画の話を聞き、そこで陽太ともし異世界に行ったらどうするか、って話し合ったんだよな。


「冷夜はその時「異世界に行っても妹が一緒に居なければ死んでも帰る」って言ってたよな」


「そうだったな、今も月奈が一緒に居なかったらここじゃなくて意地でも帰ろうとしてただろうな」


「お前、昔から思ってたけどかなりのシスコンだよな」


 シスコンって、確かに否定は出来ないが……。


「それじゃあさ、俺がその時なんて答えたか覚えているか?」


 陽太がなんて答えたか、か。正直覚えていないな……陽太は良いやつだが誰もを救いたいと考えるわけじゃない。もちろん世界征服をたくらむわけでもなく、よくアニメや漫画であるチート無双やハーレムを望んでいたわけでもなかったはずだ。


 俺が考えていると、陽太はタイムアップだと言う。


「時間切れだ。ひどいなぁ親友。覚えておいてくれよ」


「悪いな。思い出そうとしてもどうにも思いつかなくてな」


「ったく仕方ないな。答えは、「異世界で旅をしたい」だ」


 言われてみれば、そんなことを言っていた。確かその時は「異世界の景色を見たり食事をしたいな。それと冷夜と一緒に転移したら俺は旅を楽しむ、お前は帰る方法を探すために旅をする。ウィンウィンな関係だろ?」とも言っていたな。


「そうだったな。それでなんだ、王城から抜け出して旅をしたいから手伝えとでも言いたいのか?」


「違う違う!お前の話を聞いて旅をしてる場合じゃないって思ってるし、旅はそういう面倒事が終わってからの楽しみにしておくつもりだ」


 俺は首を横に振って否定する陽太の言葉に納得しながら、ならなんの話をしに来たんだと聞く。


「正直に言うとな、別になにか特別な用事があったわけじゃないんだ」


「……どういうことだ?」


 俺が聞き返すと、陽太はため息をつきながら答える。


「ようするにさ、久々に会えた親友と楽しく夜ふかししたいってわけだ。お前修学旅行に来なかったからこういうのやったことなかったしな」


「なんだよそれ。……仕方ないな、分かった。とことん付き合ってやるよ」


 その晩は陽太と二人で前の世界での話や俺がこの世界に来てからしてきた旅の話、そして魔道具の話などをし、夜を明かした。

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