第57話 義兄妹と奴隷の国の冒険者ギルド②

 俺と月奈が姉さんたちの元に向かうと、姉さんはこのギルドの職員らしき男の人と会話をしていた。


 そんな姉さんは俺たちが来たのを見て、声をかける。


「いやー。二人とも災難だったね」


「まったくですよ…」


 俺は姉さんの言葉にため息をつきながら同意する。


「それよりも、そこの人は?」


 俺はカウンターの向こうに居るギルド職員のような男を見る。

 職員にようなという言葉をつけたのは、明らかに職員よりも冒険者側だろという姿、格好、筋肉量をしているから。


「え?あぁ、こっちの人はねこのギルドのマスター」


 どうやら職員超えてギルドマスターだったらしい。


 そのギルドマスターさんは俺と月奈に目を向ける。


「はじめましてだな。俺はこのギルドのマスターをしてるもんだ。さっきはうちのもんが迷惑かけたな」


 ギルドマスターは俺たちに頭を下げてくる。


「いや、べつにあなたが悪いわけじゃないから。顔を上げてください」


 俺がそう言うとギルドマスターは顔を上げる。


「そう言ってくれて助かる。しかし兄ちゃん、見た目に似合わず随分とえぐい殺気を出すもんだな」


 ギルドマスターが言うと、姉さんは首をかしげる。


「殺気?冷夜くんそんなの出してたの?」


 そんな疑問にいち早く答えるのはメイさん。


「はい、確かにすごい殺気でした。ですが、私やカグラさま、月奈さまそしてあの場に居た子供の奴隷を避けて放っていました」


 メイさんは細かく説明してくれる。

 だが、避けていたはずのメイさんが解説できるということはどうやらメイさん殺気を感じとる能力が高いらしい。


「え、すごい!冷夜くん、優しいね」


 姉さんは俺に向かって「すごい、すごい」とほめてくれる。


「いや、そんな…」


「ええ、姉さんの言う通り。兄さんはすごくて優しいんです」


 俺が「そんなことない」と言おうとしたのを月奈に阻まれる。

 そして月奈は姉さんと一緒に俺「すごい、優しい」と連呼する。


「二人ともそのへんでやめてくれ。それよりも、ここに来た本来の目的を果たさないと」


 俺は二人の「すごい、やさしい」連呼を止め、ギルドマスターに目を向ける。


「あぁ、そうだな。カグラの嬢ちゃんの話だと遺跡に行くからその付近の依頼を受けたいんだったな」


 ギルドマスターはカウンターの下を探り出す。


「えーと、どれだったかな……」


 ギルドマスターがしばらくそんな様子でいると、カウンターの奥の方から首輪をつけた男の子が出てくる。


「ギルドマスター、これじゃないですか?」


「おお、ほんとだ。ありがとな」


 ギルドマスターは男の子から数枚の紙を受け取り、カウンターの上に置く。


「この中から選んでくれ」


 俺はカウンターの上に置かれた紙を手に取り、流し読みをする。


「どう?冷夜くん」


 姉さんは俺の後ろから顔を近づけ依頼の紙を見る。


「いや。俺だとよくわからないですから、姉さん選んでください」


「そう?じゃあ、お姉ちゃんに任せてもらおう!どれにしようかな~」


 姉さんは月奈やメイさんと共に依頼の紙を楽しそうに見る。

 そんな中俺はギルドマスターに声を掛けられる。


「兄ちゃんいいのか?カグラの嬢ちゃんは結構無茶な依頼を受けるぞ?」


「そうなんですか?まあ、あの中なら問題は無いですからいいと思います」


 俺がそう言うと、ギルドマスターは俺の顔をまじまじと見る。


「あの?」


「あぁ、悪い。さっきよく分からないと言っていながらしっかりと見ているんだなと、思ってな」


「……まあ、できる限りの危険は無くしておきたいので」


「なるほど。あの二人が言うように、兄ちゃん優しいんだな」


「ギルドマスターまで、やめてくださいよ」


 俺とギルドマスターがそんな会話をしていると、さっきの男の子が紙の束を持ってギルドマスターに近づく。


「ギルドマスター。表から依頼の追加です」


 男の子はギルドマスターに紙を渡すと、ギルドマスターはハンコを押し始める。


「おう、……よし。あとは頼む」


「はい」


 男の子はギルドマスターから紙を受けとり奥の方へ戻っていく。

 俺はその光景を見て疑問に思ったことを聞く。


「あの子は?」


「ん?まぁ、見ての通り奴隷だが……。そういえば兄ちゃんは最近この国に来たばかりなんだっけ?」


 俺はギルドマスターの言葉に頷く。


「見ての通りだが、この国は奴隷の者、そして奴隷を持つものが多い。そしてそれは冒険者にも言えることだ。さっき兄ちゃんが助けた子も首輪つけてただろ?」


 確かに、ギルドマスターの言う通りあの子は首輪をつけていたな。


「でも、どうしてあんな子供を?」


 俺が聞くと、ギルドマスターは難しい顔をする。


「理由はいろいろあるが、主には金が無いからだな」


「金ですか?」


 俺が聞き返すとギルドマスターは頷き話を続ける。


「あぁ、冒険者が奴隷を買うのにはいくつか理由がある。例えば食事を作らせる、魔物と戦わせる。あとは……まぁ、そういうことに使われる。だがそういうのが出来る奴隷は値が張るからな。だからこそ、まだ値段が安い子供の奴隷を買って育てるということをするんだ」


 なるほど。

 この国の人は随分と長い目で見て買うらしい。

 だが俺の質問の答えにはなってない。


「でも、ギルドマスターは金に困ってるようには見えませんが?」


「確かに。俺は金には困ってないな」


「なら、あの子は?」


 俺が聞くとギルドマスターは数秒口を閉じ、再び口を開く。


「……単刀直入に言うと、死んだ冒険者の奴隷だ」


「…なるほど。奴隷の購入者が死んだ場合はギルドマスターに所有権が移るんですか?」


 重たいギルドマスターの言葉を、俺がこうして返すと、心底驚いたという風にギルドマスターは俺を見る。


「兄ちゃん、ずいぶんと軽く返すな。まぁ、いいが。さっきの質問だが、事前に他の奴に所有権を移すということをしていなければ、冒険者ギルドからの依頼を受けて死んだ場合はギルドの一番上の立場、つまりこのギルドなら俺に所有権が移るな」


 つまりギルドを通したときに限りギルドマスターに所有権が移るのか。

 それだと、危険の多い冒険者だとそこそこの数の奴隷がギルドマスターに集まる気がする。


「確かに数はいるな。だが、俺だって面倒を見切れるわけじゃない。だから何人かはさっきみたいにギルドで働いてもらったり、知り合いのところで働いてもらったりしてるな」


 働かざる者食うべからずって感じだな。

 まぁ、さっきの子を見てる限りだとギルマスの方が働けてない気がするが。


「ちなみに、それ以外で死んだ場合は購入した奴隷商のところに戻る。あとは、奴隷の首輪が何らかで壊れた場合は、自由になれるな」


「それなら、自分から壊そうとする者もいるんじゃ?」


「いや、首輪はそう簡単に壊せるような物じゃないんだ。なんといっても、奴隷の首輪は魔道具だからな。それに、壊そうなんて思えば首輪から強烈なダメージが奴隷に与えられるようになってる」


 どうやら、奴隷の首輪はよく出来た最悪の魔道具のようだ。


「それに、こんな首輪より強力で壊せない奴隷紋なんて物ある。これは奴隷の首輪の上位互換だな。特殊な魔道具を用いてつけられる奴隷紋は目には見えず、壊すこともできないから、上玉の奴隷によく使われるな」


 そして奴隷の首輪を超える魔道具、こんな物を悪用されてはたまらないな。


「ま、どっちもそう簡単には手に入らないし、ちゃんと管理されてるから悪用されるのはほとんど無いな」


 そんなことをギルドマスターと話している間に、姉さんたちは受ける依頼を決めたようだ。


「ギルドマスターこの依頼でお願いしますー」


 姉さんは依頼の紙をギルドマスターに渡す。


「はいよ。それじゃあギルドカードを出してくれ」


 その言葉に、姉さんとメイさん、そして俺と月奈もギルドカードを取り出す。


「……よし。確認完了だ。それじゃあ気を付けてな」


 俺たちはギルドマスターに見送られ、冒険者ギルドを出る。

 だがその前に、もう一つ気になったことを聞く。


「そういえば、あの子が言ってた表って何ですか?」


「あぁ、それは依頼のやり取りだけをやる場所だ。いま兄ちゃんたちが居るのは荒れたやつが多くて飲み食いをする裏だな。普通は静かな表から入るから、わざわざ裏から来て依頼受ける奴なんていないが、カグラの嬢ちゃんはどうにも覚えてくれないんだよな」


 なるほど。

 前に行った冒険者ギルドとあまりに違うのは国のせいだと思っていたが、どうやら普通の方もあるらしい。


「次からは表から入ろう」


 俺はそう心に誓い、冒険者ギルドを後にするのだった。


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