第61話 義姉兄妹と聖白花


「きゃぁぁぁっ!!!」


「姉さんー!!!」


 月奈は落ちる姉さんに手を伸ばすが、虚しくその手は空を掴む。


「兄さん!」


 月奈はすぐさま崖下から俺に目を移す。


「分かってる。任せろ!」


「ミャ!」


 フィートも飛び降りようとする。


「フィート。お前が姉さんを助けたいのは分かるが、今は月奈を守ってくれ。姉さんは俺に任せろ!」


「ミャ………ミャァ!!」


 フィートは一瞬悲しそうな顔をしたものすぐに俺に任せたというような顔で鳴く。


 そして俺はすでに準備していたブーツの魔力を開放し、崖下にダイブする。


「姉さん!」


「冷、夜くん……」


 俺は姉さんに追いつくと姉さんの腕を掴んで抱き寄せる。

 このまま上に上がるには姿勢が悪いし、姉さんのために一旦そのまま崖下の地面にゆっくりと着地する。


「大丈夫ですか?姉さん」


「うん。ちょっと怖かったけど、大丈夫。ありがとう冷夜くん」


 姉さんは笑ってお礼を言う。

 姉さんがそういうので俺は姉さんを地面におろす。


「いやー。改めて見ると結構高いところから落ちたね」


 姉さんは崖を見上げる。

 俺も姉さんと同じように崖の上を見上げると月奈がこちらを覗いて手を振る姿が見える。


「姉さん。大丈夫ならそろそろ上に戻らないと月奈が……」


「冷夜くん。こっち見てみて」


 俺が言い終わる前に姉さんは森の中に入り、何かに心を奪われたようにつぶやく。

 そんな姉さんのつぶやきに俺は素直に従い森の中をのぞく。


「これは……。俺たちだけで見るのはもったいないですね。月奈を連れてきますよ」


 そこにあった物は姉さんや俺を驚かすだけの物だった。

 俺は姉さんが崖の上から落ちたとういことが頭から吹き飛ぶほどに俺は月奈にも早くこの景色を見せたいと思い崖を上る。


「兄さん。姉さんは無事……」


「あぁ、大丈夫だ。それよりもすごいものがあった。降りるぞ!」


「え?兄さんちょっと……」


「ミャ!」


「あぁ、フィートも来い!」


 俺は月奈の言葉を最後まで聞かずに月奈を抱きかかえ崖から飛び降りる。

 そしてフィートともに崖下に着くと月奈をその場におろす。


「あのですね兄さん。せめて説明くらいしてくださいよ」


「わるい、わるい。だがこの先の景色を見ればなんで俺が説明なしに飛び降りたか分かるはずだ」


「景色ですか?って、姉さん!大丈夫ですか?」


 月奈は姉さんの隣に駆け寄る。


「あはは、月奈ちゃん。ごめんね。心配かけちゃったね。わたしは大丈夫だから。それよりも、この景色を見て!」


 元気そうな姉さんを見て月奈は安心をしながら、姉さんに言われた通り景色を見る。

 その瞬間、


「これは………。すごいですね」


 俺も月奈や姉さんの隣へ歩く。


 そしてその目の前には、辺り一面にきれいな白い花畑が広がっている。

 それは本や絵の世界でしか見たことがないような、現実ではないのではないかと思えるほどの景色。


「この花は、たしか聖白花せいはくかという希少な花ですね」


「聖白花?」


 姉さんはしゃがんで足元の聖白花を眺める。


「はい。魔力の濃い地域にしか生息せず、アンデットや悪魔などに効果的だという花です。まさかこんな大量に生息してる場所があるなんて驚きですね」


 月奈は姉さんと同じようにその場にしゃがみ聖白花を撫でる。


 月奈の言葉を聞いて思い出したが確か師匠がそんな花のことを話していた気がする。

 そしてその花がアンデットや悪魔に対抗できる武器や薬の素材になるということを言っていた気がする。


「なぁ月奈。この花少し採取していってもいいと思うか?」


 俺の言葉に月奈は一面を見渡しすこし考えた後、


「兄さんが必要と思うならいいと思います。ただ常識的な範囲内ですが」


「それはそうだな。じゃあ俺は少し採取してくるから二人は休んでいてくれ」


 俺はにあたりの聖白花を比較し品質の高そうなものを選んで取る。


 比較をするといってもどれもかなりの品質の物ばかりだ。

 どうして希少な花がこんなにも生息しているのかは疑問だが、今はこの希少な花に会えた奇跡を喜ぼう。


「よし。月奈に言われて通りあまり多く取るわけにもいかないし、なによりこの景色は壊したくないからな。これくらいにしておくか」


 俺は採取もほどほどに二人のもとに戻る。

 そこでは、


「ここをこうして、完成です」


「おぉー、月奈ちゃん器用だね!」


 二人が楽しそうに聖白花で花冠を作っている姿があった。


「あ、冷夜くん。どう?月奈ちゃんが作ってくれたんだ。似合うでしょ?」


 姉さんは花冠を見せて感想を求めてくる。


「ミャ―」


 そしてフィートも同じように小さい花冠を頭に乗せている。


「姉さんもフィートも似合ってますよ。それに、」


 俺は自分用の花冠を作り頭に乗せる月奈を見る。


「月奈も。よく似合ってる」


 俺がそう言うと月奈はにっこりと笑って小さい花の輪を差し出してくる。


「ありがとうございます。そんなほめてくれた兄さんにはこれをどうぞ」


「これは、腕輪か?」


 すでに両腕が埋まっている俺だが、月奈がくれるならつけておこう。


「ありがとな。月奈」


「いえいえ。それで、もう少し休んでもいいでしょうか?」


 まだ依頼は残っているが、


「フィート、いくよ!」


「ミャ―!」


 姉さんが花輪を投げてフィートが追いかけるフリスビーのようなことをしている。


「今日は姉さんが外で自由に遊べる日だからな。もう少しくらい遊んでもいいだろ」


「はい。では私たちも混ざりに行きましょう!」


 俺は月奈に手を引かれながら、姉さん、フィート共にしばらく花畑で遊んだのだった。


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