第62話 奴隷の国の異変

 俺たちはしばらく聖白花の花畑で遊んだ後、最後の依頼の魔物を探しに向かった。


「姉さん、月奈、そっちに行ったぞ!」


「オッケー!いくよフィート!」


「ミャ!」


 俺が誘導した魔物を姉さんとフィートが足止めをする。


「今だよ、月奈ちゃん!」


「はい、任せてください!『シャイニングバレット』」


 そしてその魔物を月奈が魔法で一掃。

 完璧な連携で最後の依頼の魔物もすぐに倒し終わった。


「よし。終わったね」


「はい。ですがもうへとへとです」


「そうだな。帰ろうか」


 俺たちは、そうして国に戻った。











 _____________________


「おう兄ちゃんたち。お疲れだな」


 俺たちが依頼の完了を伝えるため冒険者ギルドに入るとギルドマスターが出迎えてくれる。


「えぇ、まぁ今回の依頼はちょっと面倒だったので」


 俺の言い方や姉さんたちの表情からだいたいのことを感じとったのか、ギルドマスターは苦笑いをしながら依頼達成の処理をしてくれる。


 そんな作業中にギルドマスターは思い出したように姉さんに話す。


「そういえば、さっき国からカグラの嬢ちゃんに戻りしだいすぐに城に帰ってきてくれって連絡が来てたぞ」


「そうなの?じゃあわたしは一足先に戻るけど、あとは……」


 俺と月奈は顔を見合わせ、姉さんの言いたいことを察し頷く。


「あとは俺と月奈で大丈夫ですよ」


「はい。姉さんは先に戻っていてください。私たちも終わり次第すぐ戻るので」


 姉さんは俺たちの言葉に笑顔で頷き、小走りでギルドを出ていく。


「分かった。あとはよろしくね」


 そうして姉さんがギルドを出て、ギルドマスターが依頼達成の処理を進めて終わらせてくれる。


「よし。これで完了だ。……にしても兄ちゃんも嬢ちゃんも最初に来た時から随分と冒険者ランクが上がったな」


 この国に来てから暇があれば依頼を受けるのが日課になっていたからな、今だと冒険者の中でも上級に該当するBランクまで上がった。


「そうですね。このギルドでかなりの依頼をこなしてきましたからね」


「ふっ、そうだな。二人はもう、うちのギルドのエースだからな」


 そんなことを話していると、依頼が終わったのか数人の冒険者が入ってくる。


「うーすマスター。依頼おわったぞ。っと、これは冷夜さんと妹さんお疲れ様です」


「仕事だな。兄ちゃんたちはどうする?」


 そろそろ人も増えてきたし依頼も終わったし、


「俺たちはそろそろ戻るか」


「そうですね。姉さんにもすぐ戻ると言いましたし、行きましょうか」


 俺たちが冒険者ギルドを出ようとした瞬間、


「ぐ、あぁぁ!!?!?」


「ひ、きゃぁあああ!!!!?」


 突然、ギルド内から悲鳴が飛び交う。

 それもすべて奴隷から。


「これは、……月奈!」


「はい!『鑑定』」


 月奈は俺の意図を瞬時に理解し、鑑定を使い奴隷たちを診る。


「あの、冷夜さん……」


 奴隷を持つ冒険者たちが心配した顔で俺に近づいてくる。


「いったん落ち着け。月奈、どうだ?」


「……兄さん、この子たちが付けてる首輪を見てください」


 俺は月奈の言葉に従い奴隷の首輪をよく観察する。

 そうしていると、首輪から薄っすらと魔力が空中に放出されているのが見える。


「これは……あれ、でもこれって首輪の本来の機能だ」


 てっきり首輪に後付けで細工がされているのかと思ったが、これは元から首輪の使用者から魔力を抜き取ることを前提として設計されている。


「しかもこれは、呪いか?」


 この魔力を抜き取る機能は呪いによるものだ。


「はい。それも悪魔などが使う高位の呪いです」


 悪魔の呪いか。

 この首輪は国から支給されているもののはずだ。

 そんなものに呪いを付与できるとなると、国の上位部が関与している可能性が高いな。


「なんて今は考えてる場合じゃないか。月奈、回復か浄化の魔法は通じるか?」


「魔法ですか。やってみます!」


 月奈は数種類の魔法を発動していく。

 だが、


「ダメですね。多少は効いているようですが、……このままやっていても埒があきません」


 このままだと奴隷の子の魔力が尽きた瞬間、下手すると死んでしまうかもしれないな。

 だが悪魔の呪いを解くなんて……!


「どうしましたか兄さん?」


 月奈は突然、複数の道具を机に並べる俺に何をしているのかと聞く。

 それもギルドマスターや他の冒険者たちも同様に。


 俺はそんなみんなに手を止めることなく説明をする。


「月奈。その状態は悪魔の呪いのせいなんだな?」


「はい。この首輪に込められている呪いのせいと見て間違いないです」


 月奈の確信を持った言葉を聞き、俺は道具の準備を終える。


「それなら、これが効くんじゃないか?」


「なるほど聖白花ですか」


 月奈は俺から聖白花を受け取り奴隷の子に近づける。

 すると、


「あぁっ!あぁぁ……」


 少しづつだが魔法よりも確実に効果的に呪いに対抗している。


「さすがは兄さん。効果ありですね」


「あぁ、だが聖白花も今俺が持っている分だと全員を救えない。だから、」


 俺は目線を、ギルドマスターや冒険者たちに向け、一つの紙を差し出す。


「この場所に聖白花がある。頼めるな?」


 俺が一言、そう言うと一人の冒険者が紙を受け取る。


「えぇ、もちろんです!お前らも、冷夜さんが俺たちの奴隷を救ってくれるんだ!それにここでしっかり働いてこれまでの分の恩を少しでも返そうぜ!」


 その冒険者の言葉に、他の冒険者も感化されたのか。


「そうだな。冷夜さんにはお世話になってるし」


「月奈さんに少しでも恩を返すチャンス!」


「ここで活躍すれば舎弟にしてもらえるかも!?」


 などとやる気になってくれている。

 ただ舎弟も弟子も取る気は無いが。


「よし。行くぞ!」


「「おぉー!!!」」


 みんな走って冒険者ギルドを出ていく。


「さて、それで兄ちゃんはそんな道具を出してどうする気なんだ?」


 ギルドマスターは苦しむ奴隷の子たちに聖白花を使っていきながら聞く。

 確かに聖白花そのままでも効果はある、だがそれもいつまで続くか分からないし追加の聖白花もいつ来るか分からない。


「なんで聖白花の効果の増強と、範囲の拡大をする魔道具を作ります」


 俺は早速作業を開始する。


 一応こういった効果の魔道具の案は師匠に魔道具作成を教わっていた時から考えてはいた。

 だから実際には一から作るというより頭にある設計図通りに組み立てていくだけ。

 と言ってもぶっつけ本番であることは変わりないのでどこまで機能するかは分からないが……。


 そんなことを考えている間にも魔道具は完成する。

 機能としては聖白花の効果を霧のような形で部屋の中全体にいきわたるようにするものだ。


「頼むぞ機能してくれ」


 俺が聖白花を入れ魔力を流すと思った通りに霧が発生し、部屋の中にいる苦しんでいた奴隷たちが落ち着いていく。


「よし!あとは定期的に魔力と聖白花を入れてくれ。それとギルドマスター。この現象、たぶん国全体で起こっていることだ同じ魔道具をいくつか渡しておくから上手く使ってくれ」


 俺は魔道具と持っているほとんどの聖白花をギルドマスターに渡す。


「あぁ、それは任せてくれ。だが兄ちゃんと嬢ちゃんはどうするんだ?」


 ギルドマスターの言葉に俺と月奈は目を合わせて頷き、


「「姉さんの元へ!」」


 城に向かってギルドを後にした。

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