第63話 義姉兄妹VS奴隷の国


 俺たちは城に向かう。

 その道中で何人もの奴隷を見かけそのたびに冒険者ギルドに向かうように言いながら、剣や魔石などの確認や装備をしておく。


「ほんとに、何が起こってるんだろうな?」


「なんでしょうね?でも王城から嫌な魔力を感じるのは確かです」


 俺の腕の中で月奈が言う。

 いつもの通りというか、移動方は俺の身体強化とブーツを使い、月奈をお姫様抱っこで走っている。


「さて、城に着いたが。大人しく入れてくれるか……」


 俺は城の前で月奈を降ろし、城を見上げる。


「確かに何かしらの妨害があると考えるのが当然ですが、」


 俺たちがしばらく城の前で立ち止まっていると、ひとりでに扉が開く。


「これは、罠か?」


「だと思います。ですが……」


 俺と月奈は顔を見合わせ頷く。


「姉さんと、ついでに国を救うために」


「いきましょう!」


 俺たちは城の中へ足を運んだ。


 城の中は特に変わった様子はない。

 だがどこか異様な雰囲気を感じ取ることが出来る。


「なんか、すごく嫌な感じですね」


 月奈も同じように感じているらしい。


「いやな感覚の原因を突き止めないといけないが、それよりもまずは姉さんを探さないとな」


 俺は『気配感知』と『魔力感知』を使い集中して姉さんを探す。


「……あれ?結構近いぞ。というよりも」


 俺が二つのスキルの発動を止め、後ろを振り向こうとした瞬間、


「わっ!」


「っ!?」


 後ろからいきなり大きな声を出される。

 その声に月奈は驚き俺の腕に抱き着く。

 俺はそんな月奈をなだめながら落ち着いて、声のした方を向く。


「姉さん。心臓に悪いのでやめてくださいよ」


「ごめん、ごめん。二人がなんか怖い顔してたからつい、ね」


 姉さんはごめんねと言いながらいたずらに成功した子供のような顔をする。

 そんな姉さんと共にミャッという声をだすフィート。


 そんな姉さんたちを見え俺と月奈はその怖い顔というの解き、思わず笑ってしまい、姉さんもそんな俺たちを見て笑みを浮かべる。

 俺たちの間でそんなほのぼのとした空気が流れる。


「さて、笑うのもこれくらいにして。姉さんはどうしてここに?王様に呼ばれていましたよね?」


「うん。でもなんかここすごく嫌な感じするでしょ?その感じが王様の部屋のほうに行くにつれてすごく強くなってね、だから二人が来るまで待ってたんだ」


 姉さんも感じているということはやはり王様が怪しいとみて間違いはなさそうだ。

 俺たちは姉さんの言葉に頷き、いまこの国で何が起こっているかを伝える。


「なるほど。姉さん、実は今………」


 姉さんは奴隷たちが苦しんでいるということと、王が怪しいということを伝えると悲しそうな顔と、怒ったような顔をする。


「そっか。奴隷の子たちが。分かった。王様のところに行こう!」


「「はい!」」


「ミャ―!」


 俺たちと月奈と姉さんそしてフィートは共に王がいるであろう城の上階に向かう。

 長い階段を上り、それでも誰とも会わないことを不気味に思っていると、


「そんなに急いでどうなさったんですか?みなさま」


 俺たちが階段を登りきった瞬間、そんな声をかけられる。

 その声のしたほうを見れば、金色の髪を持つメイド服を着た女性、カグラのメイドであるメイティア、メイがそこにいた。







 ___________________



「メイさん……。どうしたの、こんなところで?」


 そう聞いたのは姉さん。

 だがその声は震え、期待と不安が混ざったような表情をしている。


「どうしても何も、私はこの城のメイドですよ?ここに居るのは当然です」


 メイさんはいつもと変わらないトーンの声で姉さんに笑いかける。

 そんなメイさんを見てほっとする姉さん。


「カグラさま。王がお呼びです。こちらに」


「うん。行こう冷夜くん月奈ちゃん」


 俺たちは姉さんを先頭にメイさんのもとへ歩く。

 だが、


「申し訳ありませんが。ここから先に行けるのはカグラ様だけです。お二人にはご遠慮願います!」


 メイさんはそんな言葉を吐くと共に両手に短剣を持って月奈に襲い掛かる。


「月奈ちゃんっ!」


 姉さんは叫んで鞭に手をかけるがすでにメイさんは姉さんを通り過ぎている。

 そしてメイさんの短剣は振るわれ、

 ガキンッという金属同士が衝突した音が響く。


「……さすが、気づいていましたか」


「冷夜くん!」


 音の正体はメイさんの短剣と俺の剣。

 俺は月奈の前に立ちメイさんの短剣を防いでいる。


「ありがとうございます。兄さん」


「あぁどういたしまして。だがもう少し避ける動きをしてくれよ」


「大丈夫です。兄さんが守ってくれるってわかってたので」


 そんな月奈に俺は信じられているという喜びと、もう少し危機感を持ってほしいという呆れを心に浮かべメイさんの短剣を弾く。


「……メイさん。どうして!」


 俺に短剣を弾かれ距離をとったメイさんに姉さんは叫ぶ。

 そんな姉さんに向かってメイさんは目を伏せながら諦めたような声をだす。


「仕方がないんです。だれも王には逆らえない。ですので大人しく従ってください」


「メイさん……」


 姉さんは短剣を構えるメイさんを見て、もう戦うしかないのかと鞭に手を触れる。

 だが、


「姉さん。姉さんは戦いたくありませんか?」


 そう聞いたのは姉さんの隣まで歩いた月奈。


「月奈ちゃん……。うん、戦いたくないよ」


 姉さんはうつむきながらつぶやくように言う。


「分かりました。兄さん、やりましょう」


「あぁ。メイさん、俺たちがあなたを救いますよ」


 俺と月奈は姉さんの前に立ち、メイさんを見る。

 メイさんも、伏せた目を上げ悲しそうな目で俺たちを見る。


 そんな視線の交差が続き、メイさんが先に動く。

 それに合わせ俺も動き、メイさんの短剣を剣で受け止める。


「月奈!」


 俺の言葉で月奈は魔眼を発動させ、メイさんの周りに多くの魔法陣が展開される。

 メイさんは魔法陣を見てすぐにその場から移動、さらに数本のナイフを投げてくる。


 だが俺はそのナイフを避けることをせず、自らナイフに向かって行く。

 さすがにこの行動にはメイさんも驚いたように目を開いていた。

 もちろん俺がそのまま馬鹿正直に突っ込むわけない。


「『ウィンド』」


 俺はナイフに向かって手を向け、右の手袋に込めていた魔力を使い風魔法でナイフの軌道をそらす。

 さらに次は『思考加速』とブーツに魔力を込め、メイさんに向かって迫る。


「すみません。メイさん!」


「っ!?」


 俺は剣でメイさんの短剣を弾き飛ばし、そのまま俺も剣を捨てて左手でメイさんの腕を掴む。そのまま手袋に魔力を流す。


「っ、あぁぁあ!!?」


 俺の左手の手袋は雷魔法を付与している。

 一応やり過ぎないように威力を抑えたので、気絶はしていないがしばらくは身体を動かしづらくはなったと思う。


「すみません。少し手荒になりました」


「うっ、さすがに強いですね。それで私をどうするつもりですか?」


 メイさんは大人しく負けを認め無理に体を動かそうとはしない。


「どうするも何も、さっきも言った通り救うんです。月奈どうだ?」


 俺はメイさんを魔眼で見る月奈に声をかける。

 月奈はしばらく見ていると首を縦に振る。


「思った通りです。メイさんには奴隷紋が付けられています」


 その月奈言葉に、姉さんは絶句しメイさんは諦めたように笑い出す。


「さすがは月奈様。これでも最高級の奴隷紋で並大抵のスキルなどでは見破れないのですけどね」


 さすがにエクストラスキルを欺くことは出来ないらしい。

 月奈はメイさんに近づき、奴隷紋があるであろう後ろの首筋に手を当てる。


「月奈様何を、っ!」


 メイさんは奴隷紋を触られると苦しそうにうなり出し、奴隷紋が浮き上がってくる。


「やっぱりメイさんも他の奴隷の子と同じように魔力を吸われていますね。兄さんどうですか?」


 俺はメイさんの奴隷紋を見る。

 だがやはり奴隷の首輪同様壊すというか消すのは難しそうだ。


「冷夜くん。どうにかなるの?」


 絶句していた姉さんがメイさんの元に近づいて聞いてくる。

 さすがに姉さんの悲しそうな顔を見るとどうにもならないとは言えないな。


「消すのは厳しいですが、効果を弱めるくらいはできると思います。ちょっと待っていてください」


 俺は指輪から聖白花と魔石を取り出し作業を開始する。


 俺が作業を開始すると、姉さんはメイさんの手を握って話しかける。


「メイさん大丈夫?」


「……見ての通りです。指一本動かせません」


 メイさんは地面に寝そべったまま動きませんよと体を動かそうとして諦める。


「冷夜くん。なかなか容赦なかったよね」


 いや確かに少しやりすぎかもしれないがあまり直接的に言わないでほしい。


「はい。あとナイフに向かって走った時は驚きました。さすがカグラ様の義弟だなと思いましたよ」


「うん、うん。そうでしょう。自慢の義弟だよ」


 姉さん、それ多分褒められてませんよ。


「いえ別に褒めて褒めていませんよ?それに月奈様には奴隷紋のことを見破られてしまいました。これはカグラ様では知りえなかったことですからね。いい義妹を持ちましたね」


「うん。すごくいい子だよ」


 姉さんはいい子いい子と月奈を撫でる。

 だが姉さん、多分ナチュラルにディスられてますよ。


「カグラ様。私は多くの嘘をあなたについてきました。正直このまま殺されてもしかたないと思っています」


 姉さんは月奈から手を離し、メイさんにどんな嘘をついたの?と聞く。


「そうですねぇ。いろいろありますよ。例えばみなさんで行った遺跡や神装があると可能性があると言った場所。あれらは神装が無いと分かっていながらみなさんに行かせていました」


 俺たちは黙って続きを聞く。


「カグラ様の定期的な能力調査は本当はその魔力を悪用するためにしていた実験のようなものです」


 姉さんはメイさんの手を握る手が強くなる。


「あとは、そうですね。カグラ様の分のケーキを内緒で食べたことやカグラ様があとで食べようとしていたクッキーをいただいたこともありましたね」


 姉さんは手を離しメイさんの顔を覗き込む。


「……メイさん」


「なんでしょうか?」


「ギルティ―」


 そんな姉さんの言葉に姉さんを除いた俺たちは思わず笑ってしまう。


「……そうですね。確かに私の罪は深いです」


「そうだよ。私すごく楽しみにしてたんだからね。だからメイさんは私にケーキとクッキーを作ってね」


 姉さんはすごくいい笑顔をする。


「…………わかりました。最高のお菓子を作りますよ」


 そうして二人の話に一旦区切りがつき、俺のほうも出来上がった。


「月奈」


「はい。『オーバーヒール』」


 月奈はメイさんに向けて回復魔法をかける。

 メイさんは魔法により体を動かせるようになったようで起き上がる。

 そんなメイさんに俺は出来上がった物を渡す。


「これは、ネックレスですか?」


 そう、俺が作ったのはネックレス型の魔道具。

 聖白花を素材に使ったことにより、身に着けている者に対しての呪いを打ち消す効果を持つ。


「すごい、ですね。まさかこの短時間にここまでの物を作るとは。ですが……」


 メイさんは俺たちに顔を向ける。

 まぁだいたい何を言いたいかは分かる。

 ようするに、


 私なんかがこんな魔道具を貰っても良いのか?


 ということだろう。


「お菓子」


「……え?」


「俺たちにもお菓子作ってくださいよ。それはそのお礼の前払いってことで」


 俺のそんな言葉にメイさんは驚いた表情をする。


「そうですね。私もメイさんのお菓子食べたいです。それに兄さんのアクセサリーは今結構人気になってるんですよ?メイさんはもっとおしゃれしたほうがいいと思ってましたし、つけてみてくださいよ」


 月奈はメイさんにネックレスをつけるよう催促する。


 そんな俺たちに押され、メイさんは涙を流しながらネックレスを身に着ける。


「あっ、すごい。体が楽に……」


 メイさんはよっぽど奴隷紋による呪いが辛かったのか、俺たちを騙していたことが辛かったのか、おそらく両方だと思う。

 そんな二つの辛いことから解放され、涙をぼろぼろと流す。


「うっ、うっ。本当にこんな私を許してくださるんですか?」


 メイさんのそんな言葉に、俺たちは当たり前だと口をそろえて言う。


「あり、ありがとうございます。ほんとに、ほんとうに……」


 俺たちは、メイさんが泣き止むまで寄り添っていた。













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