第56話 義兄妹と奴隷の国の冒険者ギルド


 奴隷の国に着き王との話をしたのも昨日のこと、俺たちは姉さんの部屋で暇を持て余していた。


「……暇だ」


 俺は現在椅子に背を預けながら風魔法を使い部屋の中の空気を循環させるという、魔法の特訓けん暇つぶしをしている。


「冷夜くん、それもう何度目かの「暇だ」だよ。二人ともこれまで大変だったんだkらこういうときはゆっくりと休みなよ」


 姉さんはフィートを撫でながらあきれたように言う。


「あはは。ここ気を張る機会が多かったですからね。逆にこういうゆっくりとした時間は落ち着かないんですね。二人ともお茶いれますけどどうですか?」


 俺と姉さんは月奈の言葉に頷き、月奈はお茶を入れ始める。


「はい、どうぞ」


 月奈はお茶を入れたカップを渡してくれる。


「サンキュ、月奈」


「月奈ちゃんありがとう」


 俺たちはお茶を飲み、ふぅー、と一息つく。


 そして、


「……暇だ」


 また、最初に戻る。


 と、いうことは無く不意に扉がたたかれる。


「誰だろう?はーい、どうぞ」


 姉さんが首をかしげながら返事をする。

 すると、扉が開きメイさんが部屋に入ってくる。


「失礼いたします」


「メイさん。どうしたの?」


 メイさんは姉さんの目の前の椅子に腰をかける。


「はい。実は、昨日冷夜さまと月奈様が話された神装に関連するかもしれない遺跡の情報を得まして、もしよろしければこれからその遺跡にと…」


「本当ですか!よし、月奈!」


「はい。すぐに準備しますね」


 月奈は腕輪から杖や帽子を取り出す。

 俺も、剣やコートを取り出す。


 そんな俺たちを横に姉さんは立ち上がる。


「ねえメイさん、それわたしも行っていいの?」


「はい。すでに王にも許可は取ってあります」


 姉さんは「やった」と喜び、すぐに部屋の置くにある装備を取ってくる。


「よし、準備完了。それじゃ行こうか!」


 俺たちは、嬉しそうに言う姉さんを先頭に城からでるのだった。






 _____________________________


「それで、俺たちは遺跡に行くんですよね?」


「はい。その通りです冷夜さま」


「なら、どうして俺たち冒険者ギルドに来ているんですか?」


 そう、俺たちは現在セカン王国の冒険者ギルドに来ている。


 その理由は、


「せっかく遺跡まで行くんだからその付近の依頼も受けたいでしょ?」


 という姉さんの要望からだった。


「カグラさまは勇者ですから、あまり多く外に出ることは禁じられてますから。せっかくの外に出られる機会は出来るだけ多くのことをしたいのでしょう」


 メイさんの解説を聞きながらも、俺たちはギルドに入る。


 そこは、


「あぁっ!!」


「てめえ、いま何っつった!?」


 怒号が響き渡り、酒の匂いも充満している見るからに治安の悪いやべー場所だった。


 ひとまず…。


「あの、兄さん?」


「いいから、絶対俺から離れるなよ」


 俺は月奈を抱き寄せるように手を繋ぎ、帽子を深くかぶせる。


「あの、姉さん。本当にここ冒険者ギルドなんですか?」


「?、そうだよ。いつも、みんなこんな感じだし。あ、できるだけ端っこ歩いてね、なんか飛んでくるときあるから」


 どうやら姉さんはこのギルドの雰囲気に違和感を持っていないらしい。

 俺は一応と思ってメイさんにも目を向けるが、


「あの、メイさん?」


「ええ、カグラさまの言う通りここはいつもこんな感じです。ファスト王国の方とは全然違いここはあまり治安のいい国とは言えませんから。必然的に冒険者もこんな人ばかりです」


 どうやら国の違いらしい。

 それでもここまで酷いとは。


 俺たちは変なのに絡まれないよう出来るだけ隅の方を歩く。


 だが、あちらさんたちは随分荒れているようで、偶然にも投げられた酒瓶が飛んでくる。


 それも俺たちのすぐ後ろ、首輪をつけられた小さな子供の方に。


「危ない!」


 最後尾を歩いている月奈が子供をかばおうために子供の前に立つ。


「月奈ちゃん!」


 姉さんは声を上げ、鞭に手をかける。

 同じようにメイさんも月奈たちを守ろうと足を踏み出そうとしていた。


 だが、それよりも俺が月奈の前に立つ方が早かった。


「『ウィンド』」


 俺は片手を突き出し、風魔法により、酒瓶の速度を落とす。


 そしてそのまま酒瓶は俺の手に吸い込まれるように落ちる。


 その光景を見た、姉さん、メイさんを含めたその場にいる全員、そしてその空間が静かになる。


 だが、俺はそんなことは気にせずに酒瓶を近くの机に置く。

 その時ドンッというでかい音を立てたが割れてはいないので気にしないことにする。


 そして俺は酒瓶を投げた男と、そいつと言い争っていた男を見る。


「「ひっ…!?」」


 おかしい。

 ただ見ただけなのにずいぶんと怯えられている。


「おいっ!」


「「ひっ。はっ、はい!」」


 やはり怯えられている。

 だが、男たちの酒は抜けているしちょうどいいだろう。

 酔っ払いに何を言っても通じないからな。


「言い争いも殴り合いも別に構ったりはしないが、内だけでやってろ!他に迷惑をかけるな!」


「「はっ、はい……」」


 俺は最後に威圧を使いその場にいる奴らをぐるりと見回し月奈に駆け寄る。


「月奈、無事か?」


「はい。なんともありませんよ。この子も」


 月奈がこの子といったのは首輪をつけられた小さな奴隷の女の子。


「そうか。さて、あんまりここに長居をしたくはない。行こう」


 月奈は頷き足を進める。


「あ、あの」


 だが、後ろから声をかけられ足を止める。

 声をかけてきたのは先ほどの奴隷の少女。


「助けてくれて、ありがとう」


 俺と月奈はその少女に手を軽く振り、姉さんたちの後を追うのだった。




















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