第73話 義姉兄妹の王都観光


「明日まで時間が出来ましたし、どうしましょう?」


 冒険者ギルドから出た俺たちは空いた時間をどう潰そうかと悩んでいた。


「昨日までは馬車の旅だったし、早ければ明日からも忙しくなりそうだから今日はゆっくり観光でもするか?」


「そうですね。何よりも、姉さんがいますぐ観光したいって感じですし」


 俺たちは、少し離れて街を興味津々に見ている。


「フィート、フク。アレなんだろうね?あ、あっちは美味しそう!」


 姉さんは勇者のスキルにより、体を小さくしているフィートとフクを肩に乗せ、二匹も姉さんの言葉に反応してミャ―やピローなど声を出している。


「じゃあまずは腹ごしらえと行くか」


 目を輝かせる姉さんを連れて、俺たちは歩き始めた。



 _____________


「う~ん!おいしい~!」


 姉さんは片手にクレープとアイスを持ち、幸せそうな顔をして食べている。


「ほんとにおいしいですね。それになんだか懐かしいです」


 月奈はその手にポップコーンを持って口に運んでいる。やはりこちらも幸せそうだ。


「上手そうに食っているのはいいんだが、スイーツばっかりだな」


 月奈と姉さんがこれまでに食ったのはチュロスにワッフル、饅頭、クレープ、アイス、ポップコーンと数多くのスイーツ。


「そういう兄さんも食べてるじゃないですか。そのお餅何個目ですか?」


 月奈のジト目が俺が大量に持っている餅に突き刺さる。ちなみに味はすべてきな粉だ。


「仕方ないだろ。餅食べるの久々だし、すごく美味いんだから。ほらあーん」


「あーん。……うん。すごく美味しいですね」


「あ、お姉ちゃんも食べたい!冷夜くんあーん」


「はいはい。あーん」


 俺は月奈と同じように姉さんの口にも餅を運ぶ。


「うん、ん。……ほんとだ、すっごく美味しい!」


 姉さんはもう一個とねだってくるので俺は再び姉さんの口に餅を運ぶ。


「……ごちそうさまでした。お腹いっぱいになったし、次はどこに行こうか?」


 キラキラと目を輝かせる姉さんに、俺と月奈は「どこへでもついて行きますよ」と笑って返した。




 ______________


 その後俺たちは勇者が作ったといわれた魔道具が展示されている魔道具館や魔道具屋に行き面白そうな物を買い。

 多くの国の食材が集まる市場で俺や姉さんのリクエストを聞きながら目を輝かせ月奈が大量の食材を買い。


 そうして買い物を楽しみ日が落ちたところで夕食をすませた俺たちは、ギルドから紹介された豪華そうな宿をギルド価格にお得に泊まれることになった。


「たのしかったー!」


 姉さんは部屋につくなり、ベットにダイブする。そして一人きりゴロゴロとベットを堪能して起き上がる。


「二人ともありがとね。私に付き合ってくれて」


「いいんですよ姉さん。私も楽しかったですから。ですがさすがに食材を買い過ぎてしまったかもしれませんね」


「ふふふ、月奈ちゃん珍しくテンション高かったもんね。でも二人が持ってる腕輪なら食材がダメになったりはしないんだよね?」


「はい。これのおかげで持ち運びを考えなくていいのでつい買い過ぎてしまったんですよね」


 二人は笑いながら仲良く談笑している。

 そんな中俺は部屋にあった椅子に座り今日買った魔道具やその素材を机に並べる。


「ところで冷夜くんはなにやってるの?」


 姉さんはベットから降りて机の上を覗く。


「今日買った物の整理。姉さんも気になった物があれば触っていいよ」


 俺は魔道具の素材になりそうな物から、おもちゃのような魔道具の詰め合わせなど多くの物を買った。

 その中から姉さんは一つの魔道具を手に取る。


「これはどういう物なの?」


 姉さんが手に取って見せてくるのは箒に乗った魔女のフィギュア。


「えぇっとそれはこれと、これを使って遊ぶというか見るものですね」


 俺はフィギュアのほかに塔のような台座、その台座とフィギュアを繋げる棒のようなパーツを手に取り、組み立てる。


 そして完成した物に魔力を流す。


「おぉ、魔女が塔の周りを飛びながら回り出したよ!」


 フィギュアは流した魔力が切れるまで塔の周り飛び回り、魔力量が減ると徐々に降下していく。

 そして完全に動かなくなると姉さんは魔力を流して再びフィギュアが飛び回る。


「兄さん。あれはどういう原理で動いてるんですか?」


「あれは塔の中に風の魔石の欠片が入っててそこに魔力を流すことで、風魔法によって飛び回ってるかんじだな」


 この風魔法は戦闘などに使うには弱すぎるが、こうしたおもちゃとしてなら小さな魔石の欠片で十分な魔法になっている。


 魔石は貴重な物だが、おそらく強力な魔道具を作るにあたって発生した使わない小さな魔石の欠片をこうしたおもちゃの部品として再利用してるのだろう。


「風魔法で物を移動させるという使い方をこうしたおもちゃに使う発想は、多くの人が集まり多くの魔道具を作成した勇者がいたこの王都だからこそ生まれた物なんだろうな」


 俺は飛び回るフィギュアに夢中な姉さんとそんな姉さんと一緒に楽しむ月奈を横に、魔道具の整理を続ける。


「さてと、他に面白そうな物は……あ!」


「どうしたの冷夜くん?」


 俺の声に反応し、姉さんがフィギュアから目を離してこちらを見る。


「いや、面白そうなものを見つけたので」


 俺は馬車のミニカーを手に取って見せる。


「それは小さい馬車?」


 俺は姉さんに頷き、月奈の方を向く。


「月奈、ちょっと作ってほしい物があるんだが」


 月奈は首をかしげながらも、俺が作ってほしいものを伝えるとすぐに納得して魔法を発動させる。


「出来ました!これでいいですか?」


「あぁ、ありがとう。さて、じゃあここに馬車を置いて」


 俺は月奈が土魔法によって作ってくれた小さな馬車サイズのサーキットだ。

 そこに馬車を置き、魔力を流す。すると馬車のタイヤが回り出す。


「いくぞ。3、2、1、ゴー!」


 俺が手を離すと、馬車が高速で走り出す。

 そうして馬車はすぐにサーキットを一周し、そして速度を落とすことなく二周目に突入する。


「すごい!なにこれ、すっごく速いね!」


 俺はキラキラとした目で走る馬車を見る姉さんを見て、一度馬車を手に取る。


「あれ?もう終わり?」


「いえ。もっと面白いのを見せますよ!」


 俺は馬車を裏返し、裏にあるスイッチを入れる。


「これでさらに速くなりますよ」


 俺は魔力を込めて再び馬車をサーキットに乗せる。

 そして再び馬車は走り出す。だがこれまでと違い、馬車はどんどん加速していき、ついには、


「わっ!?火が出てるよ!」


 馬車の後ろから炎がでて、さらなる加速をする。

 そして何周、何十週もして魔力が尽き、馬車が止まる。


「な、な、何今のー!すごい!すごかった!」


 姉さんは完全に興味が馬車に移り、自分の魔力を込めて走らせている。


「なんというか、姉さん完全にはまってますね」


「あぁ、姉さんは小さいころにこういうおもちゃで遊べてなかったらしいからな。そんな時間を今楽しんでるんだろ」


 ちなみにあの馬車の仕組みは、魔女のフィギュアと同じく魔石の欠片を使用して走らせていた物だ。

 ただこの馬車はフィギュアと違い、風の魔石に加えて炎の魔石も使われている。そんな二つの魔石、さらに欠片のなかでも純度が高い物を使っているらしくかなりの速度が出せるようになっている。


「冷夜くん月奈ちゃん、ほかにもいろんな物があるんでしょ?もっと遊ぼうよ!」


 俺と月奈は無邪気に笑う姉さんに笑いながら返事を返し、寝落ちするまで遊びつくしたのであった。

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